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戦をしたくない?若殿の指示

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 甲斐側雑木林入り口の武田勢の陣



 総大将役の板垣が軍議の始まりを告げた。

 「さて各々方、此度の戦は若殿の作戦案に沿ってそれぞれの部隊を指揮する事で同意頂いておる筈だが、異論が出てきた方は遠慮無く述べて頂きたい」

 そう言って板垣は静かに参加者一人一人に視線を移していった。

 「板垣!ワシは異論無いぞ!早う若殿の案を聞きたいのじゃ!次じゃ!次へ進めるのじゃ!」

 (「良かったのぅ・・・源太郎。早速そなたの話を聞きたい者がおるではないか」)

 (「始祖様、軍議の最中でござる。気が散りまする」)

 (「おお・・・済まぬ。楽しそう故、ツイツイのぅ」)

 源太郎と信義がこんなやり取りをしていると・・・

 飯富の発言を聞いて「はあぁ・・・」と溜息をついて板垣は言葉を口にした。

 「飯富殿!言いたい事は解り申した。少々お待ち下され。では、他の方々は如何でござろう?」

 「「「「「「「異論ござらん」」」」」」」」

 残りの諸将が応えた。

 「では若殿、此度の事よろしゅうお願い申す」

 と、板垣は源太郎に発言を促した。

 「此度の戦さが初陣のそれがしに、過分な支持と期待を頂き感謝申す。飯富殿申し訳ないが、この戦さは貴殿が望んでおられる様なモノにはなり申さぬ。それでも、よろしゅうござるか?」

 「若殿!それがしは爽快で楽しい故、若殿の下で動きたいだけでござるよ。ハハハ」

 「先ず第一に、此度は躑躅が崎からの本隊を待つのがワシの考えの基本でござる。此度は戦うに当たり、勝つためには不確定な事ばかりでござるゆえ、今のところは北条勢の動きに合わせるしか、できる事が無いのでござる。義叔父上、江戸城へ向かう以外に御館様からの指示はありましょうや?」

 「いや、ござらん」

 「この様に、この戦には明確な目的が示されてないのでござる。上杉様の江戸城攻略に当たり、武田は増援として計算に入れて頂いているのでござろうか?それとも、この場所にて北条勢を引き付けておけば良いのでござろうか?はたまた、分散されている北条勢を少しだけでも痛めつけて、今後の今川・北条に対する牽制すれば良いのか?どなたか、ご存知の方はおいででしょうか?」

 「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」

 「それゆえ、それがしは戦う事を避けようと考え申した。その為義叔父上には、敵勢に我らが実数を知られ難いこの場所に待機して頂くよう、お伝えしました。義叔父上、案山子の設置は終わっておりましょうや?」

 「終わっておる」

 「ありがとうござりまする。恐らく北条勢は、我らを15000前後の軍勢と見ておりましょう。その事に乗じて、この周辺の村の民には、雑木林の甲斐側の伐採をしてもらっており申す。おまけとして、明日から我等は、この弩を使い、雑木林の獣を狩りにて追い出しにかかりましょう。北条勢は武田勢がここにいる目的を図りかねておりましょう程に、更にそれを助長することと致しましょう。これをしている間に状況が変わるのを待ちましょう。但し、いつでも戦に掛かれる様にはしておいて頂きとうござる」

 「状況が変わるとは?」

 板垣が反射的に尋ねた。

 「一つは先程申したように、躑躅が崎からの援軍が合流した時。もう一つは、江戸城の戦の勝敗が決まった時でござる。更に申さば、これは望みが薄い事ではござるが、目の前の北条勢に何事かが起こった時でござる」

 「「「「「「「「「では、その変化にはどの様になさるので?」」」」」」」」」

 「先ず、援軍到着の折には、再度軍議の後スグ、戦を仕掛け北条勢を混乱させたのち撤退致しまする。二つ目、上杉様が江戸城を攻略した場合は、敵の目の前に全軍を押し出し反応を見、攻めてくるようであれば弩にて出鼻を挫きまする。攻めてこぬ場合は、日が暮れたのち、この位置にて軍勢を展開し直しまする。三つ目、上杉様が撤退なされた時、弩と弓を射かけつつここまで引いて軍勢を展開、敵勢が路から出ぬうちに叩けるだけ叩くつもりでござる」

 「「「「「「「「「して、最後の一つは?」」」」」」」」」

 「考え着いて居り申さぬ・・・申し訳ござらん」

 源太郎は深々と頭を下げた。

 「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」

 「「「「「「「「「ハハハハハハハハ…」」」」」」」」」

 暫くの沈黙の後、源太郎を除く諸将は腹を抱えて笑い出した。

 「・・・・・」

 源太郎は突然の笑い声に驚いて頭を上げ、諸将を見渡した。

 「各々方、どうなされましたので?」

 キョトンとして源太郎は尋ねた。

 「いやぁ若殿、笑ろうてしまって申し訳ござらん。我等一同、若殿の思慮の深さに感じ入り、余りの欠点の無さに疑問さえも出てこない有様でござった。神仏の化身かと魂消ておった所へ最後のお言葉・・・よぅ考えてみれば、初陣の若殿に寄り掛かり過ぎておった己自身が滑稽に思えたのでござる」

 未だ笑いを収められないながらも懸命に荻原が答えた。

 「「「「「「「「「我等一同、若殿に命お預け致し申す」」」」」」」」」

 源太郎に向き合い、諸将は一礼をした。




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