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第2部 王都ファグネリア

第68話 出会い

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 ドンッ!!
 夕食時期の忙しい時間帯にカウンター台を叩く大きな音が響く。
「なんだ、この店は!!客にこんなものを食わせるのか?!」
 見ると木皿の中には3cmくらいの、大きなゴキちゃんモドキが入っていた。

「申し訳ございません。カリカリの3倍以上はある虫が、とても入るとは思えませんが…」
「な、なんだと~!!自分の店の非を認めないのか?」


 俺の名は犬族のアントン。
 このエリアを仕切る虎族のアモスお頭配下の、 取るに足りない地回りの一人だ。
 獣人は異種族と人族の国では蔑まれ、仕事にありつけない。
 そんな輩が集まった集団だった。
 しかしそれだけでは生活はできない。
 アモスお頭は盗みや人身売買などには手を染めず、地道に頑張って来た人だった。
 だがそれでも生活は豊かにならず、徐々に人が抜けていき俺達三人が残った。
 生活費を稼ぐため、こんなことをやり始めた矢先だった。

 数か月前からとても混んでいる店が、裏路地にあると聞き様子を見に来た。
 するとどうだ。
 100人近い客が店の前に並び待っている。
『屋台の店シルバー』と言うのか。
 店の中からは食をそそる、とても良い匂いがする。
 そしてあっという間に、オーダーが出て来て客はすぐに食べ店を出る。

 客足は途切れず、絶えず同じくらいの人数が並んでいる。
 聞いていた通り獣人専用の食堂のようだ。
 しかも値段は三百円と四百円と格安だ。
 異種族と見下され肩身の狭い思いをしている、俺達相手の店を出すなんて。
 どんな奴が店主かと顔を見てやろうと思い見てみたが、カウンターには黒髪の女の子が一人だった。
 厨房にも人が居るのだろう。
 注文が入ると都度、厨房に注文を伝えている。

 俺は狐族のジョフレと狼族のヨルゲンを連れ、店にやってきている。
 路地で捕まえた虫を、出て来た木皿に入れ女の子に文句を言った。
 するとどうだ。
 怯えるかと思った女の子は落ち着いた態度でこう言ってきた。
「申し訳ございません。カリカリの3倍以上はある虫が、入るとは思えませんが…」

 俺達は焦った…。
 普通のスープなどの食事なら、まだ通ったかもしれない。
 しかし、いつもとは違い木皿に1cmくらいの粒が乗った食事なのだ。
 そんな大きな虫が入っていたら最初からわかるはずだ。
「おい!!次がいるんだ。早くしてくれよ!!」
「そうだ、早くしろよ!!」
 並んでいる百人近い獣人に声を浴びせられ、怯んだ俺達は一旦引いた…。


 そして次の日…。
「おい!髪の毛が入っているぞ!!この店はどうなっているんだ?」
 するとカウンターの女の子は、また落ち着いた態度でこう答えた。
「私の髪の毛は黒色なので、その茶色の髪はご自身のでは?」
 う~ん。
 そう言われると返す言葉が無い。
 一般的に獣人の髪の毛は茶色が多い。
 しかし黒色の髪の毛の人族は、この国では珍しく手に入る訳が無かった。

 カウンター前で文句を言おうと思っても店はとても忙しく、並んでいる客から俺達が文句を言われてしまう。

 仕方がない。
 ここは虎族のアモスお頭にお越し頂くか。
 夕方の時間にお頭を伴い、狐族のジョフレと狼族のヨルゲンを連れ店にやってきた。
 さすがに忙しい時間も過ぎたのか、少女が店の前を掃いていた。

「お頭、ここです」
「おう、そうか。おい女。スペシャルとやらを二人前くれ!!」
「はい、わかりました。虎族と犬族の方ですね」
「そうだが、なにか問題でもあるのか?」
「種族によってお出ししている食事が違うので」
「そうか、何でもいいから早く出せ!!」
 お頭が威圧するように大きな声を出す。
 最初から難癖を付けるつもりなのだ。
 味なんてどうでも良い。
 早く食事を出させないと。

「ワンコスペシャルとニャンコスペシャルはいりました!!」
 厨房に向い注文を繰り返している。
 やはり奥に誰かいるようだ。

 そう思った時だった。

 ゾワッ!!
 何かを感じた。
 獣人は危険感知が優れている者が多い。

 混んでいる時はたくさんの人に紛れ分からなかったが、お頭と二人しかいないこの時間帯ならわかる。
 や、やばい。
 やばい奴が他にいる。
 そんな時だった。


「こんばんは!スズカさん」
「いらしゃいませ。『燃える闘魂』の皆さん」
 冒険者が4人入って来た。
 獣人が二人、人族が二人。
 ここは獣人専用の食堂のはずだ。
 人族はお連れか?
 そう思った時だった。

「いつもの奴で良いですか?」
「あぁ、頼む」
「俺達もそれでお願いします」
「わかりました」
 俺は思い切って女の子に聞いてみた。

「おい、ねえちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
「あんたの他に、奥の厨房に人が居るのかい?」
「え?あなた達もシルバー目当てだったの?なんだ、早く言ってくれればいいのに」

 誰だ、それは?
「シルバー、お客さんよ。あなたに会いたい、て」

 すると奥からゾワリと気配が動いた。
 やばい、これはやばい。
 危険を知らせる鐘が俺の中で鳴る。
 アモスお頭を見ると同じようにガタガタと震えている。

 気が付くと奥から気配が立ち上がった。
 それは体長2mはある大型のシルバーウルフだった。

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