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第2章 生活の基盤

第24話 家探し

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 商業ギルドに『味元あじげん』を卸す交渉も無事に終わった。

「それから住居兼作業場がある、物件を探しているのですが」

「そうか担当を呼ぶから、少し待っていてくれないか」

 ギルドマスターのアレックさんはドアを開け誰かを呼びに行った。
 すると受付のノエルさんが資料片手に現れた。

「担当のノエルと申します。どういった物件をお探しでしょうか?」
 ノエルさんは藍色の長い髪の20歳くらいの人だ。

「はい、2階建てで1階は店舗と小さい作業場の部屋、2階は住居として使えることが希望です。場所は生活圏内に市場や商業ギルドがあると嬉しいです」

「そうですね。該当する物件は3件あります。内2件が賃貸。1件が売り物件です」

「3件しかないんですか?」

 ノエルさんに話を聞くと、街は城塞で囲まれている。
 だから土地が限られていて、空いている土地がそれほどないそうだ。
 そのため、土地はとても高額で伯爵クラスの貴族か、よほどの大商人でもない限り購入は難しいという。
 ほとんどの住人は集合住宅で、台所無しの狭い賃貸か宿屋で雑魚寝の生活だ。
 だから外食産業が多いそうだ。

 物件票を見ながらノエルさんと、回ってみることにした。

 最初は賃貸から見て回り、1件目は思った以上に広すぎてパス。
 2件目は逆に繁華街から離れている割には、狭く家賃が高かった。

 
 3件目の売り物件の票を見ると、『築40年』とあり金額も購入にしては安い。
 歩いているとここ数日、見慣れた道に出た。

「ここです!」

 ノエルさんに言われ見上げると『なごみ亭』の数十軒先の物件だった。
 繁華街からは、やや離れているが周りの環境は悪くない。

 しかしボロボロで建て直した方が良いくらいに古い。
 その代わり土地も広く、改装費は掛かるが購入金額が安い。

 売る側も建て替えて売ると、お金が掛かる。
 それなら現状で売って、購入した側で建て替えればいいという事らしい。
 売値は下がるが建て替えない分、財布は痛まない。

 改装するなら良い業者を紹介いたします、とノエルさんが言ってくる。
 最初から、それ狙いですね。
 買い手のつかない物件を紹介し、業者を紹介し手数料をもらう。

 ローン購入で売れた場合はギルドが売主に一括で支払い、ギルドが債権者となりギルドに毎月支払えばいいとのこと。
 ギルドは金利分、利息が取れるというわけだ。

 ただ返済能力が無いと貸し倒れになるので、審査があるみたいだ。
味元あじげん』販売をこなしていけば分割なら、それほど時間を掛けずに支払いできそうな金額だ。
 ギルドもそれがあるから、俺に物件を案内できるらしい。

 それに元々、借り手がつかないような物件しか、紹介していない様な気がする。
 相手を見て紹介物件を変えているとしか思えない。
 そうだよな、俺みたいな一介のDランク冒険者が相手にしてもらえるだけマシだ。

 念のため、支払できなくなった場合のことを聞くと『奴隷落ち』だって。
 やはり異世界、奴隷も定番であるのか。

 
 しかし購入するだけならいいが、建て替え費用が支払えるか心配だ。
 家を買ったはいいが、ローン返済のために働くのは嫌だからだ。

 そうだ。
「ノエルさん、木材は手に入りますか?」
「木材ですか?どうされるのでしょうか」
「自分で改築しよう思いまして」
「ご自身でですか!?」
「えぇ、そうです」
 ノエルさんが、驚いた顔をしている。

「木工ギルドで購入できると思います」
「それと森の木を勝手に伐採したら、駄目なのでしょうか?」
「それは可能です。基本どの領地も城壁の中が領地ですから」
「そうなんですか」
「えぇ、国の庇護が不要なら、空いている場所を開拓し村を作ることも可能なのです。山1つ伐採とかしない限り、騒がれることはありません。まぁ、そんなことは実際にはできませんが」
「では、ここを買います」
「えっ、ここにするのエリアス君?」
 驚いて後ろを振り向くとオルガさんが居た。
 さすが虎猫族。
 静かに忍び寄れるのか?

「オルガさん、どうしたのですか?」
「え、ずっと一緒にいたわよ」
「………………………。」
「こんな古い家、買ってどうするの。とてもじゃないけど住めないわよ」
「大丈夫です。俺が何とかしますから」
「そうなんだ。じゃあ、私は何も言わないわ」

「ノエルさん、ここにします。改築は自分でやるので現状のままで構いません」
「本当に宜しいんでしょうか?業者の手配はいつでも出来ますから言ってください」

 俺達は商業ギルドに戻り、購入の手続きをした。
 もちろん分割だけどね。
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