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第10部 これからの目標

第91話 帰る場所

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 私はメイドのアーネ。
 この家に来てから1ヵ月が過ぎた。
 
 エリアス家のみなさんの朝は……、遅い。

 最初の日は陽が昇っても起きて来なくて焦ったわ。
 まあ、その分みなさんお若いから夜、寝るのも遅い様だけど。
 そして4人で部屋に集まって、何やら騒いでいるわ。

 私は魔法が使えないから灯りは油を使わせて頂いているけど。
 エリアス様達は灯りライトの魔法が使えるから、灯代は気にしないし。
 勉強会だってパメラ奥様は言っていたけど。

 みなさんとても仲が良くて、まるで夫婦と言うより家族や兄妹ね。
 ルイディナ奥様が母親代わりでオルガ奥様がお姉さん。
 エリアス様が弟でパメラ奥様はやんちゃな妹の様な感じね。


 そして一般人が仕事に出かける、7時頃にみなさん起きてくる。

 朝はパンと軽い食事で良いと言うので、野菜炒めとかスープ物が多い。

 そして2時間くらいすると、冒険者の格好をしてみなさんどこかに出かけていく。
 聞くところによると来年の春の収穫まで、領主様なのに収入がないとか。
 だから冒険者をして働いているらしい。

 それなら領主になった意味が無いのでは?
 冒険者で食べていけるなら、冒険者をやっていた方が良いのでは、と私は思ってしまう。

 何でも冒険者をやっていて功績をあげ男爵様になったとか。
 そしてこのヴィラーの村の領主になった。

 いいえ、王国から押し付けられたのかしら?
 誰もなりたがらなかった、このヴィラーの村の領主に。

 前の領主様が酷くて村人の気持ちは荒れていた。
 貴族出の人がまた来たら反発される。

 でもエリアス様は違った。
 素朴て笑顔が可愛くて。

 そして村の為に農機具を、自腹で作って貸し出してくれている。
 聞くところによると、それがとても使いやすく開墾がはかどるとか。
 こんなに自分たちの事を考えてくれる、新しい領主様の為にも来年の春はたくさん収穫するぞ、とみんな頑張っている。

 特にこの村は中高年が多く、若い人は出て行った。
 そのため、みんな自分の子供達より若いエリアス様家族が気になるようだ。


 そのエリアス様は雨の日以外は、ヴィラーの村を出て狩りをしているみたい。
 狩った素材は歩いて5時間も掛かるウォルド領まで行き、お金に換えているみたいだわ。
 驚くことに2~3日に一度、魔獣を狩って格安で村に卸していることだ。


 この前はホーンラビットの群れが居たとかで20匹狩って帰って来たわ。
 ホーンラビットくらいなら、私でも捌けます、と言うと5匹を渡され解体した。

 残りはアルマン食堂に卸した。
 そして肉を捌いて残った毛皮だけを引き取り、仕立屋のトルベンさんのところに持っていったみたい。
 何やら加工を頼んだらしく、数日すると『はい、プレゼント』と言われ私に渡されたものがあるの。

 ホーンラビットの顎の下にクリップを付け、首に回してシッポをクリップに挟み巻く襟巻えりまきだったの。
「これから寒くなりますから、温かくしてくださいね」
 エリアス様にそう言われ、私は涙が出そうになった。
 襟巻の加工を仕立屋に頼んでいたのね。

 毎日、奥様方を含めエリアス様のご家族4人はみなさん、襟巻をして出かけて行かれる。
 その襟巻を頂けた私も、家族の一員だよと言って頂けたようで嬉しかった。



 そして困ったことにメイドの仕事があまりない。
 お屋敷の中はとても綺麗になっている。
 掃除はエリアス様のマジック・バッグで、埃や汚れを収納しているとか。

 庭の雑草はオルガ奥様やパメラ奥様の魔法で刈り、こちらもマジック・バッグに。

 恐るべしマジック・バッグ。
 こんなに便利な物なら誰も手放さないわ。
 だからマジック・バッグは高価なのね。
 これ1つで一生遊んで暮らせるくらいの価値があるのも分かるわ。
  だってこんなに家事に役立つんだもの。


 そして洗濯もやらせて頂けない。
 みなさん恥ずかしいと仰って。

 エリアス様のお使いになる清潔クリーンと呼ばれる便利な魔法があって、それを使えば汚れや臭いを収納して綺麗にできるからと。

 私も時々、清潔クリーンの魔法を服の上からかけて頂くことがあるけど、汗の臭いも取れる。

 まるで服は洗濯したばかり、体はお風呂に入ったようにとてもさわやかな気分。




 私はここに何をするために居るんでしょう?

 せめてできることは美味しい食事を作って差し上げる事ね。
 普段なら手がでない調味料も揃っているわ。
 塩、胡椒だけではなく、街で噂のマヨネーズ、味元あじげん、醤油、ソースも使わせて頂けるなんて。

 オルガ奥様から食材費として、5人の8回分の食事として2万円頂いているけど。
 そんなに食べるのかしら?と、最初は思ったけど。

 どうやら奥様方は料理が出来ないらしく、一食作るのに食材がいくらかかるのか分からないようだったわ。
 確かにお店で食べると一食500円くらいが相場だけど、作るのは違うからね。


 本当に奥様達は知らない事ばかりのようで。
 雑貨屋のマティのところに集まる向かいの奥さんのペニー。
 2軒左隣のレジーナ、斜め向かいのフリーダと私と奥様方3人と女子会なる物をやっている。
 どうやら美味しいものを食べ、お茶を飲み、お話をして憂さ晴らしをする会の様だけど、とても楽しいわ。
 

 奥様方に貴族としての礼儀を教えるにも、『その時はお母さんが相手をしてあげて』と言われ、覚えようとはしないわ。
 でも最近では時々、『お母さん』て、呼んでくれるのよ。
 ふざけて、言っているのはわかるけど。
 それがとても嬉しいときがある。
 私の亡くなった息子より年下のエリアス様達。

 エリアス様の両親は、もう他界されていないとか。
 奥様方も村が貧しく生活のため、村を出て冒険者になったとか。
 みなさん帰る場所がないそうだ。

 それなら私がみなさんの帰ってくる場所になろう。
 そして毎日、笑顔になれる美味しい食事を作ろう。
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