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しおりを挟む「救われてって……私の方が頼りっぱなしだったよね? 一ノ瀬君が何で私に怒らず我慢出来てるのかの方が、不思議。最初は私も拗ねてたし、大変だったでしょ? ……一ノ瀬君は、すごいよ。できすぎ君だよ」
一ノ瀬君は違うと首を横に振る。
「……前から、その、学校にいたときから、俺、河野さんの雰囲気、好きだったんだ」
へ? 何を唐突に……!!
脈絡のない思いがけない告白に、挙動不審になる。
「え、あ、で、でも、私、そんなに目立つ方じゃなかったよね?」
「うん、それは、そうなんだけど、その、だから……何となく?」
「あ、そ、そう、まあ、雰囲気、だし、ね?」
口をとがらせて拗ねてみせれば、慌てたように、そうだけどそうじゃなくてと言い訳を始めた。
私がそれを見て笑えば、一ノ瀬君はほっとしたように続けた。
「穏やかそうで、普通に優しそうで、でも引っ込み思案とかいう感じでもなくて、一緒にいて居心地良さそうな、ほんとに普通って感じが、何となく、良いなって思ってて。こっちに来たとき、あれからずっと、変わらない河野さんに、すげぇ救われたんだ」
首をかしげれば、最初にこの世界に飛ばされたとき、混乱して淡々と一ノ瀬君から言われるがままに行動したときのことをあげられた。
「知ることの出来る俺でさえ混乱してたのに、河野さんの方がもっとびびってたはずなのに、河野さん、何とか冷静でいようとしてくれてたよね。
俺もパニクってて、とにかく移動しなきゃ、河野さん連れてかなきゃってばっかりで、ろくに説明もせずに勝手に決めたのに、俺のこと信用して、付いてきてくれただろ。河野さんが、そうしていてくれたから、俺もちゃんと考えて動くことが出来た。
河野さんいなかったら、あの時点で俺たぶん半狂乱になってた。俺のせいでこっち来たって分かったときも、本当はもっと、怒りたかったんだろ? でも、俺のことを考えて我慢してくれてる様子とか、何となく、分かった。
手、振り払わずにいてくれて、すげぇ、救われた。河野さんがいるから、頑張ろうって、思えた。
この世界来て、分け分かんねぇことばっかりで、ふざけんなって怒鳴りたくなるようなこといっぱいあったけど、河野さんが頑張って我慢してくれてたりするの見ると、俺も耐えられた。河野さんの変わんない普通さが、俺の日本での「普通」の感覚を守ってくれてた」
きっと私の言動は、間違いなく普通だったと思う。混乱したとき、右へならえで、私の意志とかどうしたいとか主張する気もなければ、考えることすら出来ずに流されて、出来る人に任せっぱなしの判断ばっかりだ。事なかれ主義で、善くも悪くも個より集団を重んじて、日本人らしいといわれる物だったんじゃないかと思う。私は常に、一ノ瀬君との関係が平穏であれるように努めていたし、それが楽だった。
結果、一ノ瀬君は、私に出来ないことを全部引き受けてやってくれていた。
ずっと、その事を頼りっぱなしで申し訳ないと思っていたから、一ノ瀬君の言葉はとても意外だった。
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