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5話 トンネル

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そうこうしているうちにどんどん人里を離れ最初の目的地であるトンネルにたどり着いた。

3人の前に大きな口をあける煉瓦作りのレトロな感じのトンネル。
シダやコケがノスタルジックな風景を演出する。


この先はダムと廃集落しかないせいか、車や人の行きかいはないようだ。

周りはうっそうと草木が茂る深い森、これから通過するトンネルからはひんやりとした風がこちらに向いて吹いている。

(ポタン ポタン)と水が落ちる音が、無数に響き渡る。

トンネル自体は長くないようで出口付近の明かりがこちら側からでも見ることができる。

「カメラ回すから、二人ともちょっとどいてくれないかな」

田中さんが撮影の準備をしていた、鳴海は周りを見渡しながらメモを取る。

撮影時にはロケバスが通行するため、道の状態なども確認しなければならない。

俺はタバコに火をつけてゆっくりとトンネルに入っていく夏の昼間ということを忘れてしまうくらいトンネル内の体感温度は低いものであった。

「電球はあるようですが、昼間は点灯してないようですね」
天井を見上げながら鳴海はそういった。

「利用してる人もいなそうだし、夜も点灯するかわかならないな」
俺はメモをとる鳴海にそう答えた。

撮影が昼夜あるということで俺と鳴海はトンネルの状況を調べ始めた。

トンネルの中心あたりにいくと鳴海がこういった。
「このトンネル落書きもないし、消されたような跡もないですね」


「俺聞いたことある、本当にやばいところは落書きとかいたずらする奴いないらしいよ」
冷かしながら田中さんがそう答える。

「私はなんか嫌な感じしないんですよね」
鳴海はデジカメのシャッターを切りながらそう答えた。

確かに綺麗すぎるトンネルだし、元々霊感のない俺には鳴海の言うように嫌な感じはしない。
ゴミもなく誰かに管理されてると思うくらい綺麗だ。

そんな気持ちも一瞬でと吹っ飛んだのはトンネルの出口を出たときだった。

言葉で説明するのはむずかしいが、まるで大観衆の中、処刑台に立たされてるような気分だ。

誰もいないのに複数の視線を感じ、一歩踏み出すたびに何かに近づいて行ってるような感覚だ。

「ちょっと、まって、なにこれ。。」
鳴海は出口にある石碑の前に佇んでいた。




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