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13 地球の元キャンパーは伊達じゃないのですわ!
しおりを挟む「今日はここで野営する。直ちに準備に取り掛かるように」
「「「はっ!!」」」
国境のすぐ近くの小さな村。
村長に挨拶を済ませ、壁近くの広場で野営させてもらうことになりましたわ。
なんだかわくわくしますわ!
わたくし、前世ではキャンプが大好きでしたの!
まずはテントを張るのですわね?
任せてくださいませ!
「姫さんはあちらの木陰で休んでてくださ…」
「できましたわ!」
「早っ!?」
木陰に案内しようとわたくしのところに来たチャラス様。
…何を驚いていますの?
前世ほど複雑ではないテントですもの。秒ですわ!秒!
地球のキャンパーを舐めないで欲しいですわね!
それに……
「今日のために事前に予習しておきましたの!」
「………姫さんっていろいろ凄すぎねぇ?」
「レーナはやると決めたらとことん極める研究者肌だからな……」
「チャラス様、オレグ様、どうかなさいまして?」
「……………姫さん、タラスです」
あら、ごめんあそばせ。だってつい…ねぇ?名は体を表すかと…。
それにしても、今日のためにラルフに付き合ってもらって、何度も何度もテントを張ってはしまって、張ってはしまってを何時間も繰り返して練習して、最後にはラルフの目を死んだ魚にしてしまいましたが……やったかいがありましたわ!
今日のは自己最高スピードでしたわ!えっへん!
「姫さんは本当にここで俺らと同じように過ごすんだな…」
「?当たり前ですわ。わたくしは皆様に師事していただいてるんですもの。下っ端のように扱っていただいて結構ですわ」
「「下っ端……」」
いつの間にかチャラス様とオレグ様は仲良しですわね?
えぇ、えぇ。確かに見た目も身分も下っ端にしては存在感ありありですけどもね?
でも前世の記憶が戻った今となっては、師事していただいてるのに偉そうになんてできませんわ!
教えてもらうならば働く!当たり前のことですわ!
ふんすと鼻息荒く、わたくしが意気込んでいると…
「くくっ。姫さんは変わってるなぁ」
チャラス様がチャラくない笑顔で笑いましたわ!?
チャラいどころか、含みのない笑顔は…むしろ爽やか!どうなさいましたの!?
「そんなにおかしいかしら?当たり前のことですわ」
「当たり前なわけないだろ。あんたの身分なら全部指示して命令して従わせりゃいいだろ?なのにあんたは教えてもらうからって…お礼を言って、労働して。そんな王族聞いたことない」
「………王族らしくなくてがっかりしまして?」
そうですわよね。王族は誰よりも上に立つ者であり、皆が傅く存在。
分かってはおりますわ。おりますのよ?
でもそんなの…寂しいではありませんか。見えない壁で隔たれているようで…寂しいではありませんか。
でも、チャラス様の言うことは最もですわ。
威厳を持ってこその王族。傅くべき存在としての畏怖。
尊敬の念を持たずして頭を垂れることはできませんもの…。
「いんや。少なくとも俺は姫さんみたいなの好きだよ」
「……………え?」
そこには穏やかな顔をしたチャラス様。
そんな顔もなさるのね……。不覚にも少しドキッとしてしまいましたわ。少しですけれどね!?
「確かに王族は手の届かない存在だけどさ?だったけどさ?俺らとこういう風に会話して、仕事して。偉ぶらない王族ってのもさ…なんか、こう…国民にちゃんと寄り添って、この国の未来を明るくしてくれるんだろうなって…素直にそう思えるよな」
少し恥ずかしそうに頬を掻きながら言う、はにかんだ顔には一切のチャラさも、揶揄する気配も感じられませんわ。
国のトップがどんな人間なのか。それによってこの国の未来は大きく変わることは間違いありませんわ。
チャラス様…いえ、タラス様はタラス様なりにこの国のことを考えて下さっているのですわね。
でも……わたくしは将来、聖女様を襲い、この国の安全を脅かそうとするかもしれない身。
そして…この国を捨てて逃げるかもしれない身。
この討伐に参加したのだって自分の身を守りたいという利己的な理由からですもの…。
タラス様のお言葉が心にずしりと重みを感じますわ。
わたくしは将来、この国にいないかもせれないけれど。
我が国を思ってくださっているタラス様に敬意を。
「タラス様のような国の未来を思惟して下さる方が王国騎士として戦ってくださること、アルエスク王国第一王女として誇りに思いますわ」
「……………………っ!?」
タラス様はぽかんとした顔から徐々に目を見開いて、驚きの顔になり、そして最後は………あらま。真っ赤なお顔に……。
「なっ、ちょ…俺、そんなこと言われる柄じゃないでしょ!?しかも姫さんは王族なのに…」
「柄とか身分とか、そんなものは関係ありませんわ。わたくしは思ったことを口にしただけですわ」
「な………!」
「ふふふっ。タラス様は照れ屋さんですのね」
「~~~~~っ!」
おぉー。立派な林檎が出来上がりましたわ!
うふふ。チャラさの欠片も無くなりましたわね!
「はぁ……面食いの俺がまさか、こんな……」
「?」
赤い顔を両手で覆って何か言っていましたが…何かしら?
「お、俺、他のテント張るの手伝ってくるから…姫さんは待機……」
「ではわたくし、荷物の運び出しを手伝ってきますわね!」
「……………ほどほどにね」
あら、呆れられましたわ?でも出来ることはやらせていただきますわ!
働かざる者食うべからず!
タラス様と別れ、馬車の方へ向かおうとしたら……あら?な、なんだか、寒………?
「ひぃぃっ!?」
あばばばばばばば!!!
隣の婚約者が怖い!!笑顔なのに怖い!!晴れてるのになんか暗い!!!局所的に暗い!!!
「ドドド、ドド、ド、ドウシマシタノ!?!?」
怖い怖い!婚約者が怖い!!わたくし何かしまして!?
オレグ様ってこんな方でしたかしら!?
「レーナ?」
「ハ、ハイッ!」
ですからその笑顔、怖いですってばぁぁ~~~!!!
甘ーく名前を呼ばれているはずなのに、背中を流れる汗がやっべぇですわ!!
「浮気は許さないよ?」
「………………ふへぇっ!?」
浮気!?浮気って…あの浮気!?ですの!?
『心がうわついて変わること。一人の異性だけを愛さず、複数の人に目移りすること』の、浮気ですの!?!?
「浮気は許さないよ?」
「あの……えっと…………えぇ?」
誰と誰の浮気ですの!?
もしかしてわたくしとタラス様!?有り得ませんわ!!?
そもそもわたくしに好かれてもタラス様は間違いなく迷惑ですわ!
これも婚約者としてのプライドですの!?プライドですのね!?
オレグ様のプライドはアルエスク王国一高いジフ山よりも高いですわ!?!?
「くそ…あのチャラ騎士、要注意だな。タラス…。サバタナ伯爵家の次男だったか?次男だからレーナが嫁に行く心配はないが…あいつなら愛人にしろとか…あり得る」
「えっと…オレグ様?どうかなさいまして?」
「………レーナ、呼び方」
「え、いえ、でも…」
「よ・び・か・た」
「………………オーリャ」
「うん、気をつけてね?返事は?」
「あの、いえ、でも………」
…………ニッコリ。
「へ・ん・じ・は?」
「ハ、ハイィッ!!!!」
わたくしの婚約者が最近怖い件。
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