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第13部 蒸気機関車

第122話 忘れていること

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 土地を確保した件は、もう深追いしないことにした。

 俺は石炭、鉱物を運んできた場所を造る事にした。
「では、いきますよ」
 駅のところに移動し更地にしたい場所の建物を、ストレージの中に収納していく。

「「「 おぉ~~!! 」」」

 それを見ていた周りの人達がどよめく。

「こ、これがエリアス様の、『愛し子』様のお力か…」
 大司教ヨハネス様は両手を胸の前で組み跪いていた。

 そして城門から手前に250m、横に300mくらいを更地にし、その奥に石炭、鉱物用の倉庫を造った。

 貨物から石炭、鉱物を降ろすために、ストレージ内の『創生魔法』でスコップ、リヤカー、一輪車の手押し車いわゆる猫車を創り出した。

 それから駅のところに転車台を設けた。
 蒸気機関車は一方方向しか進むことが出来ないため、地上にターンテーブルを創り、その上に乗り車両の方向を変えるための装置が転車台だ。
 ただそれを回すのは、人力になるんだけどね。

 これで荷下ろしの場所も完成した。
 後は貨物から鉱物を降ろすだけだ。

「ヨハネス様。石炭、鉱物を卸す人は確保できましたか?」
「はい、エリアス様。ここに」
 そう大司教ヨハネスは言うと、後ろにいる人達を手で招いた。

 な、見物人かと思ったら、作業員の方達でしたか。
 ざっと100人は居る。
 こんなに人が集まるなんて。

「募集を出しましたところ、派遣雇用で給料も高額。しかも3年間、真面目に働けば、社員雇用もあると聞いて、たくさん応募がありまして。やっと絞ってこの人数です」

 そうだよな。
 この世界では大きな産業が無いから、長期雇用がない。
 だから失業率が高いんだ。


「ヨハネス様。しばらくこの人数でやってみて、足りないようであれば増やしてもらえますか」
「もちろんです、エリアス様」
「それから炭鉱や鉱山で掘り出す人が欲しいのです。最初は20人くらいで良いと思います。探してもらえますか?」
「分かりました」

「ただ、それには条件があります。炭鉱や鉱山で採れるものは高価な物になります。その為、炭鉱夫は信用のおける人だけではなく、親や家族でも良いので保証人が必要となります」
「なるほど、それほどの価値があるということですな」

「アルバンさん、ちょっといですか」
「はい、エリアス会長」

『炭鉱夫の事ですが重労働になるので、ここで働く人の1.3倍までは出せますから』
『そ、そんなにですか!今でも高収入だと思いますが』
『会社だけが儲けるのではなく、働く側も豊かになれば会社は更に伸びます』
『どういう事でしょうか?』
『会社は働く側のやる気を、お金で買っている、と言う事ですよ』




 私はアルバン。
 エリアス商会で社長を任され、はや1年。
 随分とエリアス様の考えに慣れたつもりだったが。

 会社は働く側のやる気を、お金で買っている。
 確かにそうだが、その考えを実行できる店は少ない。
 
 なぜなら、その店自体が明日はあっても、半年後はわからないからだ。
 いつ潰れるか分からない。
 だから儲かったからと言って、従業員の給与を上げていくことはしない。

 そう言う私も以前は商売をしていて、先物取引に手を出し大暴落。
 赤字になり家族三人して奴隷に堕ちた。
 そんな時、エリアス様に家族ごと購入して頂いた。

 そしていつの間にか店を任され、私は社長と言われるようになっていた。
 調味料販売がこれほど儲かるとは。

 アバンス商会に卸し、商会の販売網を使い売りさばく。

 人が足りなければシャルエル教の、大司教ヨハネス様に頼み信徒さんに手伝いに来てもらう。
 そしていつの間にか手伝いだったのが、シャルエル教は人材派遣会社を立上げた。
 アレンの街も失業者が多く、その人達の雇用促進にも役立っている。

 このことによりアレンの街のシャルエル教は、人々から信頼を得るようになった。
 最近では他の州から仕事を求めてくる移民も多いとか。

 だがヨハネス様は、心に嘘、偽りがある人は雇わない。
 もし雇った人が派遣先で不義理を働いたら、生きていけないと大げさな事を言っている。
 派遣先の大半が、今はエリアス商会だ。
 そしてなぜかヨハネス様は、エリアス様に下手に出ている。
 この大陸で王族より権利を持ち、絶対的な信仰と信徒さんを持つ大司教様がだ。
 まるでエリアス様が信仰の対象のように。
 
 そしてエリアス様の凄いところは、卸業に徹することだ。
 人を雇わず外に仕事を出すことで、売上が落ちた際の危険を減らすという事だろう。
 人を雇い管理するには時間とお金がかかる。
 それならそれが出来ているアバンス商会の様なところに、利益は減っても出した方が良いという事になる。

 誰が想像するだろう。
 この1年で領の3割近い納税金がシャルエル教関連の会社、エリアス商会、アバンス商会だと。

 売上が減ったら外に出していた仕事を、縮小すれば良いだけなので懐は痛まない。
 だが、これは最悪の場合だ。

 私は大司教ヨハネス様とアバンス商会のアイザック様とは、仲良くやって行きたいと思っている。
 
 売上は私に一任され、全て商業ギルドの口座に入っている。
 エリアス様がセトラー領の領主になられた時に商会を任された。
 その時に給与は月の売上の5%あげるね!と言っていたことを覚えている。

 だがその月の5%の給与で、私達親子3人が3年は暮らしていける額になっている。
 
 私は今、とても幸せだ。
 あぁ、誰が信じるだろう。
 奴隷である今の方が富も名誉もあることに。

 解放される日を考えると、そちらの方が不安になるくらい幸せだ。
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