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第8部 開拓村

第60話 アルバンの苦悩

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「社長、これどこ置きますか?」

「行ってきます、社長」

「社長、他に仕事はありますか?」

「 社長、社長、社長 」

 何度言ったら分かるんだ。
 私は経営者でも社長でもない。
 どうしてこうなった?

 半年前、家族そろって奴隷商からエリアス様に購入して頂き、従業員という雇用形態になった。
 そして3ヵ月前、突然開拓を始められ森の奥に行かれてしまった。

 その間に私は事業を任され『マヨネーズ』製造、『味元あじげん』、『マヨネーズ』、『醤油』販売で店は莫大な利益を出している。
 エリアス様を介していつの間にかアバンス商会会長アイザック様、シャルエル教大司教ヨハネス様と意気投合し利害が一致し商売に更に力が入った。

 住居兼店舗を探していたところ、大司教ヨハネス様が教会に使っていない宿舎があるから安く貸してくださると言ってくれた。
 孤児たちが毎日、『マヨネーズ』作りに『なごみ亭』まで来ていることを考えると都合がよく飛びついた。
『なごみ亭』を引き払い教会の店舗へ引っ越した。

 商業ギルドやアバンス商会への納品を、教会の男性見習いや修道士さんに寄付をし手伝ってもらえるようになっている。
 そして『マヨネーズ』作りは手が足りず、暇があればシスターたちにも手伝ってもらえるようになった。
 大司教ヨハネス様にお礼を言うと『エリアス様にかかわることであれば、喜んで教会は協力するでしょう』と言われた。
 
 エリアス商会のやっていることは教会にとってメリットが多い。
 子供たちに仕事や働き先を与え、教会にもお金が入る。
 だから共感し協力してもらえるのか。

 アバンス商会はエリアス様より何億という大金を払い、冷蔵馬車を3台購入した。
 他の商店が手が出ないように、金額を上げ高く買ったという。
 海沿いのジリヤ国から、海産物を大量に仕入れ大儲けしているだけではなく、仕入れに使わない時は店に置き、肉を販売しているという。
 肉や生ものが長持ちし好評なんだとか。

 先日、久しぶりにエリアス様が開拓村から出てきた。
 なんでも移民が増えて、寝具が足りないので買いに来たとか。
 噂では開拓を始めてそれ程経っていないのにすでに開拓は終わっているらしく道は整地され畑があり、屋敷まで建っているとか。
 秋の収穫量もすごくアバンス商会が買い取れない分は、商業ギルドへ運んでもらい買い取ってもらったほどだ。
 それに『味元あじげん』、『醤油』、『ソース』についても、アバンス商会が定期的に材料を開拓村セトラーへ運び、帰りに出来た製品を積んで戻ってくるようになっている。
 エリアス様は凄い。
 自分が動かなくても回る様に、考え実行出来るなんて。

 お土産だと言ってたくさんの野菜と果物をもらった。

 そういえば毎日『マヨネーズ』を運んでいる、運搬用のリヤカーを欲しいと言う人も出てきていると話した。
 リヤカーには両サイドにエリアス商会の文字と大きな鷹が世界を脚で掴み、翼を広げているロゴが入っている。
 そして教会内の店の壁にも同じロゴがある。
 毎日、修道士さんたちが、そのリヤカーを引いている。
 それを見てエリアス商会だと分かり、来てくれる人が居ることをお話した。
 そしたらエリアス様は良い宣伝になってるね、とおっしゃっていた。

 リヤカーの予備があるからとマジック・バッグから、販売用に3台出してくれた。
 そしてアバンス商会にはすでに卸していると言って、くわすき千歯せんばというのもあった。
 使い方を聞くと、なるほど、と思うものばかりだ。
 値段はアバンス商会に合わせてほしいとも言われた。

 そして気が付くと教会側から『マヨネーズ』作りに来る人が、段々と多くなっていることに気づいた。
 最初は見習いかと思ったが、どうやら奉仕で協会に来て声を掛けられたと。
 大人であれば一日50個は作れる。
 1個100円で50個なら5,000円だ。
 男女関係なく室内作業で5,000円は高収入だ。
 そして一部を教会に寄付として収めればいいそうだ。

 エリアス様曰く、人材派遣というやり方らしい。
 なるほど、人を派遣して手数料をもらう、これもありだと思う。

 そしていつの間にか教会の敷地内に、エリアス商会関連の建物が多くなっていく。
 敷地を歩いている人も『マヨネーズ』を作っている人たちが多くなり、人も増え納品のためのリヤカーを引く人も専用の人となり、まるでエリアス商会の中に教会がある様に見える。

 そしてエリアス様が不在のため、みんなが私のことをいつのまにか『社長』と呼ぶようになった。
 否定するのも最近では面倒になってきた。

 私は『社長』ではありません。
 従業員という名の奴隷です。
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