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4章 狭間ノ國
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やがて、天津さんの涙は引き潮のように引いていった。
「ある日の晩、儂の元に月宮家から使者が数人訪ねてきた。その者達から『何も見ていない聞いていない。そういうことにしてくれるならば、八雲様の御世話という任から解放してやろう』と持ちかけられた。なぜ月宮家の者がそのようなことを考えたのか、それはわからない。……が、自分の役目に辟易していた儂だ。よく考えもせずに承諾してしまったのじゃ。儂は……八雲様を隠すことに荷担してしまったんじゃよ……」
「その、つまり……暗殺ということですか……?」
「…………わからん。亡骸は発見されなかったからな。八雲様は忽然とお姿を消された──神隠しに遭われた。そのような扱いにされたのじゃ」
「どうして捜さなかったんですか?」
「御両親を始め皆から疎まれていた存在じゃ。捜索する必要は皆無。……惨いようだがそういうことじゃ」
「ひどいよ、そんなのって……!」
美伽の口調は責める時のような鋭さを秘めている。
「…………思えば八雲様を隠されたことが、狭間ノ國を瓦解させる引き金になっていたかもしれん。八雲様には沙雪様という許嫁がいらっしゃった。孤独な八雲様のたった1人の理解者でもあり、心から八雲様を愛しておられたようだ。その沙雪様も八雲様がいなくなったことで、後を追うように自害なさったと聞いた……」
「もうイヤッ! これ以上、そんな酷い話聞きたくないッ!」
耳を塞ぎ、甲高く美伽が叫んだ。
そして、泣きじゃくりながら
「皆から嫌われて……無視されて……、愛する人から引き離されるように殺されたなんて……、そんなの……そんなの……ひどすぎるッ! 悪霊になって当たり前じゃん!」
「美伽、気持ちはわかるけど、落ち着いて……」
小さな小屋の中に、美伽の嗚咽と悲痛な空気が充満していく。
美伽が落ち着くのを待ち、天津さんは続きを話してくれた。
……といっても、続きはほとんどあってないようなものだった。
八雲さんが隠され、沙雪さんが自殺してしまった直後に、天津さんは呪い師の修行の一環で外界──狭間ノ國の外で1年ほど過ごしていたという。
そして、修行が明けて戻ってくると、狭間ノ國は滅んでいたそうだ。
天津さんが不在の間に、狭間ノ國で一体何が起きたというのだろうか──?
「ある日の晩、儂の元に月宮家から使者が数人訪ねてきた。その者達から『何も見ていない聞いていない。そういうことにしてくれるならば、八雲様の御世話という任から解放してやろう』と持ちかけられた。なぜ月宮家の者がそのようなことを考えたのか、それはわからない。……が、自分の役目に辟易していた儂だ。よく考えもせずに承諾してしまったのじゃ。儂は……八雲様を隠すことに荷担してしまったんじゃよ……」
「その、つまり……暗殺ということですか……?」
「…………わからん。亡骸は発見されなかったからな。八雲様は忽然とお姿を消された──神隠しに遭われた。そのような扱いにされたのじゃ」
「どうして捜さなかったんですか?」
「御両親を始め皆から疎まれていた存在じゃ。捜索する必要は皆無。……惨いようだがそういうことじゃ」
「ひどいよ、そんなのって……!」
美伽の口調は責める時のような鋭さを秘めている。
「…………思えば八雲様を隠されたことが、狭間ノ國を瓦解させる引き金になっていたかもしれん。八雲様には沙雪様という許嫁がいらっしゃった。孤独な八雲様のたった1人の理解者でもあり、心から八雲様を愛しておられたようだ。その沙雪様も八雲様がいなくなったことで、後を追うように自害なさったと聞いた……」
「もうイヤッ! これ以上、そんな酷い話聞きたくないッ!」
耳を塞ぎ、甲高く美伽が叫んだ。
そして、泣きじゃくりながら
「皆から嫌われて……無視されて……、愛する人から引き離されるように殺されたなんて……、そんなの……そんなの……ひどすぎるッ! 悪霊になって当たり前じゃん!」
「美伽、気持ちはわかるけど、落ち着いて……」
小さな小屋の中に、美伽の嗚咽と悲痛な空気が充満していく。
美伽が落ち着くのを待ち、天津さんは続きを話してくれた。
……といっても、続きはほとんどあってないようなものだった。
八雲さんが隠され、沙雪さんが自殺してしまった直後に、天津さんは呪い師の修行の一環で外界──狭間ノ國の外で1年ほど過ごしていたという。
そして、修行が明けて戻ってくると、狭間ノ國は滅んでいたそうだ。
天津さんが不在の間に、狭間ノ國で一体何が起きたというのだろうか──?
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