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第8部 開拓村

第49話 アナベル・ハストン

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 私の名はアナベル・ハストン 。士爵の位を持つ騎士だった。
 女だてらに剣を持ち国のためと剣を磨いてきたが、魔物討伐の失敗の責任を問われ爵位をはく奪され追放された。
 私のために父も掛け合ってくれたが、いかせん準男爵。
 なんの力もない。
 組織である以上は誰かが責めを負わなければならない。
 そして目を付けられたのが女である私だ。

 小さいころから魔法の才能はないが、剣は好きだった。
 好きなことは上達しやすい。
 13歳で騎士団に入り、15歳には小隊長になっていた。

 だが、それもここまで。
 これ以上、父にも迷惑はかけられない。
『力になれなくて済まん』幾ばくかのお金をもらい家を出た。
 18歳まで結婚もせず頑張ったのに…。

 騎士崩れではどこの貴族でも雇ってもらえまい。
 冒険者にでもなるか、とギルドに足を運んだところ移住募集の看板があった。

 『仕事内容:酪農、畜産、農業、果実園、警備、鍛冶他自分が出来ること。
  食事、住居保証付
  希望資格:健康でやる気のある人。あなたのやる気、待ってます』

 なんて素敵な募集なんだ。
 元々、人はなぜ働くのか?
 それはまず食事、次に住居、余裕が出来れば娯楽だ。

 開拓村ならお金があっても使うところがないだろう。
 現物支給の方が今の私のは一番助かる。

 場所は街から歩いて二時間ほどの場所か?
 丁度、魔物が出始める地域だ。
 
 そこで働くイコール腕を見せろ!ということか。
 その村にたどり着けないようでは、働くこともかなわぬと。

 私は急ぎ町を出てその村を目指した。
 途中から道が分かれ矢印の看板が出ていた。
 『開拓村 セトラー ⇒』
 わき道に入ると綺麗に道はならされ平らになっていた。
 ここまで、できる人数と技術がある村なんだ。
 私は胸を弾ませ、はやる気持ちを抑え進んだ。

 すると突然、森が突然開け、一抱えもあるような丸太で組まれた高さ10mくらいの壁が出現した。
 その中央には門があり私を迎えるように開いていた。
 中を見ると騎士団の訓練場以上の広さだ。
 そしてその奥に三階建ての上位の貴族が住むようなお屋敷が建っていた。

 「だれ?」
 突然、後ろから声を掛けられ私は思わず、振り向き驚いてしまった。
 いままで気配なんて感じなかったのに。
 後には美形で黒髪、黒い瞳の少年。
 なぜか人の心を引きつけにさせる、雰囲気を持つ少年が立っていた。
 
 「移住募集の看板を見てきたんだ。もう締め切ったのかな?」

「まだ誰も来てませんよ。貴方が初めてです」
 少年は嬉しそうにほほ笑んだ。

「私の名はアナベル・ハストン。いや今はただのアナベルで剣士だ」
「俺はエリアス。この開拓村セトラーの村長だ」


「君、一人なのかい?他に人は?」
「他に居ません。俺一人です」
「ではどうやって開拓を?ここまでの道だって素晴らしい仕上がりだったぞ」

「では見ていてください」
 エリアスという少年が両手を差し出す。
 すると土が膝くらいの深さまで無くなり、両腕を広げた三倍くらいのところまで横に広がった。
 今度はそのまま前に進んで行き10mくらい進むと止まった。
 そしてそのまま見ていると先ほどと同じように両手を差し出すと、そこから軟らかく砕かれた土がパラパラと落ち元の高さまで積もっていくではないか。
 そのまま前に10mくらい進むと同じように止まった。
「こ、これは!」
「開墾ですが」

「そんなことを聞いているのではない!これはどんな魔法なんだ?」
「俺のスキルなんで秘密です」
「き、君は宮廷魔導士、いやそれ以上のことをやったんだぞ。君は何者なんだ?」
「俺はエリアス。それ以上でも以下でもありません。開墾するのに楽だからスキルを使っているだけですから」

「だが王都に行けば好待遇で迎えてもらえるはずだ」
「だから?」
「えっ」
「だから、どうだっていうんです。好待遇で迎えられることに魅力を感じません。酪農、畜産、農業、果実園に力を入れ、今だけではなく10年、20年後、いいえ50年先の明日を考えられるような村を作りたいのです」


「50年先に続く村を作りたい。そのために自分の能力を使うと」
 私は衝撃を受けた。
 数年先のことは考えられても、50年後の明日を考えられる人がこの国に何人いるだろうか?
 安定した未来なんてないんだと。今日を生きるのが精いっぱい。
 そう考える人が多い中で、なんと崇高な考えなのだ。
「最初の開拓は俺がやります。ただ後は移住者で世話をしてもらい、早く生活できるようにしたいんです」
 少年の目は真っすぐで偽りはなかった。

 来てよかった。
 これから私はこの村に骨を埋めようと思う。
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