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8 兄妹マッチのゴング再び!なのですわ!

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「姫様。ガルロノフ様からお手紙が届いております」

「……ありがとう」


午前の騎士団の訓練が終わり、昼食後のお茶を楽しんでいたら…婚約者であるオレグ様からのお手紙をヤーナが持ってきてくれましたわ。

わたくしが送らなくてもいいと言ったにも関わらず、3日に一度はお手紙をくださいますの。
好きでもないのに本当にお優しいですわ…。

わたくしも本当は毎日書きたいですし、毎日お手紙は欲しいんですのよ?
でも…それは我儘だと分かっておりますし、そのうちお別れをしなければならない相手ですから…やはり少しずつ距離を置かなければならないと思って我慢しているんですの。

お手紙は嬉しいのに、なぜかちょっと切なくなりますわ…。


「週末、王都に行くからその時お茶でも…ですって」

「まぁ!ガルロノフ様からのお誘いだなんて…お珍しい」

「…………そうですわ、ね」


そういえばそうですわ。
婚約する前はよくお茶に誘っていただいていましたが、婚約してからはわたくしから誘うばかりでオレグ様から誘っていただいたのは数回…あったかしら?
………もしかしたら初めてかもしれませんわ。

気持ちの差が切ないですわ…。

ああ…心が痛い。どうして今まで気付かなかったのでしょう?わたくしの悪い癖ですわ。
ひとつのことにのめり込むと周りが見えなくなってしまうのですわ。

あのまま前世の記憶が戻らなければ…わたくしは本当に聖女様のことを暗殺しようとしていたかもしれませんわ。
恐ろしいですわ…!


「でも週末は騎士団と討伐に向かう予定ですから…お断りのお手紙を書きますわ」

「そうでしたね。姫様の模擬戦を見てからの団長様の変わりっぷりったら…ふふふ」


そう。何を思ったのか、今朝チャラス様と…あら?タラス様だったかしら?とにかくオレンジ頭の騎士様とお手合わせしてから団長様の態度がガラリと変わりましたの。

急にわたくしの今までの訓練方法だったり、どこに重心をおいて跳んだのかですとか、今朝は何を食べたのかですとか、こと細かに聞いてきたのですわ。

あれはもしかして、次回お会いしたときにどこをどうしたらもっと良くなるかご指摘してくださるおつもりで情報収集をしてくださったのではないかしら!?
さすが団長様ですわ!指導が細かいですわ!

そしてダメダメなわたくしを、週末の魔物討伐にご一緒させてくださるというお約束もしてくださいましたの!
たぶん見て学べってことですわね!頑張りますわ!

うん。気持ちがちょっと浮上してまいりましたわ!
ちゃちゃっと手紙を書いて、準備しちゃいましょう!



   *****



「討伐に同行なんてダメだ」

「なぜですの!?」


カ―――――――――――――――ン!!


討伐の話をどこで聞きつけたのか、お兄様は部屋を訪ねて来て早々に、討伐に同行することを反対なさいましたわ。

でもわたくし、引く訳には参りませんの。
自分で魔物も討伐できないようでは国外逃亡も夢のまた夢!
魔物にプチッとやられておしまいですもの!

ということで、またも…兄妹マッチのゴングが、今、鳴り響きましたわ!!
比喩ではなく、物理で!!

だから…パーヴェル様!そのゴング、どうして持ち歩いてるんですの!?
そのジャケットの中、どうなっているんですの!?


「レーナが討伐に同行なんて…危険すぎる!魔物はレーナが思っているよりも強いんだぞ!?ケガでもしたらどうするんだ!?」

「魔物が強いことは(原作を読んでいるので)存じておりますわ!でもわたくし(国外逃亡のときに身を守れるように)強くなりたいんですの!魔物も倒せるようになりたいんですの!」

「なぜ……」


確かにお兄様から見れば不可解でしょう。
王子ならともかく、姫が魔物退治だなんて聞いたことがありませんもの。

そもそも女性が剣を握ることすら稀な世界。お兄様の態度も納得ですわ。
でも……わたくしには処刑回避のために国外逃亡してひとりで生きていくという引くに引けない理由がございますもの。
ここは押し通してみせますわ!


「お前は魔法を使えないだろう?」


ギャフン。これはいきなり劣勢ですわ。
……そう。わたくしは魔法が使えないのですわ。

この世界では貴族や王族など、身分の高い者が魔力を代々受け継ぎますの。
稀に平民にも魔力を持って生まれることもございますが…本当にごく稀なことなのですわ。

そして、一応わたくしは王族。
…………一応、こんなんでも、王族。

ですので魔法が使えて然るべき…な、はずなんですが…なぜか使えないのですわ。
魔力はあるようなんですが…なぜか具現化することができませんの。

魔力には5つの属性があり、氷・水・火・風・土の順に珍しいのですわ。大体の方は風か土が多いのですわね。
お兄様は氷の魔法を使えますので、かなり希少と言えますわ!

魔力は子に遺伝しますが、属性は遺伝などではなく、神々の気まぐれによって決まると言われておりますの。
ですから産まれてくる自分の子供が魔力を持っていると分かっていたとしても、何の属性になるのかは神のみぞ知る…ということなのですわ。

で、わたくしの話に戻りますわ。

わたくしに魔力があることは分かっています。王族ですから。
ですがどの属性の魔法を試しても、全く発動しないのですわ。

魔法は自然と溢れて発動させてしまう場合もあれば、いろいろ試して発動される場合もありますの。

お兄様は前者ですわ。

初めての魔法は8歳のとき。怒りで部屋を氷漬けにしてしまったんですの。
ちなみにその時怒った理由は…なんだったかしら?見たことがないくらい怒っていたのだけは覚えているのですが…忘れてしまいましたわ。
あの温厚なお兄様がそこまで怒るなんてそうそうありませんのに。

わたくしは自然と魔法を発動させるようなこともありませんでしたので、魔法の先生の指導のもと、いろいろな魔法を試しましたが…一度も魔法が使えたことはありませんの。

これは…前代未聞なのですわ。


「ですが魔物は剣でも倒せますわ!確かに魔法があった方が楽ではありますが、無いものを言ってもしかたがありませんでしょう?」

「レーナ…剣だけで魔物を倒すのは大変なんだぞ?」

「存じておりますわ。それに今回は見学する程度だと思いますわ」

「それにしたって危険すぎる!お前の身に何かあったらどうするんだ!?」

「むぅ…」


確かにそれは否定できませんわ。
魔物がどこに攻撃を仕掛けてくるかなんて分かりませんから、安全な場所などありませんもの。

でも…


「………わたくし、(処刑されるかもしれませんから)いつまでも守られる存在ではいられませんもの」


するとその場にいた全員がハッとした顔をしましたわ。…なぜかしら?

婚約破棄されて処刑される未来は、まださすがに予兆はありませんわよね?…ありませんわよね!?


「そうか……守られるのではなく、(一国の姫として国民を)守る側になりたいのか……」

「守る側…えぇ、まぁ、(自分を)守る側…ですわね」

「レーナ…なんて立派なんだ………!」


え。お兄様、何に感動なさってますの!?

ヤーナ、なぜ涙ぐんでおりますの!?

パーヴェル様…目尻を拭ってらっしゃいますが涙が全然出ておりませんわよ!?カラッカラですわ!?


(パーヴェル様以外の)皆様どうなさったの!?
わたくしの利己的な理由に感動するポイントなんてひとつもありませんわ!?


「分かった。俺も行こう」

「え!?って、また滝ぃ!?」


お兄様がまた滝のように涙と鼻水を流していましたわ!

やっ、ちょ…!ハグはムリです!!そんな悲しそうな顔してもムリなものはムリですわ!!


「俺も行って、おまえを守ると誓おう!」

「えぇっ!?いりませんわ!?」

「なぜだ!!」

「邪魔ですもの!!」


あぁっ!うっかり本音が!


カンカンカ―――――――――――――――ン!


項垂れるお兄様と哀れみの眼差しでそれを見るヤーナ。そして……パーヴェル様!笑い過ぎでしてよ!!

ゴング!!鳴らさない!!

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