上 下
65 / 128
第9部 王都

第65話 王都へ 4日目 ウォルドの街

しおりを挟む
 アレンの街を出てから4日目だ。
 一日40~50kmを馬車で移動しているとしたら、王都まで160~200kmくらいか?
 地球でいえば県をいくつ分、移動したことになるのだろう?
 さすがに4日目になると、話ことも無くなりみんな無口になる。
 
 今日で順調にいけば、王都の隣にあるウォルドの街に入れるようだ。
 ウォルドの街には大きな湖があり、鮎や海老が美味しいとか。

 しかし退屈だ。
 道の駅でもあれば、少しは気がまぎれるのだが。
 実際に街の人たちは商人や貴族でもない限り、生まれてから死ぬまで街を出ることはないらしい。
 街の外は危険がいっぱいだからだ。
 だから旅先で困ったことがあっても、誰かに出会う可能性が低い。
 例えば今、目の前の道を塞いでいる馬車の様に。

 俺たちが乗っている馬車が止まった。
 どうしたのか聞いてみると、他の馬車が道を塞いでおり通れないと言う。

 商人らしい馬車の車輪がわだちにはまり、動けなくなっているようだった。
 馬車を降りて近づいてみると商人と、それを護衛する冒険者が4人だった。
 
「お困りのようですね」
「あぁ、見ての通りですよ」
 30代後半の商人さんが言う。

 俺は馬車に戻り公爵様に事情を話した。
 商人の馬車が道を塞いでおり、どかさないと通れないことを。
 公爵の指示で最低限の護衛を公爵の馬車に残し、商人の馬車をみんなで押した。
 さすがに20人近くの人数で押しただけあり、馬車はわだちから出せた。

 そんな時だった。

「「「「「 バンッ!! 」」」」」

 大きな音がしたかと思うと公爵の侍女たちが乗った馬車が消えていた。
 そして上を見ると大きな魔獣がいた!

【スキル・鑑定】簡略化発動
 名前:ワイバーン
 種族:魔獣
 年齢:150歳
 性別:オス
 レベル:35
【特徴】
 ドラゴンの頭、コウモリの翼、ワシの様な脚、毒針の生えた尾を持つドラゴン
 飛行速度が速く知能は獣並みで、ドラゴンと比べると小型で弱い

 ワイバーンの脚には侍女達が乗った馬車が捕まれていた。
 そして空高く舞い上がり、山脈の方に飛んで行った。
 あっという間の出来事だった。

 馬車の商人はガタガタ震えていた。
「私はウォルドの街の商人ですが、最近ワイバーンが現れ旅人を襲うと聞いていましたが、まさが襲われるとは」

 ウォルドの街の公爵家も対応に動いてはいるが、空を飛ぶ魔獣のため、手をこまねているとのこと。

「たしかウォルドの街はノルベール公爵の管轄だったはずだ。寄っていこう」
 ドゥメルグ公爵はそう言い、動揺しているみんなを落ち着かせた。

 その後、商人の先を行き急いでウォルドの街に入った。
 そのままノルベール公爵家に向かった。

 そしてドゥメルグ公爵は、ノルベール公爵に至急会いたいと面会を求めたのだ。
 お供は執事のアルマンと、なぜか俺だった。
 客間に通されしばらく待っていると、恰幅のいい40代の男性が入ってきた。
 
「これはこれはドゥメルグ公爵。わざわざお越し頂くとは。本日はどの様なご用件ですかな」
「突然の訪問となり、お詫びいたします。実は王都に向かっていたのですが、くる道中でワイバーンに襲われ、侍女たちが乗った馬車ごと持っていかれまして」
「おぉ、それは災難でした。実は数か月前からワイバーンの被害が出ており、手を尽くしてはおるが、分かったことはバーク山脈に巣くっていることくらいでして」
「討伐隊は出さないのですか?」
「相手は空を飛ぶ。森の中を進み山脈に向かい、しかも出せる兵も500人だな。攻めてくれば別だが、こちらから攻めるのは得策ではない」

 そして簡単な自己紹介が始まった。
 俺のことは開拓村の村長だと言ったら、馬鹿にしたような顔をされたぞ。

 聞いた話ではどの街も平均人口は1万人くらいらしい。
 そして国や騎士に属しているのが、その内の二割もいない。
 ワイバーン討伐に直ぐに出せるのは500人くらいだとか。
 そして空にいる魔物にどの様な攻撃手段があるというのか。
 攻めても勝ちはないと言われた。

「居場所は分かっているのなら、俺が行きましょう」
「何をいっているのかな、君は?」
「彼ならできるかもしれませんよ、ノルベール公爵」
「どういうことでしょう、ドゥメルグ公爵」
「『愛し子』と言えばお分かりですかな?」
「な、なんと!」
「彼を王都に連れていくのはあくまでも『開拓村の村長』として、ですけどね」
「だが、手はあるのかね?『愛し子…「エリアスで結構です」
「ではエリアス君。どんな勝算があるのかね」
「バーク山脈に巣くっていることは間違いないのですね」
「あぁ、そうだ。ただ詳しい場所までは分からん」
「でも手はあります」
 そう俺は言って、笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

宝くじ当選を願って氏神様にお百度参りしていたら、異世界に行き来できるようになったので、交易してみた。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。 2020年11月15日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング91位 2020年11月20日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング84位

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ
ファンタジー
書籍化に伴い改題いたしました。 といっても、ほとんど前と一緒ですが。 変わり者で、落ちこぼれ。 名門貴族グレーテル家の三男として生まれたウィルは、貴族でありながら魔法の才能がなかった。 それによって幼い頃に見限られ、本宅から離れた別荘で暮らしていた。 ウィルは世間では嫌われている亜人種に興味を持ち、奴隷となっていた亜人種の少女たちを屋敷のメイドとして雇っていた。 そのこともあまり快く思われておらず、周囲からは変わり者と呼ばれている。 そんなウィルも十八になり、貴族の慣わしで自分の領地をもらうことになったのだが……。 父親から送られた領地は、領民ゼロ、土地は枯れはて資源もなく、屋敷もボロボロという最悪の状況だった。 これはウィルが、荒れた領地で生きていく物語。 隠してきた力もフルに使って、エルフや獣人といった様々な種族と交流しながらのんびり過ごす。 8/26HOTラインキング1位達成! 同日ファンタジー&総合ランキング1位達成!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

処理中です...