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晴信出陣その1

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 晴信の元服の翌々日、信虎は諸将を招集した・・・と言うよりも、元服の日から続けて諸将達を留めていた。

 「各々方、よう集まってくれた。待ちくたびれた故、高遠を征伐したい。源太郎、此度は晴信を連れて参る。そなたがこの戦、差配せい」

 「御館様・・・待ちくたびれた故、攻めるとは。兵達が付いてこれませぬぞ」

 「好いではないか!そなたが高遠をどう考えておるか位、解っておるわ。一刻も早う攻めたいのは、ワシよりも、そなたの方であろうに」

 「父上!それがしを一緒にしないで頂きたい!」

 「ハハハ、これでワシをどう考えておるのか能く解ったわ!で、これは決定じゃ!雪消の間に決着したい」

 「解り申した。今から各々方に申し上げます故、この願い直ちに実行に移して頂きたく存ずる。甘利殿・飯富殿・荻原殿、穴山領にて今川との国境を固めて下され。勝沼の叔父上・小山田の義叔父上、原殿・工藤殿と共に北条との国境を固めて下され。小幡殿・内藤殿・大井の伯父上は海野平へ行き、諏訪の北側の守りを海野様・真田様と共にお守り頂きたい。馬場殿・山県殿・今井殿・栗原殿は、御館様・ワシ・晴信、じぃと駒井殿と共に高遠・飯田までお付き合い願いたい。尚、好誼を頂いておる信濃の諸家には使いを出し、戦への意向を伺う。では各々方、お願い致し申す」

 「「「「「「「「「「「「「「「ははっ!お任せあれ!」」」」」」」」」」」」」」」

 「ハハハ、鮮やかじゃのぅ。しっかり準備しておったではないか。そなたとてワシと同類ではないか」

 諸将と信濃への使者達は、昼餉を早めに取り出立していった。





 数日後、諏訪頼満の元へ武田信虎・源太郎信義が連名の文書が届けられた。

 「満隣、満隆、見よこの書面を。如何思う?」

 「父上、この満隣は信虎様と面会し、源太郎様・・・あ、いや、若殿・信義様と旅を共に致しました。武田のお館様と若殿様双方から源太郎様と呼べと指定されております故、以後源太郎様で通します。源太郎様はハッキリとは口に出されませんでしたが、高遠家を特に警戒しておられる御様子と見受けられまする。源太郎様のお望みは、信濃が平穏無事で甲斐~上野まで人と物の往来を大きく増やす事にござります。されど高遠家は諏訪家を滅ぼし、諏訪大社上社領・諏訪大社下社領を高遠家で握ろうとしております。そうなれば、武田にとって高遠は甲斐の北を抑え込む邪魔な存在。とてもではありませぬが、放ってはおけますまい。源太郎様が頭を抱える姿が目に浮かび申す」

 「満隣、ようもそこまで若殿様に惚れ込んだモノよの」

 「という事は、兄上は武田に呼応して兵を出すと・・・?」

 「父上、満隆。それがしは源太郎様が出陣なされなば我一人でも馳せ参じまする」

 「「満隣(兄上)それではまるで女子じゃ・・・」」

 「それがしは出陣いたしまする」

 「相解った!好きなだけ兵を連れて行け!」

 「父上、感謝申し上げる!」

 「兄上、それがしも行きましょう。頼重も大人になりました故、二人で言っても宜しゅうござろう」

 こうして諏訪家は3000の兵を準備し始めた。






 武田の使者が到着した小笠原家

 書面を読んだ当主・小笠原長棟は息子ら長時・信定・貞種の3名を呼びに行かせた。

 「この書面によると、武田は高遠を攻めるそうじゃ」

 「ならば、高遠を救援せねばなりますまい」

 と、嫡男・長時が口を開いた。

 「そうであった・・・長時、そなたは高遠頼継殿・藤沢頼親殿と懇意であったな。此度は特に申し付ける・・・高遠家に肩入れする事、断じてまかりならん!」

 「「「父上、なぜでござります?!」」」

 「良いか?!武田が変わったのじゃ。恐ろしく大きくな・・・」

 「されど父上、当主はあの『暴虐の人食い虎』でござりましょう?正面であしらい、他の三方から突けばたやすく勝てましょうに」

 またもや長時が口を開いた。

 「武田の若殿様は恐ろしい程の知恵者じゃ!おまけにのう、『暴虐の人食い虎』が『捻くれ虎』に変貌し居った。もう今迄の一本調子な戦の武田ではない!」

 「武田はなぜ高遠を攻めまするのか?」

 「若殿様は甲斐・信濃・上野・武蔵の人と物の往来を大幅に増やす為に、真ん中に位置する信濃の平穏を望んでおいでじゃ。されど高遠は諏訪を滅ぼすつもりゆえ、それでは信濃が安定せぬ」

 「「「ならば、責めてもの志にて高遠へ知らせの遣いを・・・」」」

 「それも必要あるまい・・・若殿様はお優しい方じゃ。降伏勧告の遣いが既に着いておるであろう・・・」

 「「「ならば高遠は救われるので?」」」

 「高遠の者達は撥ねつけるであろう」

 「「「ならば高遠家の命乞いを・・・」」」

 「無理じゃ。此度は武田の若殿の意向を知らぬ事、その事が罪なのじゃ!再度申し付ける。此度は、高遠家に関わる事まかりならん!」

 こうして小笠原家は静観の態度を武田に伝えた。





 



 
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