処刑回避のため、頂点を目指しますわ!

まなま

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21 わたくしは悪役令嬢ですわ!

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「団長!大変です!!」

村の安全や魔法の壁の破損状況の確認をしていると、ひとりの年若い騎士様が転がるように駆けて来ましたわ。そんなに慌ててどうなさったのかしら?

「どうした?」
「じ、実は……」
「俺が直々に説明してやろう」

縮こまる騎士様の後ろからよく通る声で横柄な言葉が投げかけられ、この場にいた全員の視線が声の方へ集中しましたわ。
そこにはものすごくもっふもふなファーの襟が付いたマントを肩に掛けた長身の男性が。
………今はもう春でしてよ?暑くないのかしら。

男性は見るからに仕立ての良い服を身に着けており、黒い髪に真っ青な瞳を持つ端正なお顔立ち。お年は20歳前半くらいでしょうか?
彼の顔には皆の視線や意識が自分に集中して当たり前とでもいうような自信が漲っており、態度も自意識過剰とも取られかねないものですが、それに見合うカリスマ性も相応に持ち合わせていらっしゃって、自然とわたくしたちも彼がその態度に見合う地位の人間なのだろうと容易に想像できたのですわ。

「貴方は?」

団長様が慎重に問えば、その青年は片方の口角を上げて腕を組み、傲然たる態度で言い放ったのですわ。

「俺はルスラン・ゼレグラント。ゼレグラント国の王子だ」
「え!?」

ゼレグラント王国の…王子!?
高い身分ではあるだろうとは薄々勘付いてはいましたが、思っていた以上に高い地位の方が出てきて全員目が飛び出そうですわ!

ゼレグラント国といえば魔物の住まう無主地を挟んだアルエスク王国の隣の国。
ゼレグラントは広いのですが雪深い山々が国の四分の一を締めていることと、国内でも魔物が度々出ることが理由でアルエスクに比べるとやや豊かさでは劣る国。
ですがそれは比較したらの話で、そこまで困ってはいないはずなのですが、何かとアルエスクを含め隣接する国々に何かといちゃもんをつけたり、ちょっかいを出したりしてくる、ちょっと厄介な国…と、いうのが我々の見解ですわ。

「姫様。ゼレグラントにここで会うのは得策ではないかと」
「そうね。国境近くに王族を含めた騎士団がいたっていうだけで戦争を企てていたと捏造されかねませんわ。…今はこの格好ですし、このまま侍女として紛れていれば気付かれないはずですわ!」
「だといいのですが……」
「?」

なぜヤーナはジト目でわたくしを見ているのかしら?大人しくしていることくらいできましてよ?
コソコソとわたくしとヤーナが話しているのをちらりと団長様が見遣り、また王子に目線を戻しましたわ。
団長様もゼレグラントと聞いて警戒している様子。恐らくわたくしたちの意図も伝わったのではないかしら?このままわたくしのことは紹介せず、さらっと流してくださいませ!わたくしは侍女でしてよ!

「アルエスクの王に謁見の予定があってな。入国のルートを考える際、強力な魔物がこの辺りの無主地で出たと聞いて、仕方なく迂回してきのう西の外れから入国し、先程やっとここまで辿り着いたと思ったら…眩い光とともにあの巨大な魔物が消えただろう?真相を確かめに来たのだ」

バッチリしっかり全部見られてるぅ~!ど、どうしましょう!?
…いえ、でも。そもそもあの光や魔物が消えたのもわたくしが原因とは限りませんわ?
堂々と何も知らないという顔をしていればいいのですわね!というか本当に知らないのですわ!なぁんだ。身構える必要はありませんでしたわね!自然体でまいりますわ!

「我々もあの現象の原因が分からず、ちょうど調査をしていたところなのです。ご期待に添えず申し訳ございません」
「原因不明、か…」

ルスラン様は顎に手をやり、何か考えながらゆっくりと周りを見回して…あ。目が合ってしまいましたわ。

「………そこの侍女!」
「げっ」

おっとうっかり姫らしからぬ声が出てしまいましたわおほほほほ!
あ、今は姫じゃないのでしたわ!じゃあセーフ?………いやいや、姫じゃなくても王子に対して今のは多分…いえ、確実にアウトですわね!

というか現実逃避してしまいましたが、わたくしに何の用ですの!?こんなにたくさんいる中で何故わたくし!?
バクバクと暴れる心臓をひた隠し、とりあえず…にっこり。
秘技!笑えば大抵なんとかなる!!………ハズ!!

するとなぜかルスラン様は目を見開き、スタスタとわたくしの前まで来て…え、何?何ですの?何がしかの狙いを定められてしまいましたわ!?
長身のルスラン様から見下ろされて…うぅ、怖いですわ!わたくしの秘技、笑えば云々も引き攣りましてよ!

「魔物が消えた原因は分からなかったが、代わりになかなかいいものを見つけた」
「え?」

何を見つけましたの?魔物が消えた原因と並ぶ程のいいものってなんですの!?
あ。もしかしてバレました?バレましたの!?わたくしが姫だって気付いてしまいましたのね!?我が国を脅せる材料を見つけたと…そういうことですのね!?
あぁぁ…お父様、お兄様、ごめんなさい。後の交渉や処理はお願いいたしますわ!

「器量のいい娘だ。どうだ?俺の愛妾にならんか?不自由はさせんぞ」
「アイショウ…?」
「「「んなっ!?」」」

んん?………アイショウ?相性?それとも愛称??
なんだか分かりませんがわたくしが姫だと気付いたわけではなさそう…?
しかしアイショウってなんですの?学がなくて申し訳ありませんわ!
わたくしがひとり首を捻っていると、わたくしの目の前に立ち塞がる壁…ではなく、オレグ様とチャラス様のお背中が。そしてヤーナがぴったりとわたくしの横に付いてくれましたわ。おぉ!鉄壁!
……で、なぜ皆様ルスラン様を睨んでますの?そしてアイショウとはなんですの?誰か教えてくださいませ!とても聞ける雰囲気ではございませんわ!?

「彼女はこの国の侍女です。勝手に愛妾にされては困ります」
「彼女はゼレグラントにあげるわけにはいかないんですよ」
「ほぅ…?やはりな」

あ。やばい。もしかしてやっぱりこれって…わたくしが姫だってこと、バレてますの?強請られますの?脅されますの?

「女。おまえ……聖女だな?」
「……………へ?」

違いますわ。

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