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第2部 王都ファグネリア

第71話 物思い

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ねえさんは止めてください。私の方が年下ですから」
「では、なんとお呼びすれば?」
「普通にスズカでいいですよ」
「では改めてスズカさん。今日からよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!!」
 四人が私に頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくお願いします。ではまずこの石鹸を手に付けて桶の水で綺麗に洗ってください」
「おぉ、これが石鹸か…」
「良い匂いがする…」
「食品を扱うので衛生管理が大切ですから」

「では次に食事の分量を教えますね。まずは計量カップのここまで餌…げふん、げふん、カリカリを入れて、それから…」
 私は四人にカリカリの分量やスペシャルの作り方を教えて行く。
 そして厨房の中に桶を置き水を入れ洗い物が出来るようにした。
 四人居たら洗い物もできるし助かるわ。

「これなら俺達でも簡単にできそうだ」
「そうですね、お頭」
「おい、もうお頭はないぜ」
「そ、そうでした。これからはアモスさんと呼んで良いですよね」
「もちろんだ」

「今日は私はまずはやって見せますね。後は慣れてきたら代わってもらいますから」
「はい」
「わかりいました」
「では、お客様が待っています。開店しましょう」
 私はそう言うと雨戸を開けた。
「いらっしゃいませ!!」
 こうして朝の忙しい時間が始まった。


「ワンコスペシャル入りました~!!」
「はい、ニャンコスペシャル入ります!!」
 あ、それは別に、言わなくても良いんだけど…。
 アントンさんとアモスさんに食事を作ってもらい、ジョフレさんとヨルゲンさんは皿洗いをやってもらっている。
 最初は戸惑ったようだけどすぐに慣れたみたい。
 まあ、測るのも簡単だしね。

「おや、スズカさん。人を雇ったんだね、いつも忙しそうだから」
「良かったね。あんた達、しっかりやりなよ」
 お客さん達が声を掛けてくれる。

「おい、あんた達。スズカさんに不義理を働くようなことがあったら、ここ王都では暮らせないと思いなよ」
 たくさんのお客さんに脅かされ、四人はビクビクしていた。
「わ、わかってます」
「まあ、そんなに脅かさないであげてくださいよ」


 暫くすると四人も慣れてきたようで、私は奥で見ているだけでよかった。
 まあ種類がないから覚えやすいのもあるけどね。
 これなら二~三日したら任せられそうだわ。

 あぁ、そこ!!
『六個の天然水』の水をこっそり水筒に詰めない。
 まあ、仕方がないわね。
 この地方ではあまり雨が降らないみたい。
 街中なら水は井戸水しかない。
 しかも生臭いらしい。
 その点、お店で自由に飲める『六個の天然水』は格別に美味しい。
 ペットボトルの水が美味しいと思えるなんて、今までどれほど恵まれていたのかしら。
 まあ正確には石油製品は無いから、ペットボトルではなく竹の水筒なんだけどね。
 クッ、クッ、クッ、



 忙しい朝の時間帯も終わりみんなで木皿を洗っている。
 やはり四人にいると早いわ。
「そう言えばスズカさん。夕方来る人族がいる冒険者パーティですが、人族が頼む食べ物の作り方は習わなくていいのでしょうか?」
「そうねヨルゲンさん。今のところ『燃える闘魂』のゲオルギーさんと、アレクサンデルさんの二人だけだから私が作るからいいかな~。それに今は煮込んでいるけど、もう少し需要があればお湯かけ3分でもいいし…」

「そうですか。彼らが食べている物はなんというのですか?」
「小麦粉を原材料としたラーメンという物よ」
「ラーメンですか?生卵も入っていてとても贅沢だと思います」
「えぇ、そうね。彼らが食べているのはチキンラーメンというの」
臆病者チキンラーメンですか?!」
「そう、美味しそうな名前でしょう?」

 あ、目にゴミが…。

 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 俺の名は狼族のヨルゲン。
 今日から『屋台の店シルバー』と言う店で働いている。
 店は獣人用の食堂で朝から物凄い数の人達が食事に訪れている。
 まさかここまで混むとは…。
 今までスズカさんは、これを一人でさばいてきたのか。


 俺達が今日から働くことを挨拶がてらお客に話すと、何人かのお客から釘を刺された。
「スズカさんに不義理を働くようなことがあったら、ここ王都では暮らせない」と。
 その目はけして笑っていなかった。
 俺達が元地回りだと知っているのだろう。
 朝のお客は全て獣人で冒険者が多く百人以上は来ただろう。
 そんな彼らのよりどころの店で悪さをしたら俺達の命が危ない。
 これを機会にまっとうになろうと俺は思った。

 夕方に来る冒険者パーティの中に人族がいる。
 その人達用の食事は覚えなくて良いのか聞いてみた。
 すると今のところ二人だからスズカさんが作るそうだ。
 しかもその食事の名前を聞くとスズカさんは、にこやかに笑いながら『臆病者チキンラーメン』だと言う。

 臆病者チキンだと?
 同じ人族なのに、どうして…。

 するとスズカさんは手を目に当てる。
 泣いているのか…。
 俺は気づいてしまった。
 その笑顔の奥にある悲しみに…。

 彼女は人族を信用できないほどの辛い思いを、今までしてきたのではないかと。
 そうでなければこの若さで王都に店を開けるわけがない。
 さぞ、辛い思いをしながらここまで来たのだろう…。
 その証拠に彼女には家族は居ないようだ。
 どんなにつらい思いをしてきたのだろう…。

 だから同じように見下されてきた獣人に対して優しいのでは。
 笑顔の陰では人族を恨んでいるのだろう。
 その思いが商品名の、臆病者チキン野郎だ…。
 商品名なら、はばからずに言うことが出来る。

 大丈夫です、スズカさん。
 俺達四人であなたを支えていきますから。

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