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試験航海(その1)

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 天文8年(1539年)夏の終わりに近づく頃、志摩衆13家に知多半島の佐治家を加えた武田水軍が、イスパニア式大型船ガレオン5隻を中心として、習作の為生産された小型ガレオン70隻によって誕生した。

 以後彼らは武田家中で水軍衆と呼ばれる事となる。

 ただ、鉄砲と船に搭載する大砲は、未だ試作までにも到達出来ておらず、大砲を搭載するのは鹵獲した大型ガレオン5隻のみであるが、武田水軍の主兵装は武田家弓隊の標準装備となっている弩弓である。

 源太郎は、渥美半島の付け根に当たる豊橋の地に新しく城を中心にした港町を築いて、新しい時代の海外との交易関係を想定した街づくりを研究している。

 本日は源太郎を中心に水軍衆が豊橋城に集まって、ガレオンと従来の船との違いを中心に討議をしているのである。

 「水軍の各々方、本日集まって頂いたのは他でもない。ガレオンが齎す日乃本への影響と、その対策を練らんが為である。皆も知る通り、ワシはイスパニアが再び来襲してくる事を恐れて居る。そしてこう思っておる。『日乃本の地のどこが橋頭堡となってもワシ等の負けである』と。思うところを聞かせて貰いたい」

 源太郎はこう言って水軍衆の一人一人に目をとめながら話を切り出した。

 「九鬼定隆、申し上げる!ガレオンという形式の船・・・波に対して強い上、風の使い方を間違えねば速度は速く操作性も良い。お館様が懸念為される通り、他の地の水軍では手も足も出せますまい」

 「小浜時綱、申し上げまする。九鬼の言に付け加え、ガレオンに載っておる大砲・・・海の戦さには恐ろしく有効でござりましょうな」

 「お二方・・・今迄の船を使ってガレオンに対抗できる戦い方はあるであろうか?」

 源太郎は真っ先に意見を述べた二人に尋ねた。

 「「お館様、それを我ら二人だけに尋ねられましても・・・のぅ?」」

 二人は顔を見合わせて困惑の表情を浮かべる。

 「あいや済まぬ。各々方、ここでは上下は関係ない。これからの日乃本が掛かって居る故、知恵を貸して欲しい。この通りじゃ!」

 源太郎は一同に向かい、両手の拳を床に付けて深々と床につく位に頭を下げた。

 「「「「「「「「「「「「「「「お館様!お止めくだされ!!!」」」」」」」」」」」」」」」

 それを見た水軍衆は慌てて叫んだ。

 「今、イスパニアの脅威を身をもって知っておるのは我らだけじゃ。この認識を日乃本全土へ広げるには如何したらよいと思うか?幕府や朝廷は鉄砲を見せてもピンと来ぬ様であった」

 「お館様・・・荒療治でござるが宜しいか?」

 水軍衆の一人がおずおずと口を開く。

 「おお!橘殿ではないか!何でも良い!言うてみて欲しい」

 「では橘成忠、申し上げまする。船の数が増えました故、船にて日乃本全部を巡っては如何でござろうか?大型ガレオン5隻に小型ガレオン10隻にて巡れば、領内へ残しておく兵力も十分かと思われまする」

 「何か・・・気が進まぬ様であるが、懸念する事があるのか?」

 「『烏景様』お人が悪うござる。それがしが言わずとも全て解っておいででござりましょうに。今は戦国の世、各地の水軍が戦さを仕掛けて参りましょう」

 「済まぬ!ワシは水の上は解らぬ故のぅ・・・そなた達なら海の民ならではの知恵があるのかも?と、一縷の望みを繋いでおったのじゃ。やはり、それしか無いか?」

 「「「「「「「「「「「「「「橘殿の案に同意致しまする」」」」」」」」」」」」」」

 「相解った!ガレオンにて日乃本巡りを致す」

 こうして試験航海を兼ねたに日乃本巡りの旅が決定した。





 











 
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