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自分が幼くして死ななかった事で
しおりを挟む摂津・池田城に到着した源太郎が率いる移住の一行は、北畠晴具の勧めもあり、雪を避ける為に翌年を待って尾張へ出発する事に決まった。
その夜、就寝している源太郎の元へ始祖様が出てきた。
(「源太郎、この前の話の続きじゃ。そなたが生きた事によって、多くの命が救われて良い影響の下にあると前に言ったのぅ?」)
(「はい、確か始祖様はその様に言われましたな」)
(「済まぬ!それだけではなかったのじゃ!」)
(「はぁ?それだけではないとは?」)
(「霊界には『虚空蔵菩薩の知恵』と呼ばれる所があっての、そなたに関係した影響を調べてみたのじゃ」)
(「はぁ・・・」)
(「大まかな所は前に話した通りじゃが、細かな所も目を向けると大分変ってくる」)
(「具体的には、どこが違うので?」)
(「先ず今川との事じゃ。そなたがおらねば、駿河との平穏が訪れるのは天文10年(1541年)迄待たねばならなかった筈じゃ。その時は北条とも一緒に婚儀を結んで3国で同盟を結ぶ事になるのじゃ」)
(「神仏の予定をそれがしは5年も狂わせてしまったのですか・・・」)
(「ハハハ、5年程度気にするでない。霊界では5年など一瞬じゃ。越後などは、虎千代が元服して長尾景虎となった後の天文17年(1548年)の年末まで待たねば平穏は訪れなかった筈なのじゃ」)
(「へっ?!越後もでござりまするか?」)
(「そうじゃ、そなたが平定して新しく武田領とした所は、おおよそ10年以上早く平穏が訪れて居る」)
(「ん?!越後・駿河・遠江・三河・尾張・美濃・伊勢・志摩も神仏の予定が狂っておるのでございますか?」)
(「予定が狂っておる訳ではないのじゃが・・・そなたがおらねば、日乃本に平穏が訪れるのは、後70年以上先の話になるのじゃ。ところが、今の世は・・・九州・四国・東北は群雄割拠じゃが、中国地方は大内家・尼子家・浦上家・毛利家・宇喜多家がそなたの影響範囲に入ってきておる。関東は北条家・里見家・佐竹家が競っておるが、関東管領を争う両上杉家がそなたと関係が深い以上、そう遠くない内に平穏が訪れるであろう」)
(「始祖様、それがしの影響で日乃本がそれなりに早う平穏が来るのは解り申した。されど、良い事ではないように言っておる様に聞こえまする。何を言いたいのでござりまするか?」)
(「源太郎、そなたが此度、冬に入る時期にも関わらず、京まで上洛せねば為らなかった事と関わりが出てきおってのぅ・・・此度の事でそなただけではなく、日乃本全体に外つ国が明・朝鮮だけではない事が解った筈じゃ」)
(「はい、驚きでございました」)
(「日乃本が戦乱の苦難を経験すべきところを、そなたが戦乱を収めつつある。そなたがおらねば、ポルトガルという別の外つ国が交易を通じて『鉄砲』を日乃本へ持ち込む筈であった」)
(「されど日乃本へ来たのは、戦さを仕掛けて参ったイスパニアでござる」)
(「恐らくは、日乃本の民が経験すべき苦難として、国内の戦乱であるところが、外つ国との戦乱に振り替わってしまったのかも知れぬ」)
(「左様な事があるのでしょうか?」)
(「ワシにも能くは解らぬが、あるのであろうの。源太郎、済まぬ。ワシが軽々しく加護を与えた為に、とんでもない苦難を味あわせる事となってしもうた」)
(「始祖様、気に為さらないで下さりませ。それがし一人の影響など高々知れておりまする。始祖様が言われた影響の事、仮の話と受け止めまする」)
(「かたじけない・・・」)
そう言って始祖様は消えていった。
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