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30 お花のお話のようなのですわ?
しおりを挟む「明日の謁見のドレスはこれ。そして晩餐のドレスはこれね!で、明後日のお茶会は天気が良かったらこれで、天気が悪かったらこっち。ヤーナ、ドレスに合った宝石の用意をお願いね」
「かしこまりました。お任せください」
「さすが王妃様!素晴らしいチョイスです!くっ…。姫様の着飾ったお姿が見られないのが無念です…!是非違う機会に!」
「ええ、そうね!また日を改めてお茶でも飲みましょう!」
「楽しみですわ!」
「……………………」
……………なんであんなに盛り上がってるんですの。
わたくし着せ替え人形にされてヘトヘトですわ。
あれから何着もドレスを試着させられ、細かく採寸され、デザインのあれやこれやを相談するお母様とノンナさんに付き合わされ…。
「はぁぁ………」
キャッキャッとはしゃぐ3人を尻目に、ソファに沈むわたくし。
「このドレスにはアップの髪型が合うと思うの!あ、でも少し垂らすのも忘れないでね」
「もちろんです。姫様の美しさと可憐さと妖艶さを最大限に引きだしてみせましょう。このドレスですと髪飾りは宝石は控えめにして、花を散らすのはいかがでしょう?」
「それはとても素晴らしいわ!さすがヤーナね!期待してるわ!」
「腕がなります」
どんどん沈んで沈んで……もう、寝てもいいかしら?このメンバーならいいですわよね?もう、横になりますわよ?なりますわよ?
「横になりましたわよ~……」
3人が姦しく騒いでいる中、ソファに頬を沈めた状態で小さい声で一人つぶやきそっと目を閉じて…あ、寝ちゃいそうですわ。
「姫様。ガルロノフ様がいらっしゃいました」
「はいぃぃっ!!!」
カッと目を見開き、グンッと腹斜筋のみで上体を起こす。
それはまるで起き上がりこぼしの如く。
寝てませんわよ?寝てませんでしたわよ?
…………お母様、ニヤニヤしながら見ないでくださいませ。
「だいぶ待たせてしまってごめんね。あれからヴァシリー様と話し込んでしまって」
「い、いえ。全然待ってませんわ!」
ドレスの着せ替えですっかり忘れていましたわ!言えませんけど!
「ドレスに着替えたの?侍女のお仕着せでも十分可愛かったけど、着飾った姿も可愛いね…」
「ゔっ」
グギュンッ!!
………ハッ!?
甘やかな笑顔に心臓鷲掴みにされて三途の川を渡るところでしたわ!?
オレグ様の笑顔はもはや凶器!
笑顔見せるだけで殺せるとか…マジ、リーサルウェポン。危険。
スーハースーハー。
暴れ狂う心臓が突き破って出てこないように両手で抑え、呼吸を整えるわたくし。
どうどうどう。鎮まれ~鎮まれ~。まだ死ぬには早いですわよ~。
「あらあら、うふふ。ノンナ様。私たちはお邪魔みたいだからお暇いたしましょうか」
「うふふ。そうですね!」
「くっ…」
お母様がいることをすっかり忘れていましたわ!好きな人を目の前に真っ赤になった顔を肉親に見られるこの恥ずかしさ!
そして一瞬でちゃっかり被った妖精姫の仮面からちょいちょい覗く、揶揄と好奇心が悔しいですわ!ぐぬぅ…。
「王妃様、ご無沙汰しております」
ゆったりとした美しい所作で挨拶をするオレグ様の姿は本当に洗練されていて、お母様の隣にいるノンナ様も思わずほぅっと溜息をつかれていますわ。
オレグ様はやはりお母様にも余裕のある大人の対応。
思えば、わたくしにもいつも余裕のある態度ですわ。
わたくしはいつもドギマギして、慌てふためいているのに……。
でも、それはそうですわよね。だってオレグ様にはわたくしと違って照れるような感情が……好き、とか………そういった感情が存在しないんですもの。
すごく…………苦しいですわ。
わたくしは自然と俯いてしまっていたため、お母様がチラリとこちらを盗み見たのに全く気付きませんでしたわ。
「本当に久しいわね。最近は全然来ないし娘の口からあなたのことなんてほとんど出なくなっていたから……身近で綺麗な花でも摘んでいるのかと思ったわ」
「………そんなことある訳ないじゃないですか。僕はひとつの花だけを長く愛する性分なんです」
「そうなの?最近可愛い可愛い私の花が萎れていたから他の方に譲らなければならないかと思っていたわ。国としてはその方がいいことは間違いないしね」
「…………………ご冗談を」
…………わたくしが傷心に浸っていたら、いつの間に花の話。
「僕の花は誰にも渡しません。何があっても、何をしてでも僕のものにしてみせます」
「あら、情熱的なのね」
オレグ様はそんなにお花が好きなんですの?しかもひとつの花が?……初耳ですわ。
気持ちは通っていなくとも一応は婚約者である人がそんなに好きなものなのに全く知らなかったなんて…やはりオレグ様はご自分のことをわたくしにはあまり話してくれていなかったのですわね。
思えば会ったときはいつもわたくしばかりが話をして、オレグ様はニコニコと聞くばっかりで……。面倒、だったのかも…………しれませんわ。
いえ、いつかは聖女様にお譲りする日が来ることは分かっておりましたもの!落ち込んでいても仕方がありませんわ!
改めて。気を引き締めて、処刑回避を目指しましょう!頑張れ、わたくし!!オー!!
気持ちを新たにオレグ様とお母様に意識を戻せば…あら?笑顔だけどなんだか火花が散ってます??
「まぁ、最終的には私の花の気持ち次第ね。あの人は政略的なものを押し付けるのは嫌みたいだから」
花の気持ちって何。
「国王に感謝しなければですね。………必ず繋ぎ止めてみせますよ」
通じてますの?通じてますのね??わたくしにはチンプンカンプンですわ!?
「ふふ。頑張って頂戴。私は娘が幸せならなんでもいいの」
なぜわたくし。花は?花はいずこへ??
「幸せにしてみせますよ。必ず」
「ひょおっ!?」
だだだ抱き抱き抱き抱きしめられてますぅぅう!?
花の話がわたくしの話になってそんでなぜか抱き抱き抱き抱き抱きしめられて…抱きしめられてます!!?
しかも「幸せにしてみせます」だなんて…ププ、プププ、プロ、プロポーズみたいですわ!!?
「うふふっ!お手並み拝見するわね」
茹で蛸のようになったわたくしを見て楽しそうに笑ったお母様は、バイバ~イと手を振って去って行きましたわ。
なんだったんですの!?
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