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第3章 お披露目会

第66話 転移者

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 キャベツを千切りにしてソースをかける。
 オルガさんとアリッサさんが、それを食べている。

「生で野菜を食べるなんて初めだ」
「そうね、でもソースをかけると美味しいし、カツの油っぽさを消してくれるわ」
「生で野菜を食べるようになれば、調理の手間もはぶけてお店も助かるな」
「まだ他にもあるんでしょう?エリアス君」
「えぇ、まあ。それは追々おいおいにと言うことで」
 すると2人は黙ってしまった。
 どうしたんだろう?



 オルガとアリッサは思った。
 またエリアスが、『オイオイ』と言っている。
 この前から言い始めているが、どう言うことだろう?
 きっと、『徐々に』と言う事だと思うけど。
 それを指摘すると例えば地方から出てきた人が、標準語だと思って使っていた地元の言葉は実は方言や訛りだった、と本人に指摘するようなものだから黙っておこう。
 いつかわかるだろうから、と2人はそう思った。

「これでカレーがあれば、なおいいのにな」
「カレーて?今朝の肉野菜炒めのこと?」

「あの味のスープです。そのスープをカツに掛けて食べると、美味しいんです」
「なんだか、美味しそうだな」

「でも今朝、カレーは肉野菜炒めで食べましたよね?」
「でもスープなら違うだろ?」

「オルガさんも好きですね。アリッサさんもそれでいいですか?」
「えぇ、良いわよ」

「でもすぐには作れませんよ。今はカツだけ食べましょう」
「そうなんだ」

「オルガさん、そんなことを言われても。夜は別のカレースープを作りますから」
「わかったよ。では今はカツを食べようか」

「ねえ、エリアス君。私はあなたに、聞きたいことがたくさんあるのよ」
「なんですか、アリッサさん」

「3人でアスケルの森に行った時のことだけど、あれは身体強化を使っていたの?」
「身体強化ですか?そんなスキルはありません」

「では素の状態であれなの?」
「えぇ、この世界に来た時は、体が馴染んでいなかったようで。でも最近は…」

「この世界?」
「馴染む?」
 し、しまった。つい気を許してしまった。
 俺が転移者だと分かったら、きっともうここにはいられない。
 それでは、あまりにも寂しい。

「…………………………………。」

 沈黙が訪れる。
「なあエリアス。私はお前の半身だと思っている。だからお前がなに者であろうと構わない」
 オルガさんが口を開く。

「私もよ、エリアス君。私はあなたの側に居ると決めたの」
 アリッサさんも、優しい言葉をかけてくれる。
 なんて良い人達なんだ。

 本当のことを話してここに居られなくなったら、それはそれで仕方がない。
 そう、俺は思う事にした。


「実は、俺は転移者なんだ」

「「 転移者?! 」」

「どういうこと?」
 アリッサさんが聞いてくる。


「この世界は背中合わせで、似たような世界がたくさんあるんだ」
 そう言うと俺は話し始めた。
 他の世界で28歳で病気で亡くなり、時の狭間《はざま》で女神ゼクシーに会った。
 そしてこの世界に転移を勧められたこと。
 エリアス・ドラード・セルベルトは、その時に女神ゼクシーに付けてもらった名前だと言うこと。
 そして創生魔法、鑑定、異世界言語、ストレージ、生活魔法のスキルをもらった。
 精神年齢も、徐々に15歳になるようにしてもらったことを話した。

「凄いわエリアス君!!女神ゼクシーに会ったうえに加護をもらったなんて。女神ゼクシーは世の女性の憧れなのよ。スタイルが良くて、とても綺麗で…」
 それは違います。
 実際は緑の長い髪をポニーテールに束ねた、スレンダーなメガネ女子です。
 信仰を集めるために、盛っていると聞きましたよ。

「エリアスは生前は35歳か、年上だったのか。道理で出会った頃は、落ち着いていると思ったものだ」
「では今はどうなんですか?オルガさん」
「そうだな、段々と子供になってきているな。きっと精神年齢も15歳になるように願ったからだろうね」
「子供て、酷いな」
「仕方がないだろう。人格は経験を積んでできるものだ。エリアスの場合は、経験が無く、単に若返っただけなのかもしれない」
 そうかもしれない。
 俺の居た世界なら15歳はまだ、親の庇護下にあるからだ。

「では、生い立ちは嘘なんだな」
「えぇ、すみません。俺にはこの世界に、知り合いや家族は誰もいません」
「そ、そうか。それも辛いな。家族も居ないなんて」
 気まずい空気が流れた…。


「ではエリアス君に聞くけど。アスケルの森に行った時に、岩を切り取ったように見えたけど」
 さすがアリッサさん、この空気を替えてくれた。
「あれは時空間魔法です」
「時空間魔法?!」

「時空間魔法は空間を切取り、時間を止めたり進めたりすることができます」
「そんな、ことができるの?」

「えぇ、そのスキルで空間に穴を開け、物を無制限で収納しています」
「無制限で?!」

「スキルなのでマジック・バッグとは違い、制限が無いんです。だからダミーとしてポーチを下げることにしています」
「ではワイルドボアを止めたのは?」

「あれもストレージの能力です。ストレージは生きたものを収納できません。それを利用して腕をストレージで覆い、衝撃を収納する盾代わりにしているのです」
「そんな馬鹿な…?!」

「その世界に来た時は制御が出来なくて、部分的だったけど今は全体を覆えます」
「魔物をエリアス君が止めている間にオルガさんが倒すのね。それならどんな魔物と対峙しても怖くないわね」

「でも防御、一点張りですけど」
「まだ質問はあるわ。今もそうだけど森の中にいる間中、エリアス君の周りには魔力が溢れている。まるで魔力が集まっているようだけど、どうして?」

「それは森の魔素を収納しているからです」
「「 魔素を収納?! 」」
 アリッサさんとオルガさんが同時にハモった。
 
「何を言っているの、エリアス君?!」
 アリッサさんが詰め寄ってくる。

「俺が居た世界と違い、この世界は魔法があります。それは空気の中に魔素が含まれ、生まれた時からそれを吸い生きてきたからです」
「どう言うことかしら?」

「生まれた時から魔素を吸い育つから、魔力が蓄積して魔法が使えるようになるのだと思います。だから街に住む人よりも、森に住む種族の方が魔法を使える人が多いはずです」
「そうかもしれないわ。では人族の魔力が低下しているのも、それが原因かもしれないわね」

「えぇ、なぜか街寄りになると魔素が少なくなり、森の奥に行けば行くほど魔素が多くなり、巨大な魔物が多くなります」
「では森の奥は魔素が多いから巨大化して強くなるということね」

「そう言えるかもしれません、アリッサさん」
「人族も森で生活をすれば、魔法を使える子供が出来ると言うことね。これは凄い発見だわ。貴族がこのことを知ったら、どう思うでしょう」


 貴族は魔法を使えることで庶民と差別化を図っている。
 だが年々、魔法を使える者が減ってきているのが問題だった。
 森に入り定期的に魔素を吸収するだけでも違うのではないか。
 アリッサはこの仮説がとても気になった。

「それでエリアス君。魔素を収納してどうするのかしら?」
「もちろん決まっています。魔力に変換するのです」
「「 魔力に変換する?! 」」

 アリッサさんとオルガさんが、また同時にハモった。
 目を見開き口を大きく開け、間抜けな顔をしていた。

 せっかくの美人が台無しですよ。
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