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第19章 召喚されしもの

第239話 旅の始まり

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 書斎に入り国王と私はソファに向き合い座る。
 国王の席の後ろにはガストン宰相。
 私の後ろにはリンリン、ランランは立っている。

「ビッチェ王女、これからどうする?討伐隊を率いて魔物を倒していくのかね?」
「いいえ国王様、私達だけで倒して回ります」
「いけません、それは無理です」
「ガストン宰相、聞いてください」
 私はそう言い、ガストン宰相と国王にどうして魔物が現れるのかを話した。


 次元に綻びができ瘴気しょうきが集まり魔物になる。
 その魔物も戦い弱いものは淘汰され、強いものが生き残る。
 だから時間が経過した森には、強い上位の魔物が多い。
 そしてそれを防ぐには、瘴気しょうきが出てくる次元の綻びを塞いで回る。
 塞いだら浄化の魔法で、辺り一面を浄化すれば魔物は出て来なくなる。
 大きく開いた綻びを塞げば、以前のレベルくらいには魔物は減ることを話した。


「以前は少しずつ漏れていたが、綻びが出来てから魔物が増えたか。それを塞げば魔物はいなくなることは無いが、以前並みになると言う事だな」
「そうです国王様」
「だがどうしてビッチェ王女とメイド2人だけなのだ?」
「はい、足手まといだからです」
「足手まといだと?」

「そうです。私の聖魔法は強力ですが、細かい調整ができないのです」
「どういう事かね」
「例えば魔物が50匹いれば、そこに目掛けて大型魔法を放てば終わりです」
「そうだな」
「でも、そこに味方が50人混ざっていたら、1人1人を避けて放つ魔法はとても弱く役に立ちません」
「だから3人だけの方がいいのだな」
「そうです」

「だがビッチェ王女よ。このジリヤ国を浄化に回っていたら、何年かかる事か。婚期を逃してしまうぞ」
「お言葉ですが国王様、私はもう18歳です。すでに婚期は逃しております」
「だが王女1人背負う事ではないぞ」
「分かっております。でもこれは私が望んだ結果ですから。それにこのジリヤ国の綻びを塞ぎ終えたら、全世界を回り綻びを塞ぐ旅に出ようと思います」

「何を言っているんだ?自分の言っていることが分かっているのか?」
「はい、全世界を回り綻びを塞ぐ旅をする。それが聖女の力を手に入れるための条件ですから」
「条件?誰のだ」
「召喚の儀式の後、声がしたのです。私は事情を話し、その声はそう言ったのです」
「なんと言ったのだ?」

「私は神だから特定の人だけに加担できない。だからやるならこの世界全域だ、と」
「な、なんと神の声を聞き約束までしたとは?!辛い重荷を背負わせてしまったな」
「いいえ、案外早く終わるかもしれません。老後はのんびりとしたいものです」
「今から老後の話か?」

「えぇ、ですがその時は国王様も父も母も兄も、この世にはきっといないでしょう」
「な、なんという事を国王様に言うのですか。いくら王女だからと言って…」
「いいのだガストン宰相。それは10、20年では終わらないということだね」

「ええ、ジリヤ国だけなら数十年、ですが全世界なら数百年…。聖女になったことで、不老不死になりましたから。私に付き従うメイド2人もそれに近い能力を授かっております」
「なんと不老不死だと?!そこまでして…、辛い思いをさせて済まないビッチェ。私のかわいい孫娘よ」
「いいんです、おじい様」
 クリストフ王の目には涙が浮かんでいた。

「それからお願いがあります、国王様」
「なんだね、言ってみたまえ」
「このメイド2人にミスリルソードを作ってください。これから長い戦いになりますから」
「あぁ、お安い御用だ」
「それから父や母、兄のことをお願いします。次の王にならなくても暮らしていける様な国にしてください」
「……。」
「最後に、もう1つあります」
「なにかな」

「私の持つ第一王女のメダルを持つ者が現れたら、どの領主もその者に出来る限りの事をしてほしいのです。たとえそれがこれから何百年が経とうとも…」

「…、わかった。国内に通知を出しておこう!!第一王女ビッチェ・ディ・サバイアのメダルを持つ者が現れたら優遇せよと。子から孫へ、代々伝えるようにさせよう。これから何十年、たとえ何百年経とうと、この国はお前達の帰りを待っているぞ」
「あ、ありがとうございます、国王様」




 そしてビッチェ王女が戻ってくるのと同時に国は動いた。
 シャルエル教司祭、ロターリ司祭を追及したのだ。
 討伐部隊に新人神官を派遣し、部隊を窮地に追い込む原因になったことだ。
 また召喚の為のお金も教会ではなく、ロターリ司祭個人の懐に入っていたことが分かり謝罪と釈明をした。
 ロターリ司祭は一派を連れ夜逃げ同然に、どこか地方の分所に移動していった。

 オバダリア侯爵やロターリ司祭はやり過ぎた。
 権力に執着しすぎて目障りだった。
 丁度、そんな時にこの話だ。
 これを機会に世代交代をしてもらおう。
 そしてこちらの扱いやすい人物を後押ししよう。
 サバイア国王はこれを機会に粛清を図った。

 オバダリア侯爵は公爵家の嫡男でもあり、追及はされなかった。
 だが鑑定で勇者並の男を凡人と間違って判定したこと。
 ロターリ司祭と2人で手を組み召喚の為のお金を、国からせしめようとしたことがあっという間に全領地に広まってしまった。

 オバダリア侯爵は次期党首の座を次男に譲り、領内の小さな町の領主に赴任した。
 そしてオバダリア公爵家は、王家になにかある度に出費を肩代わりさせられた。
 数年後には栄華を極めたオバダリア領も、八公爵家中最下位になっていた。




 魔物討伐後の第一王女ビッチェ・ディ・サバイアの人気は凄かった。
 討伐を共に行った騎士団や神官達は、人から聞かれるたびに自慢そうに話した。
 この世界は娯楽がない。
 だから聞きたがる人が多く、それを聞いた人が更に誰かに話す。
 第一王女ビッチェ・ディ・サバイアこそが聖女だと。

 ビッチェ王女の父、第一王子ヘルムートに謁見を求める貴族が多くなった。
 だが誰が来ても彼は態度は変わらず、誰に対しても組せず平等を貫いた。
 それが功を成したのかビッチェ王女の名声も相まって彼は次期国王となった。
 のちに政権争いの元になった第二、第三王子にも、補佐として役職を与え相談をしながら意見を取り入れ国のまつりごとを行ったと言う。




 ビッチェ王女の旅立ちの日、裏門には父ヘルムート王子、母ポーリーン王女。
 兄ヘルムート王子と祖父クリストフ国王、祖母グリニス王妃が見送りに出ていた。

「元気でね、ビッチェ!!」
「ビッチェ、たまには帰ってくるのですよ!!」

 ビッチェは手を振り、家族に見送られ裏門を出た。
 貴族としてはあまりのも寂しい旅立ちだった。
 そしてビッチェ王女が興した冒険者ギルドと箸産業は雇用率を上げ、特に箸産業はジリヤ国の一大産業となり人々の暮らしを豊かにしたと言う。




「これから、どちらに向かいますか?ビッチェ王女様」
「ビッチェで良いわよ、リンリン、ランラン。王女様は変だから」
「はい、ビッチェ様」
「それでいいわ。そうね、まずは西の領を目指そうかしら?」
「では、さっそく向かいましょう!」
「でもこのままだと怪しまれるわよね」
「どう言うことでしょうか?」
「女の3人旅だと変でしょう」
「そうですね」

「こういうのはどうかしら?」
「なんでしょうか」
「ちりめん問屋の令嬢で縮緬ちりめんの布地を、買い付ける旅をしているなんてどう?」

「それは、いいですね」
「買い付けなら、全国を回っても怪しまれませんね」


「では、リンリン、ランラン。そろそろ参りましょうか」

「「 はいっ、お嬢様!! 」」

「あ、はっ、はっ、はっ、はっ!!」

 こうしてビッチェ王女達の、諸国漫遊の長い旅が始まった。





「ミリアちゃん」
『なあにビッチェ?』
「リンリン、ランランのことなんだけど」
『2人がどうかしたの?』
「合体したでしょう?2人は姉妹だったけど、兄妹だったらどうなったのかな?」
『それは決まっているでしょう、最強のオネエが誕生したはずよ!!』
「えっ?!そっちを私は見たかったわ!!」

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 読んで頂いてありがとうございます。
 ビッチェ王女のお話はここまでとなります。

 ビッチェ王女のその後を描いた『聖女国盗り物語。-転移先は今日も雨だった。長崎じゃないよ、なぜって異世界だから-』を公開しております。

 次回からはエリアス編に戻ります。

 
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