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長井新九郎・・・

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 美濃を制圧した事によって、東海道と中山道が繋がる事になる。

 甲斐・駿河・遠江・三河・尾張・美濃・信濃の順で巡れば甲斐へ戻れるのである。

 そして、甲斐から尾張へ行く場合、二通りの道を選べるのである。

 早速、源太郎は東海道と中山道の整備を命じた。

 そして、門前町の新設の為、瑞空を通じて真言宗の各寺へ僧の派遣を依頼している。

 それは、お寺の役割として、領民に対する教育機関を兼ねる為でもある。



 この様にスイスイと話が進む話があれば、進まない話もある・・・土岐一族を筆頭に、美濃の地域を領していた諸将の処遇である。



 源太郎は美濃の諸将と引見した宇佐美定満と二人きりで話していた。

 「『ワシの知恵袋』殿、土岐頼芸と土岐頼純は如何したら良いかのぅ?・・・」

 「お館様、二人きりとはいえソレは止めなされ!それがしも『烏景』様と呼びますぞ。土岐のお二方の事でございますが、美濃の者達に経緯を訪ねましたところ、家臣の中で煽っていたらしき者を突き止めました」

 「ほぅ・・・その者は何と申す?」

 「長井新九郎規秀(後の斎藤道三)という者でございます」

 「如何なる人物か?」

 「元は油売りの商人だったそうでございますが、僧の紹介により長井長弘の家臣となりました・・・」

 「待て!ワシが利いた美濃の諸将には長井長弘なる名は無かったが・・・」

 「長井長弘は土岐頼芸の家臣でございましたが、先年、不行跡により誅されまして、先程の長井新九郎がその名跡を継ぎました」

 「・・・ん?不行跡で誅されたものの名跡を継ぐとは・・・考えて居る事が解らぬ人物じゃのぅ」

 「そうでございますな。その人物に関して、解らぬ事は更に一つございます」

 「何じゃ?」

 「土岐頼芸から側室を拝領しておりますが、賭けを持ちかけて奪い取ったという話がございます」

 「ほぅ、怪しいにおいがプンプンしておる御仁じゃのぅ」

 「土岐頼芸側に居りました故、処断致しまするか?」

 「それだけでは、そうもいくまいの。何か罪なる事の証拠はないのかのぅ?」

 「ございませぬ」

 「係累の者はおらぬのか?」

 「その元側室の弟が、それがしの説得にて降りました稲葉良通でございます」

 「美濃の諸将とは一人一人会う事を約して居る故、その御仁にも合わねばならぬ。何と言ってくるかのぅ?」

 「その様に、楽しそうな笑みを浮かべながらの困り顔は、言葉の説得力を欠きますぞ・・・」

 





 源太郎による引見は、宇佐美定満と織田信秀が脇に控えて行われている。

 引見の番が長井新九郎に回った。

 「長井新九郎殿、ワシが美濃の統治をそなたの主君から奪い取った事、さぞかし不満であろうの?」

 「はい、不満でございまする」

 「そうであろう。いずれの時期が来れば美濃の主となるつもりであったからであろう?」

 「はあっ?!なにを言われておるのか・・・」

 「ハハハ、顔に書いてある故、誤魔化しは効かぬぞ。『自分が美濃の主であれば武田に渡さなかった』とのぅ。更には『今少し時があれば美濃を奪えた』とのぅ。商人上がりと聞くが、心が顔に出過ぎじゃ。ハハハ」

 「ハハハ、左様でございますか?・・・で、それがしを処断なさると?」

 「ハハハ、勿体無いのぅ。欲が己のみの範囲にとどまって居る故、その発揮される才が精々一つの城止まりじゃ。そなたの人望次第じゃのぅ。皆が望めば助ようし、望まねば処断じゃのぅ」

 「ハハハ、それは優柔不断なお館様で・・・」

 「ん、これでも血は嫌いじゃからのぅ。ハハハ、そなたは如何して命を繋ぎたい?」

 「叶いますならば、それがし槍を以てお館様に勝負を申し入れたく・・・」

 「・・・で、そなたが勝ったならば何を望む?」

 「お館様が持つ全てのモノを・・・」

 「ほぅ?・・・そなたが領民達への責務も将兵達への責務も皆背負ってくれて、ワシを弟妹たちを愛する唯一人の兄に戻してくれるのか?ソレは嬉しいのぅ・・・」

 「はあっ?!どういう事にございます?」

 「愚か者!!!ワシがなぜ美濃に関わらねばならなかった?!ワシは平穏な世であれば美濃になんか兵を進めなかったわ!甲斐から如何程離れておると考えておるのじゃ?!そなたらが己の欲に走って美濃を混乱に陥れ、その領民の混乱が国を接する尾張・三河・信濃に影響を及ぼしてきたからじゃ!!!」

 長井新九郎に対して源太郎の怒りが頂点へ達しつつある。

 「己の欲で国盗りに精を出すのも良い。されど、領民に迷惑を掛けるでない!その者達は生活の平穏の為に、我等に税を納めて養ってくれておるのじゃ!勘違いをするでない!領民も赤い血が流れて居る人なのゃ!!!」

 長井新九郎は、自分よりも十以上も年齢が下の源太郎に気迫で完敗した。両手の拳を床について深々と頭を下げた。

 「お館様、それがしが間違っておりました。手討ちにして頂きたい」

 「相解った!期日はしばし待て!」

 「ははっ!」

 引見の初めとは違って、神妙な面持ちをして長井新九郎は下がった。


  








 
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