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あのおじさんは誰だったの?
しおりを挟む「じぃ、ちょっと良いか?聞きたいことがある」
病の床から目を覚ました数日後、竹松は朝餉(朝食)を食べ終わると板垣に声をかけた。
その声は、病を発する前の時の様に、凛として周囲にスーッと快く耳に入ってるものの、どこか違和感があるように感じられた。
「竹松様、如何なされました?お加減がよろしゅうありませぬのか?」
その返事を聞いて竹松は少しの間『えっ?』という表情を見せたが、ニコリとすると、
「そうではない。病から回復してより気になっている事があるのじゃ」
ホッとした表情になった板垣は、話をよく聞こうと片膝をついて屈み目線を合わせ心持ち顔を近づけた。
「『たろうのぶよし』と言うお方に心当たりはないか?」
「たろう?・・・何かの文書にでも出てきた人物にございましょうや?」
「そうではない。信じてもらえぬかも知れんが、先日の病の折、夢の中に出てこられてのぅ。」
「ほぅ、それで、そのお方と何かお話になられたのですかな?」
「ん、ワシ等兄弟姉妹に加護を下さると言われた。そしてじゃな、ワシに大きくなったら源太郎信義と名乗るように言われたのじゃ」
板垣は下を向いて思案顔になった。
(『たろう?』『のぶよし?』『げんたろう?』・・・お話の感じでは子供の絵空事ではなさそうじゃのぅ。そもそも竹松様は夢や幻で見た事を他の者に話す方ではない。で、『たろう』なんてケッタイな姓と思ったのだが、違う様じゃ。『たろう=太郎』とだすれば、『太郎信義』武田太郎信義、他家だ姓を名乗り始められた、ワシ等が始祖様ではあるまいか?!)
顔を上げ、再び竹松に目線を合わせた。
「もしや、そのお方がお出になられた日にお目覚めになられたのでは?」
「多分そうじゃ。そのお方が消えたら、頭が上にスゥ~っと引っ張られる感じがしてのぅ。目が覚めたら皆を見渡しておった」
「恐らくその加護を下されたお方は、武田家の始祖にあらせられる武田太郎信義様ではないか?と思われまする」
「そうか。その様なお方だったのじゃなぁ・・・」
いつもの竹松であるならば、疑問が解ければスグに離れていくのだが、それを聞いた後、立ったそのままの姿勢で黙り込んでしまっていた。
「如何なされました?」
「なぜ、此度ワシの枕元へお出ましになられたのであろう?と思うての」
「と、言われますと?」
「ワシは、始祖様が今迄お出ましになられたという話を、誰からも聞いた事がなかったからのぅ。我ら子孫の元へご先祖様がお出ましになられたという話は、恐らく今回が初めてであろう?」
「確かに・・・それがしも聞いた事がありませぬ。その通りでございますなぁ」
「始祖様がお出ましになられた訳を知りたくなったのじゃ」
「そうでございますか」
少しの間思案顔になった板垣だったが、おもむろに話を続けてきた。
「ならば・・・始祖様の墓所に出向かれては如何?」
「ん?」
「始祖様の菩提寺であります願成寺が、改修工事をしておりますゆえ、改修具合の視察を名目にして赴き、住職に始祖様のお話を聞きに行かれれば手掛かりが見つかるかも知れませぬ。病み上がりの身体慣らしにも、丁度よろしかろうかと思います」
「あい解った、その様に取り計ろうてくれ。じぃ、かたじけない」
「では早速に」
板垣は信虎や奥方を始めとする関係者に話を進めるべく、館の奥へと歩いて行った。
こうして竹松は願成寺へ赴く事となった。
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