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儀式
しおりを挟む突然ふらりと姿を現した信虎は、躑躅が崎館に腰を落ち着けるうちに長尾為景と意気投合するようになり、今川や北条が小競り合いを仕掛けてくる度に、喜び勇んで二人で現場へ飛んでいくようになった。
一方、虎千代と佐奈・綾奈親子は、源太郎の母達や弟妹達に新しい家族同様に扱われ、館の中は賑やかな活気が大きくなった。
そんな中、躑躅が崎館の離れは躑躅堂と名付けられ、源太郎・次郎・虎千代の結縁灌頂の準備を進められている。
そして、結縁灌頂の儀式と次郎の元服式には、諏訪から満隣と養子となった大次郎頼経が列席する事を伝えてきた。久々に兄弟姉妹全員が揃う予定である。
源太郎の自室には真田幸隆と宇佐美定満もいる。最近の二人は、源太郎にとって私設秘書と言っても良い存在になっていた。
「幸隆殿に定満殿・・・今更なのじゃが、なぜワシまで結縁灌頂を受けねばならぬのかのぅ?」
「「源太郎様、簡単な事にござります。導師様のご意向だからにござります。虎千代殿も次郎様も、源太郎様が一緒となれば、心強い事でござりましょう!」」
「そうであったな・・・」
結縁灌頂の日が来た。
躑躅堂の奥には護摩壇が設けられ、その正面の導師の席の入り口寄りに、二つの大きな曼荼羅が、人が通れる幅を開けて横に並んでいる。
晴信の時の様な簡易的な儀式ではなく、本格的な儀式を執り行われるらしく、瑞空の他に6名の僧が来ていた。
源太郎・虎千代・次郎は導師席の後ろに着座した。
儀式は『請願』から始まった。仏弟子となる誓いを最初に立てソレを述べる事である。源太郎達は教義の誓いと加え、それぞれの立場に付随する誓いの言葉を述べた。
次に『受戒』、執行役の瑞空導師から『十善戒』という10個の戒めを授けられた。
その後、護摩壇の奥に天井から吊るされ展開している二つの曼陀羅へ礼拝をしたのち、目隠しをされ印を結んだ手に榊の様な物を差し込まれた。
そして一人ずつ介助役の僧に導かれて床に敷かれている曼陀羅の傍へ行き、手に挟まれたものを後ろへ投げる事を二度行って儀式の大詰めを迎える。
源太郎の守り本尊は胎蔵界・金剛界共に大日如来、虎千代は胎蔵界が毘沙門天・金剛界が大日如来、次郎は胎蔵界が持国天・金剛界が大日如来と縁が結ばれた。
結縁灌頂の儀式が終わり、大広間へ儀式に関わった者と家族・家臣達が集まった。しかし、本日も信虎と為景はいない。
「御館様、式次第は終了致しましてございます。それがしからお三方へ道号を進呈致しまする。お館様が信暁・次郎殿が信照・虎千代殿が曙景でございます」
瑞空が儀式の終了を以上の言葉を以て伝えた。
「導師様かたじけのうございまする。心より感謝申し上げまする」
と、源太郎が言うと
「兄上も御仏のお弟子になられた訳にございまするな。『妖魔様』でなくなるのは寂しゅうござる・・・」
晴信がつぶやいた。
「晴信殿、『烏景様』は如何か?お館様は胎蔵界も金剛界も大日如来様とご縁を結ばれました。大日如来様は字の通りお天道様を司る仏様にて、お館様が為された事は領民にとってお日様でござった。故に、お日様の別の呼び名の烏景では如何?」
瑞空が晴信のつぶやきを受けて話した。
源太郎は少し顔をしかめた。
「おお!『烏景様』!良い呼び名じゃ!各々方如何じゃ?!」
晴信は思わず立ち上がって、皆に同意を求めた。
「「「「「「「「「「おお!お館様にピッタリじゃ!」」」」」」」」」」
これ以後、源太郎は『烏景様』次郎は『小入道様』虎千代は『多聞様』と呼ばれるようになる。
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