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31 全てお見通しですわ!
しおりを挟む「はい、あーん」
「……………むぐ」
「レーナ、美味しい?」
「……………………………トッテモオイシイデスワ」
なぜかしら?謎の抱擁からいつの間にかソファに移動して…今、ケーキを食べて…いえ、食べさせられておりますの。
おかしいですわ。ボリスラーフの作った木苺のチョコレートケーキはわたくしの大好物な筈なのに…今日は味がしませんわ?
いえ………理由は分かっておりますの。
「オレグ様…そろそろ降ろしてくださいませ!」
「ええ?駄目だよ」
「駄目ってなんですの!?」
そうなんですの!わたくしはあれよあれよと流れるような誘導によりオレグ様のお膝に横抱きにされて、そのままお茶をいただいておりますの!
お顔が…!美しいお顔が近いのですわ!
はぁぁぁあぁあぁ~!!わたくしの心臓が!もう限界ですわ!
頭もパンク寸前ですわ!!まともに働きませんわ!?
「婚約者なんだからこれくらい普通だろう?」
「えぇ?普通…ですの?」
「そうだよ。普通だよ。レーナは嫌なの?」
「嫌…ではないですけど、恥ずか…」
「なら良かった!」
「いえ、ですから恥ずか…」
「それとレーナ?呼び方がまたオレグ様になってるよ?」
「あの、だから…」
「なってるよ?」
「……………………オーリャ」
「うん」
満足したのか、近距離で蕩けるような笑顔が……!
あぁ…なんだかオレグ様が近すぎて頭がボーッとしてきましたわ…!
「そんなうっとりした顔して…可愛い。食べちゃいたいよ」
「食べても美味しくありませんわ……」
「そう?きっと美味しいと思うけどな」
そう言って親指でわたくしの唇をなぞり、ぷにぷにと弾力を楽しんでいるオレグ様はとても妖艶で…頭の中が痺れてきましたわ……。
「や、やめてくださいませ…」
「なんで?」
「なんだか背中がゾクゾクするのですわ…」
「っ!あぁ…!なんて可愛いんだ………!」
オレグ様は恍惚とした笑みを浮かべ、唇をなぞっていた親指をそっとわたくしの口の中に入れ、舌をなぞって………!?
「ふぁっ」
「こ、このまま既成事実を作ってしまえば…レーナは一生僕の………僕だけの…………!」
「はい、そこまでーっ!」
ゴンッ!
「ぐぁっ!?」
「私がいることをお忘れですか?バカなんですか?結婚前に許すわけないでしょう。バカなんですか?」
「~~~っ!バカを合間に挟むな!それと僕は一応公爵家の人間だぞ!?グーで殴る侍女がいるか!」
「いますよここに」
「いたな!確かにいたな!」
公爵家の令息をグーで殴った我が侍女ヤーナはすました顔で…いえ、若干蔑んだ顔でオレグ様を見下ろしておりますわ。
あぁ、でもなぜかしら…さっきから胸が苦しくて、頭が、ボーッと…………。
「姫様、具合が悪いのではありませんか?すぐにお召替えをした方がよろしいかと」
「着替え…?」
「はい。そちらの王妃様のドレスは少々きついようですので………」
「そう、なの?やっぱり私が、太ってるから?まだ、デブス…………?」
「違う!」「違います!」
「でも……………」
「姫様は、その…王妃様と比べてお胸が豊満でらっしゃるからで、その……」
「……え?なんて?」
よく分からないけどやっぱりまだ太ってるのね……みんな褒めてくれるけど、それはわたくしが王女だからで…。
「何をお考えか分かりませんがすぐにお召替えをいたしましょう。…………失礼いたします」
「ひゃっ?」
ひょいっとわたくしを抱えたヤーナが寝室へ向かい…くるりと振り返りましたわ?
「…………ガルロノフ様はついてこないでください」
「チッ」
「「……………………」」
ガチャッ。バタン。カチャリ。
真後ろにいたオレグ様にジト目を向けたヤーナは、無言のまま寝室に入ってきっちりと鍵を締めましたわ。
「わたくしの着替えなんて見ても……」
「………本気で言ってます?」
誰得なのかと本気で思うのだけど…そんなわたくしにヤーナは呆れたとばかりに溜息をつくと、そっとベッドの端に座らせ、シュルシュルと手際よくドレスを脱がせだしましたわ。
あ……息ができますわ!
私が大きく息をしているのを確認すると、ヤーナが新しいドレスを用意しながら言い聞かせるように話し始めましたわ。
「姫様は何か誤解をなさっているようですが、姫様はとても魅力的な方です」
「……それこそ本気で言ってるの?」
「もちろんです!そして姫様は気付いていないかもしれませんが、ガルロノフ様の執着は半端ありません。私も出来るだけ姫様をお守りしますが、ご結婚まで流されずになんとかご自身でも御身を大切に…」
「…………なんてこと!?」
オレグ様の執着。そして自分の身を守れ………?
なるほど、そうでしたのね!?ヤーナにも分かるのですわね!?
「つまりオレグ様の性格上、他に好きな方ができた場合、その方に半端なく執着する、と」
「え?他の方?」
「そして邪魔になったわたくしは葬られる可能性がある………。そういうことですのね!?」
「いえ、違います」
「大丈夫よ!何もかもわたくしは分かっていたもの!」
「いえ、分かってません!」
「でも心配ないわ!今となってはわたくし魔物も殺やれる姫だもの!」
「いえ、心配しかありません!!」
なぜ話が命の取り合いの方向に!?とかなんとか言っているけれど、オーライ、オーライ!大丈夫ですわ!
「全てお見通しですわー!!」
「姫様―――――――!?」
悪役令嬢が如く、高笑いが止まりませんわ!
恐らく一気に血が、空気が体を巡ってハイテンションなのですわ!
オーホッホッホッホッ!
「はぁ…。とりあえずこちらのドレスをお召し下さい。先程購入したドレスのひとつです。ジャストサイズとはいきませんが、ほぼ合っているかと」
「分かりましたわ!」
無駄に元気になったわたくしはドレスに袖を通すと、気持ちを引き締めて…いざ、敵陣へ!…じゃなかった、オレグ様の元へ!
ガチャッ。
「お待たせいたしましたわ!」
「ええ!待ってましたよ!!」
「…………え?」
想定していたのとは違う声が返ってきて、目をしばたかせれば。
そこにいたのは深い緑の髪に赤い瞳の、モノクルを付けた男性。
「もしかして………………魔法師団長様?」
「はい!お久しぶりです!」
赤い瞳と笑顔がキラキラと…それはもう、キラキラと輝いていて……なんだか嵐の予感がいたしますわ??
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