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第13部 蒸気機関車

第103話 スティルワイン

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 俺達の横の列の席にはカロリーナの侍女のナターシャさんと、ダークエルフのディオさんが同じ席に並んで座っている。
 その向かいにはマリーの侍女のサブリナさんが、イケメンなダークエルフと並んで座っている。

『ナターシャさんとサブリナさんはモテモテみたいじゃないか?』
『えぇ、そうなんですよエリアス様。でもナターシャはディオさんと付き合い始めてから、半年も経つのにまだ結婚を申し込まれていない、て嘆いていますわ』
 カロリーナが答えればマリーも同じように答える。

『サブリナも最近ラビさんと言う今、隣に座っている彼氏が出来たんですけど、そんな話はないようです』
『エルフは長生きだから、俺達と時間の観念が違うのかもしれないね』
『時間の観念ですか』

『カロリーナ、では聞くけど。好きな人と明日は会えるけど、1年後には会えないと分かっていたらどうする?それまでの時間を大切にしたいと思わないかい』
『それはそう思いますわ。でも別れは事前には分からないものですわ』
『エルフと人族なら分かるでしょ。ナターシャさん達が今30歳位だとしたら、生きても後20~40年くらいだ。でも400~500年生きるエルフにすれば、それは4~5年くらいの感覚でしかない』

『では、どうすればいいのでしょうか、エリアス様』
『マリー、それはね。彼女達は早くしないと子供も産めず後20~40年で、年老いて死んでしまう事を彼らに教えてあげればいいんだよ』
『そう言うものでしょうか?』
『今日会えたから明日も会える。いつでも側に居てもらえると思うのは勘違いだね』


「分かりました、エリアス様」
「へ?」
 横を見るとダークエルフのディオさんとラビさん、ナターシャさんとサブリナさんがこちらを見ていた。
「私も人族とエルフの時間の流れの違いを忘れておりました」
 そうディオさんが言う。
「お、俺もです」
 ラビさんもそう言う。

「ナターシャさん、お待たせして申し訳ありませんでした。あなたの残った月日を私にください」
 ディオさんは片膝をつき、ナターシャさんに手を差し出した。
「ええ、もちろんよ。喜んで」
 ナターシャさんは嬉しそうに微笑んだ。

 そして向かいの席でもラビさんが始めた。
「サブリナさん、どうか俺の…「はい、喜んで!」
 サブリナさんはラビさんの首に手を回して答えた。
 はや、返事、はや早い

「ありがとうございました。エリアス様」
 ナターシャさんがお礼を言う。
「俺はなにもやってないけど」
「いえ、あれだけ大きな声で、私達のことをお話しされているとさすがに」
 追い打ちをかけるようにディオさんが言う。
「何やらコソコソ話をしている風でしたが、丸聞こえでしたよ」

〈〈〈〈 I screwed upやらかしちまった!! 〉〉〉〉〉

 車両の中は一気にお祝いムードに染まった。

 そしてストレージの中になる赤ブドウを時空間魔法で、時間を加速させアルコール発酵し4人のために赤ワインを創った。
 俺のストレージ内は時空間魔法で時間が停止している。
 だが時空間魔法なので時間を、加速させることができるのだ。
 しかし使い方としては醤油やソースを熟成、発酵させるだけの地味な使い方しかできないのだが。

「4人のために赤ブドウで新しいお酒を造りました」
 そう言いながら俺はストレージの中の『創生魔法』でグラスを人数分だけ創った。
 
「さあ、みなさん。飲んでください」
 俺はストレージからワインを樽で出した。

 そしてみんな樽からそれぞれ、ワインを注ぎ飲み始めた。
「美味しい~!」
「口当たりが最高」
「これはブドウですね。ブドウでお酒を作るなんて、さすがエリアス様です」
 カロリーナが美味しそうに飲んでいる。

「これは優しい味ですね」
(だから、優しい味て、どんな味だよ)


「なんという名前のお酒でしょうか?」
「マリー、これはね」
 俺は少し考えた。
「スティルワインだよ(泡立たない非発泡性の、ブドウの果汁を発酵させたお酒)」
平穏スティルワイン、まあ、なんて4人の始まりに相応しい素敵な名前なのでしょう」

 季節は春。
 桜に似た花が線路の両脇に咲き、風に揺られて花弁はなびらが落ちていく。
 その花吹雪の間を蒸気機関車は走って行く。
 
 俺はストレージからカツや唐揚げ、とっておきのクリームシチューを出した。
 それから更に車両の中は盛り上がり、飲めや歌えの楽しい時間が過ぎた。

 それから数年後にスティルワインが販売され、結婚式やお祝い事に欠かせないお酒となった。
 そして花が咲く時期に蒸気機関車に乗り、お酒や料理を楽しみながら州を移動する『お座敷列車』が大流行した。
 もちろん火付け役はエリアス商会だ。






 シュポポポ、シュポポ、シュポポポ、シュポポ、シュポポポ、シュポポ
     シュポポポ、シュポポポ、シュポポ、シュポポ、シュポポポ、シュポポ

    〈〈〈〈〈〈〈〈 ポ、ポワォ~~ン!! 〉〉〉〉〉〉〉〉〉

 その頃、機関車車両では、
「おい、なんか後ろの車両が騒がしくないか?」
「気のせいだろイーヴァイン。機関車の音がうるさくて何も聞こえないぞ」
「それよりも前に集中しろよ」
「あぁ、わかったよ」

 こうして機関車は鉱山へ向かうのであった。
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