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34 円満な婚約解消?なのですわ!

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「貴殿の訪問を歓迎しよう」
「感謝申し上げます」

謁見の間。
今日はルスラン様がわたくしのお父様へ謁見する日。
そして見上げた先の豪奢な椅子…つまりは玉座に座っているのがアルエスク国王である、わたくしのお父様ですわ。

(でもお父様………言葉とは裏腹に眉間のシワが全然歓迎しておりませんわ)

あたかも迷惑だと言わんばかりのしかめっ面で鷹揚に歓迎の言葉を発するお父様。
対してルスラン様はそのことに気付いているはずですのに…余裕の表情ですわ。
きのうのカエル王子っぷりを微塵も感じさせないくらいキリッとしていますわ。
全身黒でまとめられていて、一見シンプルなのに上質な生地と所々に付いているシルバーのアクセントが高貴な雰囲気を醸し出していますわ。
堂々とした振る舞いも相まって、そう…今日のルスラン様はまるで黒獅子のような雰囲気ですわ!
ほんと…きのうのヘタレカエル王子はなんだったのかしら…。

謁見の間には他にお母様とお兄様、パーヴェル様とヤーナ。そして……なぜかオレグ様がわたくしの横に。
パーヴェル様は王家ではないもののお兄様の側近で、ヤーナはわたくしの専属侍女だから分かるとして………なぜオレグ様まで?
気持ち距離が近い気がするオレグ様をチラリと見上げれば。

「!」

バッチリ目が合いましたわ!?もしかしてずっとわたくしのこと見てましたの!?

ニコッ。

はぅん!
そして目が合えばいつもの蕩けるような王子様スマイル。
なんなんですの!?わたくしの心臓を止めに来ましたの!?

…………あぁ!
今日のわたくしはノンナ様が急遽サイズを合わせてくださった淡いピンク色のドレスに、複雑に編み込まれ纏められた髪。そして濃い目に施された化粧…。
これが原因ですわね!?いつもと違いすぎるから不思議でずっと見ていたんですのね!?納得ですわ!!

なぜこんなにも今日のわたくしがキメキメにキメているのかといえば。そう!ルスラン様にわたくしが先日会った侍女だとバレないようにするためなのですわ!
いえ、違いますわね。バレることはもう、前提ですわ。
なんせバッチリ膝を突き合わせて話しましたから。国境から城までずぅっと。そりゃもう、ずぅっと。
ですが先日は髪は下ろしただけで、すっぴんに侍女のお仕着せ。
他人の空似ですと押し通すのですわ!
あちらもアルエスク側が違うと言っているのに証拠もなしに何度も問い質しては来られません。それが狙いなのですわ!

「しかし、ずいぶんと突然の訪問。どのような御用向きかな?」

お父様。世間話とかアルエスクまでの道程の話を聞いたりして場を和ませたり…は、しないんですのね。早く終わらせたいんですのね。なるほどですわ。
レギオン様はそんないかにも迷惑そうなお父様にも怯むことなくニヤリと笑い、チラリと見たのですわ………わたくしを。
ものすごく嫌な予感!!

「はい。この度は我が父の命により、レギーナ殿下に結婚を申し込みに参りました」
「「「「…………は?」」」」

わたくしとオレグ様以外の全員から気の抜けた声が。
そういえばそんなこと言ってましたわね…。
でもわたくしには婚約者であるオレグ様がいるのですが?
それを無視して婚姻を申し込むのは我が国にもガルロノフ公爵家にも些か失礼なのではないかしら。

「そもそも自国の公爵家と婚姻を結んだところでアルエスクに利はないでしょう。それならばゼレグラントとの繋がりを作ったほうが両国のためになるのでは?」

あー…はい、確かに。
ゼレグラントが我は国よりも経済的に劣っているとはいえ、大きな貿易相手であるのは間違いありませんわ。
交流を深め、交渉をスムーズにすることができればお互いにかなりの利益を生むはず。
加えて武力は我が国に並ぶ程の実力。仲良くしておいて損はありませんわ。

ゼレグラントからの申し出による、国と国との利益を生むための結婚。そのための婚約解消。
これならばわたくしも、オレグ様も名前に傷がつくことはございませんわ。
婚約解消するならばこれが、最善の策。
分かってはおりますのに、頭では理解しておりますのに、こんなにも心が軋むなんて…………。

胸の痛みを確かめるように、そっと胸元に手をあてていたわたくしには、こちらをじっと見ていたお父様が全く見えていなかったのですわ。

「生憎娘は売約済みでな。この約束を保護にすれば余は恨まれることが目に見えておる」

………誰に恨まれますの?
王家も万々歳。国民も万々歳。オレグ様だって…。

「お待ちください」

…………オレグ様?
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