上 下
46 / 98
第6部 男爵

第46話 旅立ちと女神ゼクシー

しおりを挟む
 そして旅立ちの朝が来た。

 俺達4人は宿屋のビルさん家族に、挨拶し別れを惜しんだ。
 特に俺はこの世界に転移してから、この宿屋だったから寂しい気持ちがある。

 そうだ。
 街を出る前に女神様にお祈りをしていこう。
「みんな、街を出る前に旅の安全を願って、女神様に祈って行かないか」
「そうね、それはいいわね」
 3人が賛同してくれたので大聖堂に向かった。

 大聖堂の中に入ると、参拝している人の姿は少なかった。
 朝一だからか。

 女神像にひざまずいて、目を閉じ祈る。
 転移した時のように白い靄のようなものに包まれた場所にいた。
 

 シク、シク、シク、シク。
 シク、シク、シク、シク、シク、36

 見ると女神ゼクシーがうずくまり、両手で顔を押さえ泣いていた。
『どうしたんですか、母さん?』
『これが泣かずにいられないと思うの?まさかこんなに早く息子を、他の女に取られるなんて思わなかったわ』
『いったい、なにを言っているんですか?』
『私の可愛いエリアスを他の女に取られるなんて。いっそこんな国、滅ぼしてやろうかしら』
『それは困りますよ、母さん』
『だって、だって母さんは…ヒック、ヒック』

 だ、駄目だ、これは。どうしたんだ急に?



 ゼクシーは女神になってから、寂しい一人暮らしが続いた。
 仕事が終わり真っ暗な部屋に明かりを点け、『ただいま』と誰もいない部屋に呟くこと数万年。

 そんなある日、息子が出来たのだ。
 これを可愛いがらずにいられようか。

 毎日、天界から下界を眺めエリアスのする事を見ている。
 普段はどのように過ごしているのか、いつもどんな人と仲良くしているのか、今おかれている状況を細かく把握したくなった。 

 私の許可なく勝手なことをしてと思うけど、嫌われたくいない。
 いつのまにか自分が結婚するような気持ちになり、周りのことを考えたりするようになっていた。
 このまま結婚させていいのかと。
 だからこうしてやってきたのだ。


『エリアス、いいの?このまま結婚しても。私が代わりにいくらでも良い人を探してあげるわ。数千年の若い女神を紹介するから』
『どうしたんですか、母さん急に?』
『だって、だって私に断りもなく、突然結婚するなんて聞いたから』
 そうだ。母さんと言っても儀礼的なことだからと、後回しにしていたんだっけ。
『大丈夫ですよ、母さん。俺はいつまでもあなたの息子ですから』
『そ、そんなこと言っても』
『それに子供が出来れば、あなたの孫にもなるんですよ』
『ま、孫。そうね、孫になるのね』


 いったいどうしたんだ?
 なにが彼女をここまでにしたんだ。
 まずい、これでは子離れできない母親だ。
 子離れ?
 ど、どうすれば。

【スキル】世界の予備知識発動!
 子離れ 検索・ ・ … … 一件ヒット!
 子離れするには、夢中になれる趣味を見つけてもらおう!

『母さんも毎日忙しくて大変だろうから、たまには友達を誘って旅行とかしたら?』
『りょ、旅行ね。それも良いかもね』
『環境が変わると気持ちも変わるからね。母さんは新しいことは好き?』
『ええ、まあ案外好きな方ね』
『それなら資格取得や習い事が良いよ。通信教育でたくさん選べるからね』
『資格をね…。家に居ながら学べるしね』
『これからの季節、日差しを浴びながらテニスでもして体を動かすのも良いかも』
『健康的に外に出て、ストレス発散するのもありね』

 そんな事を1時間くらい話したろうか。
 母さんも落ち着き、旅立つことを伝えた。
 これからは逐一ちくいち報告しないと、面倒そうだな。

 念のため旅の間、何が起きるか分からないから野菜や肉、塩、砂糖、ハイポーションとマジックポーションを買っておいた。

 そして俺達はアレンの街を出た。
 新しい旅立ちだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

完結【清】ご都合主義で生きてます。-空間を切り取り、思ったものを創り出す。これで異世界は楽勝です-

ジェルミ
ファンタジー
社畜の村野玲奈(むらの れな)は23歳で過労死をした。 第二の人生を女神代行に誘われ異世界に転移する。 スキルは剣豪、大魔導士を提案されるが、転移してみないと役に立つのか分からない。 迷っていると想像したことを実現できる『創生魔法』を提案される。 空間を切り取り収納できる『空間魔法』。 思ったものを創り出すことができ『創生魔法』。 少女は冒険者として覇道を歩むのか、それとも魔道具師としてひっそり生きるのか? 『創生魔法』で便利な物を創り富を得ていく少女の物語。 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※カクヨム様にも掲載中です。

処理中です...