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桜ノ国編
1.桜ノ運命
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「薔薇ノ国の第三王子・オルフェオ・ローズブレイドとそなたの婚姻が決まった。そなたには明日にでも早急に、薔薇ノ国に向かって貰う」
父上から告げられた衝撃の発言に、私は言葉を失った。
桜ノ国の王女・真桜
通称、桜姫と国の者達は私のことを皆そう呼ぶ。
東に位置する桜ノ国は小国ながら歴史が深く、他国からは世界最古の国なんていわれている。
かつては栄華を極めた時代もあったが、今はもう遥か遠い昔の話だ。
長きに渡って桜ノ国は、戦争もなく平和で豊かな国だった。
--はずだった。
「そなたも知っての通り近頃、梅ノ国の奴等が我が領土を狙って侵略を始めた。そして先日、遂に国境付近の花笠村が奴等に占領された。梅ノ軍が王都に進軍するのは時間の問題じゃ」
--梅ノ国
突如、我が国に牙を向けた隣国だ。
元々、桜ノ国と梅ノ国は同じ一つの国だった。
だが今から百年前に、当時の王子二人が王位を巡って対立し、遂には戦にまで発展したという。
結果は兄が勝利を治めて、見事王位に就いた。
一方で戦に敗れた弟は、彼を支持する者達を引き連れて、命からがら桜ノ国を脱出した。
そして弟を君主として、西隣に新たな国を建国した。それが梅ノ国だ。
それ以来、冷戦状態だった梅ノ国が今になって突如、統一を掲げて我が国に侵略行為を始めたのだ。
梅ノ国も我が国と同等の小国ではあるが、長きに渡り戦争もなく平和だった桜ノ国が、虎視眈々と準備を進めてきた梅ノ国に敵うはずもなく、厳しい戦況に立たされていた。
絶句をするわたしをよそに、父上は話を続ける。
「そこでだ。大国である薔薇ノ国に同盟を申し出たという訳じゃ。薔薇ノ国は同盟を結ぶ代わりに、そなたと第三王子との婚姻を要求してきた」
--薔薇ノ国
百合ノ国と並ぶ大国で、我らが住むフロール大陸の二大勢力の一つだ。
東に桜ノ国、梅ノ国
西に薔薇ノ国、秋桜ノ国、蒲公英ノ国
南に蓮ノ国、向日葵ノ国、紫陽花ノ国
北に百合ノ国、椿ノ国、水仙ノ国
フローラル大陸は、十一つの国々から形成されていた。
この二カ国は数百年にも渡り覇権争いを繰り広げていたが、今から五年前に両国の間に和平条約が結ばれて、長い戦いに終止符が打たれたと聞いている。
さすがの梅ノ国も二大勢力の一つである薔薇ノ国と同盟を結んだ桜ノ国には、一切の手出しができなくなる。
つまりは、政略結婚という訳だ。
「で、ですが父上!私には以前からお慕いしているお方が……」
私は、意を決して訴える。
「大和のことか…そなたの気持ちは存じておる。だがこれもすべて民を守る為なのじゃ」
大和…その名を耳にした途端に胸がギュッと痛くなった。
「ですが突然そんなことを言われても困ります。明日にでも桜ノ国を発てだなんて父上、いくらなんでもあんまりですわ」
「これはもう既に決まったことなのじゃ。オルフェオもそなたの到着をさぞ心待ちにしておるだろう」
「で、ですが……」
「桜姫よ。そなたはもう少しばかり賢い娘だと思っておったが、とんだ見当違いだったようじゃな。そなたはただのしがない町娘ではなく一国の姫なのじゃぞ!自分の我儘が許されると思うでない!王族としてこの世に生を受けたからには、我々には民を守る義務がある。そなたは今までいったい何を学んできたのじゃ!」
父上の迫力のある怒声が、玉座の間に響き渡る。
(私だって好きで姫として生まれた訳ではないのに)
思わず口から出そうになった言葉を、下唇を噛み締めグッと堪える。
これ以上は何を言っても無駄だ。
どうやら父上の下した絶対的命令は、今回ばかりは覆そうにもない。
『姫とは花のように気高く美しく凛と咲く花のようであれ』
『姫とは決して下衆な振る舞いはしてはならぬ』
『姫とは優しく慈悲深く、そして民を包み込むような光であれ』
幼きころから姫として恥じぬ様に、それはそれは厳しく躾られた。
姫として国や民のために生きよと呪いのように言われ続けて育った。
だからこそ父上がどれだけ民を大切にしてるのか、私には痛いほど分かっている。
父上も民を守るために必死なのだ。
たとえ、娘を犠牲にしてでも。
だから--
「承知しました」
そういう他なかった。
父上から告げられた衝撃の発言に、私は言葉を失った。
桜ノ国の王女・真桜
通称、桜姫と国の者達は私のことを皆そう呼ぶ。
東に位置する桜ノ国は小国ながら歴史が深く、他国からは世界最古の国なんていわれている。
かつては栄華を極めた時代もあったが、今はもう遥か遠い昔の話だ。
長きに渡って桜ノ国は、戦争もなく平和で豊かな国だった。
--はずだった。
「そなたも知っての通り近頃、梅ノ国の奴等が我が領土を狙って侵略を始めた。そして先日、遂に国境付近の花笠村が奴等に占領された。梅ノ軍が王都に進軍するのは時間の問題じゃ」
--梅ノ国
突如、我が国に牙を向けた隣国だ。
元々、桜ノ国と梅ノ国は同じ一つの国だった。
だが今から百年前に、当時の王子二人が王位を巡って対立し、遂には戦にまで発展したという。
結果は兄が勝利を治めて、見事王位に就いた。
一方で戦に敗れた弟は、彼を支持する者達を引き連れて、命からがら桜ノ国を脱出した。
そして弟を君主として、西隣に新たな国を建国した。それが梅ノ国だ。
それ以来、冷戦状態だった梅ノ国が今になって突如、統一を掲げて我が国に侵略行為を始めたのだ。
梅ノ国も我が国と同等の小国ではあるが、長きに渡り戦争もなく平和だった桜ノ国が、虎視眈々と準備を進めてきた梅ノ国に敵うはずもなく、厳しい戦況に立たされていた。
絶句をするわたしをよそに、父上は話を続ける。
「そこでだ。大国である薔薇ノ国に同盟を申し出たという訳じゃ。薔薇ノ国は同盟を結ぶ代わりに、そなたと第三王子との婚姻を要求してきた」
--薔薇ノ国
百合ノ国と並ぶ大国で、我らが住むフロール大陸の二大勢力の一つだ。
東に桜ノ国、梅ノ国
西に薔薇ノ国、秋桜ノ国、蒲公英ノ国
南に蓮ノ国、向日葵ノ国、紫陽花ノ国
北に百合ノ国、椿ノ国、水仙ノ国
フローラル大陸は、十一つの国々から形成されていた。
この二カ国は数百年にも渡り覇権争いを繰り広げていたが、今から五年前に両国の間に和平条約が結ばれて、長い戦いに終止符が打たれたと聞いている。
さすがの梅ノ国も二大勢力の一つである薔薇ノ国と同盟を結んだ桜ノ国には、一切の手出しができなくなる。
つまりは、政略結婚という訳だ。
「で、ですが父上!私には以前からお慕いしているお方が……」
私は、意を決して訴える。
「大和のことか…そなたの気持ちは存じておる。だがこれもすべて民を守る為なのじゃ」
大和…その名を耳にした途端に胸がギュッと痛くなった。
「ですが突然そんなことを言われても困ります。明日にでも桜ノ国を発てだなんて父上、いくらなんでもあんまりですわ」
「これはもう既に決まったことなのじゃ。オルフェオもそなたの到着をさぞ心待ちにしておるだろう」
「で、ですが……」
「桜姫よ。そなたはもう少しばかり賢い娘だと思っておったが、とんだ見当違いだったようじゃな。そなたはただのしがない町娘ではなく一国の姫なのじゃぞ!自分の我儘が許されると思うでない!王族としてこの世に生を受けたからには、我々には民を守る義務がある。そなたは今までいったい何を学んできたのじゃ!」
父上の迫力のある怒声が、玉座の間に響き渡る。
(私だって好きで姫として生まれた訳ではないのに)
思わず口から出そうになった言葉を、下唇を噛み締めグッと堪える。
これ以上は何を言っても無駄だ。
どうやら父上の下した絶対的命令は、今回ばかりは覆そうにもない。
『姫とは花のように気高く美しく凛と咲く花のようであれ』
『姫とは決して下衆な振る舞いはしてはならぬ』
『姫とは優しく慈悲深く、そして民を包み込むような光であれ』
幼きころから姫として恥じぬ様に、それはそれは厳しく躾られた。
姫として国や民のために生きよと呪いのように言われ続けて育った。
だからこそ父上がどれだけ民を大切にしてるのか、私には痛いほど分かっている。
父上も民を守るために必死なのだ。
たとえ、娘を犠牲にしてでも。
だから--
「承知しました」
そういう他なかった。
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