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第13部 蒸気機関車

第125話 奴隷解放と左手の煩悩

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 それからしばらくして打ち合わせも終わり、アイザックさんとヨハネス様は帰って行った。
 とは言っても同じ敷地内に、アバンス商会もシャルエル教もあるんだけど。

「アルバンさん。アルシアさんとアディちゃんを、呼んでいただけませんか?」
「2人をですか。お待ちください」

 アルバンさんは客間を出ていき、アルシアさんとアディちゃんを連れて戻ってきた。

「お呼びでしょうか?エリアス様」
「エリアスお兄ちゃん、久しぶり~!」
「これ、駄目でしょアディ。エリアス様よ」
「だって初めて会った時に『お兄ちゃん』て呼ぶように言われたもん」
「よく覚えていてくれたねアディちゃん。さあ、3人共座ってください」

 俺は3人に目の前のソファを勧めた。
「いったいどんなご用でしょうか?エリアス様」
「約束を果たそうと思いまして」

「「「 約束?? 」」」

「えぇ、そうです。みなさんを購入した際に支払った分、働いたと思ったら『解放』すると約束をしましたね。もう十分、それ以上の利益が出ていますから」
「と、いいますと」
「みなさんを奴隷から解放致します」

「「「 えぇ!!本当ですか 」」」

「みなさんと出会ってから1年近く経ちます。その間に商会がここまで大きくなったのはみなさんの力ですから」
「そ、そんなエリアス様。私達は言われたことをやって来ただけで」
「それが中々できない事なのですよ。そしてこれからは管理者を育てていきましょう。必要になってからでは管理者は間に合いません。ですから良さそうな人が居たら出生を問わず雇ってください。そしてその人だから、これをやらせてみよう、と思うような仕事を与えていきましょうか」

「では今まで通り雇って頂けるのでしょうか?」
 3人共、不安な顔をしている。

「勿論です。それともエリアス商会はもう嫌になりましたか?」
「と、とんでもありません。こんな快適な職場はどこにもありません」

「では明日からもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。エリアス様」

 アルバンは胸を撫で下ろした。
 とっくに自分達を買い戻せるほどの収入は得ていた。
 だが奴隷から解放されることで、立場がどう変わるのか不安だった。
 奴隷の方が生活が安定していて、幸せな生活が変わるのが怖かったのだ。


「では奴隷契約の解除を致しましょう」
「解除ですか?奴隷商には行かないのでしょうか」
「えぇ、行きません。今はもうあなた達はエリアス商会の社長の家族です。奴隷商からあなた達の出が分かってしまうかもしれなせん。それに俺も最近、独学ですが契約魔法が使えるようになりまして。試してみたいのです」
 
「独学で、ですか!さすがはエリアス様です」
 アルバンはさらに驚いた、奴隷契約の解除を独学で学び試したいなどと。
 いつもエリアス様は自分が考える、遥か上を行っていると思った。


「ではみなさんの胸の紋章を見せてください」

 アルバンさん達の奴隷契約は特殊で、契約魔法を掛け首輪の代わりに胸に紋章を刻んでいる。
 違反行為をすると、胸が締め付けられる様になっている。
 なぜそうしたかと言うと、アルバンさんにも営業に回ってもらう。
 その都合上、奴隷では相手にしてもらえないからだ。

 紋章は人から分からない様にと、魔法で胸の間に刻んでもらっていた。
 服で隠しておけば奴隷だと分からないからだ。


「お願いします、エリアス様」

 3人は服をたくし上げた。

 試したいことはこれだ。
 俺のストレージはカスタマイズ可能になってる。
 魔法や炎などの攻撃は収納できることは知っている。

 契約魔法も可能なのか試したかった。
 だが中々、契約魔法自体にお目にかかることが無い。
 奴隷解放に合わせて、いいチャンスだった。


「では行きます!」
 最初はアルシアさんからだ。

  俺は胸の間にある紋章に左手を置いた。

 集中だ、集中するんだ。
 俺は気持ちを集中させた。

『アルバンさんの奥さんの、アルシアさんは23歳』

 集中、集中。

『まだ若く子供を1人生み、体の線がやや丸くなり』

 集中、集中、集中。

『柔らかそうな肌と、母性愛に満ちた胸』

 集中、集中、集中、集中。

『そしてアルシアさんの、甘い香りがする…』

 ま、不味い!
 集中するところが違う。

 しばらくすると左手が青白く光り始めた。

 で、できる!
 できるぞ~!

「あっ!」
 アルシアさんが目を閉じ、唇を半開きにして顎を少し上げる。

『こ、これは贈物ギフトか!』



 煩悩だ、煩悩を捨てろ!

 ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!
   ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!ポイ!

 
 だ、駄目だ。
 108つも数があれば、捨てきれない!

 そ、そうだ!

 久しぶりに【メンタルスキル】沈着冷静が働き、気持ちが収まった…。
 ふぅ~!危なかった。

 名残惜しいけどいつまでも、胸をたくし上げさしている訳にもいかないからね。

 もう、いいかな?

 左手を胸から離すと光が収まり、奴隷紋は消えていた。

 おう、やった~!
 契約魔法も収納できたぞ!



「アルシア見てみろ、奴隷紋が消えている!」
「えっ、あなた本当だわ。あ~夢の様だわ」
 アルシアさんが目を潤ませて喜んでいる。

 それから俺はアルバンさんやアディちゃんの奴隷紋を、で消していった。

「凄いです、エリアス様。本当に消すことが出来るなんて」
「エリアスお兄ちゃん。お母さんの時はあんなに長かったのに、お父さんと私の時は早かったね」
「それは慣れたんだよ。アルシアさんは初めてだったから、時間が掛かったんだよ」
「なんだ、そうだったのか。ジ~~~」

「それからみなさん、これからも俺のことやエリアス商会の事は、守秘義務を守ってくださいね。あははは!」
「勿論です。これからもエリアス様に付いて行きます」



 3人はとても喜んでくれた。
 この世界に転移して初めてできた家族みたいな人達だからね。
 喜んでもらえて俺も嬉しかった。

 ストレージの中を見ると『契約魔法:3』となっていた。


 そして俺は3人に見送られてエリアス商会を後にした。
 それから城門を出てセトラー領まで走って帰った。




 エリアス・ドラード・セルベルト侯爵。
 セトラー領、領主18歳。

 58歳で人生が終わり17歳で、この世界に転移してから1年が過ぎた。
 精神年齢も肉体と同じように若返る。

 そして色んな事に興味を持つ年頃を、また繰り返すのであった。
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