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次世代の萌芽
しおりを挟む急激に広がった武田領を統治する為に多忙を極めている源太郎にも子が出来た。
未だ妻である蓮の方の妊娠が解った段階ではあるが、天から次の世代を託された様な気持ちがする源太郎である。
子供と言えば・・・源太郎の下には、形式的に人質の様な扱いで預かっている少年達がいるが、実際は自分の夢を見つけるべく源太郎の下へ押しかけて来た者達である。
一人目は長尾為景の末の息子・虎千代。
彼は、当時幼児でありながらも、『高野山へ行って、未だ生きていると言われている、弘法大師・空海様の弟子になりたい』という望みを語って源太郎や為景と甲斐まで同行したのち、瑞空導師の弟子となって修行している。
二人目は織田信秀の次男・吉法師(歴史上の織田信長)。
今年、天文8年(1539年)で5歳となるこの少年は、源太郎が尾張を制圧した2年前に出会い、初見から『武田の大きい兄者』と言って源太郎の傍に居たがった為、信秀から預かっているのである。
彼は外つ国イスパニアの話を源太郎から聞くと、異常な興味を示して駿河へ行くことを望んだため、現在は晴信に預けているのだが、尾張にいた頃の悪童振りは鳴りを潜めて、ひたすらに戦利品であるイスパニアの物の調査に付いて回っているのだそう。
『晴信兄者、イスパニアの調べをしましょうぞ』が口癖になっているのだそうである。
源太郎はイスパニアの事が頭から離れずにいる。
捕虜に尋問した者から聞いた話では、イスパニアは侵略志向が国是となっている王国なのだそうだ。
いずれ、日乃本のどこかへ植民地と言う橋頭堡を確保すべく攻めてくるのは間違いないであろう。
(「源太郎、案ずるでない。そなたは対処できたではないか」)
突然、始祖様が現れた。
(「始祖様、此度は突然でござりますな」)
(「まぁ、気にするでないわ。そなたはイスパニアの軍船が、他の大名の領地へ攻め入った場合の事を思い悩んでおるのであろう?」)
(「左様でございます。我が領内ならば万全でござる。されど他領となると、隣国ならば何とかなり申そうが、九州や四国の領地であったり、陸奥であったりしたら、手も足も出せませぬ」)
(「好いではないか。相手は人数が知れて居る。そなたは幕府の役職も朝廷の官位も得て居る故、上を動かせるであろうが。そうなれば堂々と、そなたの下へ軍勢を集められるであろうが」)
(「そうでござるが、根本的に解決する訳ではござらぬ」)
(「何も、そなたが背負う事は無いのだぞ。また、そなたの世代の者達だけで解決できることでもない」)
(「やはりそうでござるか。それがしとしては、早う平穏な生活が続く日を迎えたいのでござるが・・・」)
(「好いではないか。そなたの領内だけを見ても、虎千代といい、吉法師といい、有望な者達が育まれておるではないか。その者達の世代で節目を作れるのかも知れぬ」)
(「それは辛いでござる。少なくとも10年待たねばなりませぬ」)
(「源太郎、焦るでない。そなたは確実に平穏を日乃本にもたらしておるのじゃ」)
(「我が身としてみれば、その様な事感じられませぬ」)
(「人の身であるが故、できる事をするしかないのじゃ。そなたは、そのままやっておれば好い。そなたの志を受け継いでくれる者達が出て参るであろう。その者達へ仕事を作ってやる事も、今を生きている者の役目であるぞ」)
(「そうでござりまするか?」)
(「そうじゃ!そなたが何もかもやってしまっては、次の世代の者達がナマケモノになってしまうわ」)
(「始祖様、かたじけのぅござる。その様に考えることと致しまする」)
(「うむ、それで良い!」)
そう言って消えた始祖様を見送った源太郎の表情は、少しだけ緩やかになっていた。
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