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第10部 結婚

第83話 人力車

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 俺はカロリーナと侍女のナターシャさんを連れて歩いている。
 セトラー領に一緒に行くマリーを、ドゥメルグ公爵家まで迎えに行くところだ。
 公爵家の門番に来たことを伝えてもらい、客間に案内された。
 待っているとドゥメルグ公爵とマリー。
 一緒に行く侍女のサブリナさんがやってきた。

「おはようございます。エリアス様」
「おはよう、マリー」
「マリーをよろしく頼んだぞ、エリアス」
「お任せてくださいドゥメルグ公爵様」
「マリーの嫁入り道具は倉庫にある。さあ、行こう」

 倉庫に行くと鏡台やタンス。
 その他、洋服と思われる荷物がたくさん置いてあった。
 こんなにいるのか?
 それをストレージにどんどん収納していく。

「相変わらず容量が多いマジック・バッグだな。それだけ入れば戦時中の物資運搬に重宝するな」
「そのような事が起きないことを願います。公爵様」
「ま、どちらにしろどの国も兵士の数は拮抗きっこうしてるからな。戦争に出兵できるのはどの国も精々1,000人。そして200~300人の兵士が死んだ時点で撤退だ。だから攻めても、たいした結果を出せないまま終わるから戦争はしないのさ」
 なるほど、圧勝できるほどの戦力差がない。
 街を占拠できるほど兵士を導入すれば、消耗が激しいてことか。

 王都に行く途中で賊をクロスボウで倒した際に、作ってほしいと言っていたが。
 戦力差がなければ、武器の威力に差がつけば状況が変わるな。
 忘れた振りをするか。

「ところでエリアス。クロスボウだがいつ作ってくれるんだい?」
 あっ、やっぱり覚えていたか。
「はい、領地に帰って落ち着いたら作りますから」
「あぁ、それでかなわない。以前の話の通り100台頼めないか。1台50万だ」
 これがきっかけになり戦争とか始まったらどうしよう?
 プレートアーマーなら矢は弾くが、全員がプレートアーマーな訳ではない。
 ライトアーマーの兵士なら矢でも倒せる。
 クロスボウが100台あれば、ライトアーマーの兵士なら300人くらい倒せるかもしれない。
 
「約束してください公爵様。あくまでもクロスボウは防衛に使うと」
「あぁ、もちろんだよエリアス。陛下もそんな気はないだろうよ」
「それならいいのですが」

 一度、セトラー領に戻り、また出直してクロスボウを持ってくるのも面倒だ。
 しかしこの場でストレージ内で作り、クロスボウを出したら余りにも不自然だ。
 それではまるで歩く兵器工場だ。
 やはり今度にしよう。

「あの~、エリアス様。馬車はどうされたのでしょうか?」
「あぁ、マリー。馬車はね、セトラー領に行っても使わないから売ったよ」

「「「 売った~!? 」」」
 みんなが一斉に口を揃える。

「ではどうやってセトラー領まで行くのですか?」
「これで行くんだよ」
 そう言って俺はストレージから朱色の四輪人力車を出した。
「これはなんでしょうか?馬車のようですが」
「人力車です。人が引く車です。これなら馬はいりませんから」
「誰が引くのですか?」
「もちろん俺ですよ」
「エリアス様が!!」
 マリーや侍女のサブリナさん。
 ドゥメルグ公爵やその場にいた侍女のみんなが目を見開いた。
 
 なにか変なことを言ったか?
 人力車は良いぞ。
 観光名所を回ると風情があるぞ。

「それにアレンの街からセトラー領まで、道を整備しながら帰りますから」
 王都に行った際に公共事業の話を陛下とした。
 その時に俺はドゥメルグ公爵と話し、アレンの街からセトラー領までの道の整備は俺がする事になっていた。
 その代わりその際に出た木々や岩は俺の物になる。

「しかしエリアス様。ご自身で馬車を引くのは止めた方が」
 執事のアルマンが言う。
「いえ、引きながらの方が馬車より早いですから」
「ですが侯爵様がそんな事を…」

「アルマンもうよい。エリアスの感性は私達とは違うのだ」
「しかし、公爵様」

 
「では行きましょうか」
 2列ある席の前はカロリーナとマリー。
 後ろは侍女のナターシャさんとサブリナさんだ。

 俺は颯爽と人力車を引いて公爵家を出た。
 風を受けて道を走る。

 パフ、パフ!!
 人力車につけた自転車用のクラクションを鳴らす。
 人々は驚いて道を開けてくれる。

 ここ2週間、街を離れただけで随分、他の街からの人が多くなったな。
 それに食べ物屋が増えた。
 そんなに美味しいものが販売されたのかな?

 こうして俺達はアレンの街を後にした。

  *    *    *    *    *

 後日、アレンの街の人々は噂をした。

 今度、セトラー領を賜った侯爵はお金がないと。
 馬が買えないから侯爵みずから、奥さんと侍女を馬車に乗せ自分で引いていたと。
 そんな事をするのは身分の卑しいものか奴隷だけだ。

 その噂が街中に溢れ人々の涙を誘った。
 国に尽くしたのに報わないと。

 そしてその話はジリヤ国全土に広がり、国王は国民の不況をかった。

 その後、国王側はセトラー領に向け、たくさんの贈り物を送った。
 国民に見せつけ名誉挽回をするかのように。

「カロリーナ、また国王様から贈り物が届いたぞ。よっぽどお前が可愛いんだな」
「う~ん。お父様は王都に居たときは、私には興味なさそうだったのに」

 親は口に出さなくても、子供が一番大切だと思いたい。
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