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瑞空(ずいくう)導師
しおりを挟む源太郎が帰還した翌日、朝餉を食した直後門衛からの伝令が来た。
「『御館様にお会いしたい』と瑞空と言う僧が来ております」
「相解った!スグ大広間へお通しせよ」
「はっ!承知致しました」
伝令は門衛の方へ急いで去っていった。
(瑞空様は神か仏か?ワシが使いを出そうと思っておったその時、館に来られた・・・)
「誰かある?!晴信と為景殿・虎千代殿に伝えよ!『急ぎ大広間へ来られたし』と」
「はっ!」
側仕えの内の一人が使いを立てる為に去っていった。
やがて大広間に全員が集まった。
入り口から左側に奥から長尾為景と虎千代の親子に、なぜか・・・宇佐美定満が着座している。
右側には、晴信・板垣・駒井、こちらもなぜか真田幸隆が着座している。
源太郎は(?!)と思ったが、大広間の中央に瑞空を迎えた。
「導師様、晴信の元服式以来でござりまする。ご無沙汰致し申し訳ござりませぬ。此度はまたお願いの儀があり、お尋ね致そうと思っていたところにご訪問頂き、心より感謝申し上げまする」
源太郎は当主席を離れ、瑞空の前に着座したのち、両手の拳を床に付けて深々と頭を下げた。
「ハハハ、いやいや、拙僧とした事がお館様に先を越されてしまいましたな・・・どうぞお手を上げられて席にお着き下さりませ。お話はそれからにて」
源太郎はゆっくろと頭を上げ立ち上がると、ススッと当主席に戻って着座した。
「先ずは拙僧からモノを言うべきにござりましょうが、御館様が申されました『願いの儀』を承りたいと存じまする」
「導師様にはかないませぬ。順をお譲り頂き感謝申し上げまする。導師様の左手側におられる幼児でござるが、そこにおられる長尾為景殿のお子にて虎千代殿と申されます。虎千代殿は弘法大師様のお膝元での修業を望んでおられまするが、それがし高野山に伝手が無く、導師様におすがりしようと思っておったところにござります。虎千代殿からは『導師様のお心のままに従う』と、言われております故、この願いお聞き届け頂きたくお願い申し上げまする」
源太郎は再び両手の拳を床に付けて深々と頭を下げた。そして、為景と虎千代も源太郎に倣った。
「ハハハ、お手をお上げ下され。虎千代殿の事、拙僧で良ければ承りまする。お館様は大したお方にござりまするなぁ・・・領主であるのに、お身内でもないお方の為に、拙僧へ躊躇いなく深々と頭を下げられる。誠に解らぬお方であらせまするなぁ。今までお会いした立場のある方々とは全く違いまする」
瑞空は首を傾げて微笑みながら言った。
「「「導師様、感謝申し上げまする!」」」
源太郎と為景・虎千代が再び深く頭を下げた。
「ハハハ、拙僧の番にござりまするな。甲斐・信濃・越後にて大掛かりな街道整備を成されておられる由、御仏にお仕えする身と致しましては、各国に民と往来の無事を祈願する為の寺を建立したく思っておりまする。何卒拙僧にお力をお貸し頂きたく、お願い申し上げまする」
源太郎達が頭を上げた時を見計らって、次は瑞空が頭を深々と下げた。
「おお・・・導師様、有難き事をお申し出頂き、心より感謝申し上げまする。寺が出来ますれば民達も心の拠りどころが多くなり申す。早速建立の候補地も探し申そう。力添えとなるならば、何なりとお申し付け下され」
源太郎は甲斐・信濃・越後の各領主達へ向けて協力を仰ぐ使者を立てる様、側仕えの者達を呼んだ。
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