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第9部 ウォルド領

第81話 聖女ではない理由

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「よし、登録も無事終わったから帰ろうか。パーティー名は今度決めれば良いよね」
「「「 そうね 」」」
 3人の声がハモる。

「「「 だから、そうね、じゃないわよ! 」」」

 背後から声がした。
 振り向いたが、誰もいない。
 幻聴か?

「さぁ。帰ろう!」
「待ちなさい!」
 ズボンの裾を誰かに捕まれた。
 下を見るとこちらを見上げている、身長130cmくらいの女の子が居た。

 俺は屈み込んで言った。
「お嬢ちゃんはどこの子かな?ここは子供の来るところじゃないよ?」
 すると女の子は頬を膨らませながら言った。
「失礼ね、私はここのギルドマスターよ!」
「ここのギルドも人手不足でついに幼児の手でも、という事か」
「ちがうわよ、私は小人族ホビットなの、小人族ホビット!」

 ホビットだって!

【スキル・鑑定】簡略化発動
 名前:イノーラ
 種族:小人族ホビット
 年齢:140歳
 性別:女
 職業:ギルドマスター
 レベル:28

 本当だ。
 そう言えばアレン領の冒険者ギルドにも、ヘルガさんていうホビットがいたな。

「ヘルガは私の姉よ」
 へ~、姉妹で冒険者ギルドに勤めているのか。
「ねえ、あなた。私と会話するつもりはないの??」
 あっ!いけない。
 いつもの、独り言が。

「で、そのギルドマスターが僕たちに何のようでしょうか?」
「何のようでしょうか、ですって!いったいあなたの頭は、どうなっているの?」
「???」
 俺は頬に指をあて考えた。

「後ろを見てごらんなさい」
 言われて後ろを振り向いた。
 何という事だ!
 ギルドの壁は穴が開いたり、ボロボロになっている。
 そして20人近くの冒険者が横たわり、血だまりの中で声を上げている。

「「「 なんだ、これは。どうしたんだ!! 」」」

 
「うぅ~」
「いてぇ」
「手、手が…」
「脚が…俺の脚が」

 腕が変な角度に曲がっているもの、太腿に矢が刺さっているもの、剣でアーマーの上から切られた痕があるもの、何かが当たったような打撲痕があるもの。
 そこは酷い有様だった。
 いった誰がこんな事を!


「あなたよ、あなた。正確にはあなた達ね」
「えっ、俺達が。ただ冒険者登録に来ただけなのに」
「馬鹿なのあなたは?それとも健忘症?」

「では証拠を見せてください」
「証拠ですって。マリサその時のことを詳しく教えて」
 受付のマリサさんが近くに寄ってくる。

「はい、イノーラ様。まず彼ら4人が登録していると、ロブソンさん達4人が聞くに堪えない言葉で、彼女達3人を愚弄したのです」
 ロブソンて言うのか、あいつら。

「どんな言葉?」
「はい、それが…」
 マリサさんがイノーラさんにその時の話をして聞かせる。

「それはひどいわね、私でも怒るわ。でもこれはやり過ぎよ」
「でも剣を向けられれば身を守るのは当然では?それに多勢たぜい無勢ぶぜい、多少の過剰防衛も認められるのでは?」
「だからと言ってもね。マリサ、彼らの冒険者レベルはいくつなの」
「Fです、イノーラ様」
「F?Fですって。Fの冒険者4人相手にCやDランク19人が相手にならないなんて」
「本当です、イノーラ様」

「壁に外が見えるくらい大きな穴が、開いているのはあなたがやったことなの?」

「違いますよ。突然、大きな音がしたと思ったら壁に大きな穴が開いたんですよ。きっと建築ミスです。施工業者を訴えた方が良いと思います。俺は最初にそこに寝転がっている男に蹴りを入れただけです。すると残りの3人が剣を抜き向かってきた。でも安物の剣だったのでしょう、剣が途中から折れました。そしたら突然剣を持てない華奢な手だったのか、腕が変な角度で曲がって折れたんですよ。大道芸かと思った」

「そんな訳ないでしょう、彼の言っていることは本当なの」
「ほ、本当です」
「誰、あなたは?」
「俺はアーマン、Dランク冒険者です。最初から見てました。彼はロブソン達をのした後、他の冒険者15人が剣を抜き彼に襲い掛かった。そこに彼の仲間の女性達が加勢してこの有様です」

「では彼らは正当防衛になるわね。でもこのギルドの修理費はどうするのよ」
「それにイノーラ様。20人近い冒険者がしばらくは、役に立たないのは問題です」
「それは困ったわ。修理費はあなた達にも、肩代わりしてもらいますからね」

「それは嫌だわ。私に良い考えがあるわ」
 パメラさんはそう言うと、腕が曲がっているロブソン達のところに向かった。

「ひい!」
「あなた達はもう剣は持てない。分かるわよね」
「コクリ、コクリ」
 ロブソン達は頷いている。

「でも治してあげたら、私達の修理費分を負担してくれない?」
「そんなことができるのは教会の聖職者だけだ。治すことができるなら何でもする」
「約束よ。イノーラさん聞きましたね」
「えぇ、確かに聞いたわ」

「ルイディナ、ちょっとこっちに来てくれる」
「なあにパメラ」
「曲がった腕を伸ばしてほしいのよ」
「分かったわ」

「「「 や、やめろ~ 」」」

「大丈夫よ、痛くしないから。優しくしてあげるから、ねっ」

「「「 やめてくれ~ 」」」

「さあ行くわよ」

 ボキッ!!

「「「 ギャ~! 」」」

 ギルド中に聞こえる様な絶叫が響いた。


「命の鼓動よ。躍れ命の躍動、汝の傷を癒せ。ウォーターヒール!」

 呪文の詠唱と共にパメラの体は水色に光った。
 曲がった腕に左手を添え、右手をあてる。
 すると右手に光りが集まり、みるみる腫れが引き治っていく。

「「「 おぉ~~!! 」」」
 
 周りからどよめきが起きる。
 それはそうだ。
 回復魔法なんて教会の上位の聖職者だけだ。
 しかも頼んだら一生働いても返せない金額を、要求されてもおかしくない。

「な、治ってる。俺の腕が治った。聖女だ、聖女様だ」
「聖女様」
「聖女様~」
「私の傷も治してください」
「私もです。聖女様」
 パメラの周りに男達が寄ってくる。

「パメラさん、回復魔法なんていつの間に…」
 俺がそう言うとパメラさんはウインクをした。

「ではここで誓いなさい。私達の修理費分を負担すると」
「もちろんです」
「負担いたします、聖女様」
「私も」
「私もです」
 希望者が殺到した。

 最初に俺が殴ったロブソンという男はあごの骨が砕けていた。
 それをパメラは治す。
 それまで苦痛の表情を浮かべていた男は、治って行く程に恍惚とした表情をする。
 そして両手を胸の前で組みお礼を言う。
 
 クロスボウの弓矢を太腿に受けた男達は、ルイディナさんに一気に矢を抜かれ悶絶しながら癒しの光に包まれる。
 そして苦痛の顔から恍惚とした表情に変わる。
 ルイディナさんの矢は、クロスボウ用の特注だから無駄に出来ないんだ。
 しかし抜き方が雑だ。
 

 オルガさんにプレートごと切られ血を流している男や、エアガンを受け打撲痕のある男達が癒しの光に包まれ恍惚とした顔をする。
 治った相手は両手を胸の前で組みパメラにお礼を言う。

 受付のマリサさんに頼んで俺達分の修理費も、彼らが肩代わりする誓約書を書いてもらった。

「聖女様、ありがとうございました」

「「「 ありがとうございました 」」」

 あまりにも『聖女様』と治した男達が言うので、俺は危険を感じだ。
 面倒な事が起こると困るからだ。

「パメラさんはみなさんが言う聖女ではありません!なぜなら俺の妻ですから」
 俺はパメラさんの腰に手を回し引き寄せた。

 パメラさんはちょっと恥ずかしがった。

 すると男達は羨ましそうな顔をした。
 さっきまでブスと言って、嘲笑ったのは誰だ?


 そして一拍おいてから、男達は『あぁ』という納得した顔をした。
 パメラが聖女ではない理由が分かったようだ。

 聖女は『純潔』を失うと、能力がなくなる。
 パメラは既婚者だ。
 だから『聖女様』ではありません。
 
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