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僕にだって苦手はある!始祖様の助言
しおりを挟む完全に回復した竹松は病を患う以前にも増して、自分の好奇心や疑問を解決する欲求を満たす為の行いをするようになった。
所謂、幼児特有の『なぜなに病』であるが、そのネタとなる好奇心や疑問の質が幼児の程度を越えている為、周囲の者達は、竹松がまだ7歳である事を忘れて応対しがちになっていった。
その最たる人物は父親である信虎であった。
信虎は、成長するに従い、遠慮なく家臣達への扱いに対する疑問をぶつけてくる度合いが増えてきている事を第一の理由として、好奇心を原動力としている為か、物事の呑み込みが早過ぎる竹松を、頼もしく思いつつも、疎ましく感じる気持ちが次第に大きくなっていった。
そんな竹松に弓を教え始めたら、周囲の思いとは裏腹になかなか上達の兆しさえも見えず、信虎は周囲に隠す素振りさえも見せずに、その事を面白がった。
庭先で板垣の指導で弓の稽古をしている竹松を、傍の廊下を通りかかった信虎が目に止めた。
「竹松、武田の麒麟児が弓は苦戦しておるのぅ!珍しいモノが見れて愉快じゃ!ハハハハハ!」
「父上!武田の麒麟児などと・・・誰が申しておるのですか!ワシは麒麟などではありませぬ!人の子にございまするぞ!(怒)」
「お~おぉ。怒ったぞ怒ったぞ。その勢いで励むが好いぞ!ハハハハハ!」
そう言って信虎は悠然として去っていった。
稽古が終わり自室へ戻った竹松は寝転がってボーっと天井を眺めていた。
(「源太郎、弓の事で悩んでおる様じゃのぅ。たくさん悩むのじゃ。たくさん考えるのじゃ。さすれば、そなたの魂がもっともっと大きゅうなる。好い事じゃ。良き事じゃ」)
頭の中に声が伝わってきて天井に信義が現れた。
(「始祖様、弓というは難しきものにございますなぁ。今の世に使われている刀・槍・弓は始祖様が生きておられた頃と比べて如何にございましょうや?」)
信義は少し意外そうな表情に変わった。
(「ん?!如何とは?!」)
(「はい、戦に使われておる道具は、始祖様が生きておいでだった昔に比べて、進歩とか変化しておるのでしょうか?」)
(「細かいところまでは解らぬが、形だけ見てみれば、さほど変わってはおらんのぅ」)
(「左様にございまするや。いつも弓の稽古の折に感じるのですが、矢をつがえて弦を引き切ったままでは、狙いをつけていられる時間が少のうござる。それゆえ、その部分をなんとかできる弓が無いモノか?と考えていた次第にござりまする」)
(「ん~、日乃本の文書には戦さの道具の事は書いておらぬし・・・。そうじゃ!唐の国の文書には書かれておるやも知れぬ・・・。」)
信義の目の前に書物の幻が現れ、書物をめくり始めた。
(「・・・」)
(「源太郎、一緒に探すのじゃ!」)
(「しかし、文書を手に取れませぬし、唐の国の文を読めませぬ」)
(「よいか、魂の世ではのぅ、唐の国の言葉で書かれておる文書でも日乃本の言葉の文書として現れるのじゃ。そなたの頭の中にも文書を送って遣わす故、探すのじゃ!」)
その瞬間、竹松の頭の中には大量の書物の幻が積み上げられた。
四半時が過ぎた頃
(「あったぁあ!始祖様ございましたぞ!」)
(「お?!このように速く・・・。よぉ見つけたのぅ!どれじゃ?!」)
(「これにござりまする」)
(「後漢書とな?・・・。して、どこに書かれておるのじゃ?」)
(「この弩という箇所にございまする」)
(「おぉ・・・。これをじゃな、想いうかべたまま書き写すが好いぞ。これ以後、解らぬ事あれば文書を思い浮かべながら考えるが好い!」)
(「始祖様、ありがとうございまする。感謝に絶えませぬ」)
(「ハハハ、良いかな好いかな」)
そう言って信義の姿はスーッと薄くなって消えた。その後、竹松は各務を呼んで紙と硯を持ってこさせ、一心不乱に書き物をするのであった。
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