上 下
53 / 55
第3部 聖女降臨

第52話 楊震四知

しおりを挟む
 私達はアウルの森の瘴気しょうきを浄化し帰路についた。
 先に知らせるため、騎馬の騎士団員を数人王都に戻らせた。

 私達が王都に差し掛かると、たくさんの人々が出迎えに来てくれていた。
 先に知らせに戻った騎士団員が、結果を王に知らせたのだ。


 王都の門をくぐりたくさんの歓声の中を進む。
 先頭と後方を騎士団に守られ群衆の中を、神官6人と私達を乗せた馬車3台は進んで行く。

  「聖女様~!!」「聖女様~!!」「聖女様~万歳!!」「聖女様~!!」
    「聖女様~!!」「聖女様~万歳!!」「聖女様~!!」「聖女様~!!」
  「聖女様~!!」「聖女様~!!」「聖女様~!!」「聖女様~万歳!!」
    「聖女様~万歳!!」「聖女様~!!」「聖女様~!!」「聖女様~!!」
       「聖女様~!!」「聖女様~万歳!!」「聖女様~!!」

 騎士団員は誇らしげに胸を張り、城に向かう道を進んでいる。
 3台の馬車に載る私やリンリン、ランラン、神官達は馬車の窓を開けて手を振りながら群衆に応えている。

 いままでどれほど、この日を待ちわびていたのだろう。
 群衆は歓喜に包まれている。

 今まで食べるものもなく、このままでは死を待つだけだったのに。
 森の瘴気しょうきを浄化できるものが現れたのだ。
 ここにきて希望が見えてきた。
 喜ばない訳はない。


 城に入り私達はそのまま、謁見の間に向かう。
 私がそれを望んだのだ。
 王都に着いたら、王と謁見がしたいと。

 私達は控えて待つ。
 王が来るのを。

「国王クリストフ様、おな~り~!!」

 王が現れ王座に座る。
「面を上げい、ビッチェ王女。この度はよくやったの」
 私の祖父国王クリストフは、50歳くらいで筋肉隆々でとても元気そうだ。
 これではしばらく王座を明け渡しそうもない。
 その隣にはガストン宰相もいる。

 今回は最少人数で謁見したいと言ってあり、両脇に居る家臣も少ない。


「はい、これも騎士団の皆様と神官様の働きによるものです」
「うむ、しかし他に控えている者は何の用なのだ?」

 謁見の間には私の他にリンリン、ランラン。
 騎士団長アーガス・リベラと補佐のコニー。
 神官6人が私の後ろに控えていた。

「前回の聖女召喚のついて、大きな問題があったことがわかりました」
「大きな問題だと?言ってみろ」

「はい、ここにいる騎士団長アーガス様と補佐のコニー様の証言を頂きました。3年前の討伐の時は、200匹以上のゴブリンに囲まれ、しかもミノタウロスが現れたそうです」
「な、なんだと!200匹以上のゴブリンに、ミノタウロスだと?!」
「はいそうです、陛下」

「前回は騎士団30名だったはずだ。それでよく倒せたものだ」
「倒したのは聖女と一緒に召喚されたタケシと言う男でした」
「一緒に召喚された男だと?!」
「はい、召喚されただけあって、勇者並みの力があったようで。聖魔法も使っていたそうです」
「倒したと言ったな、それではどうして死んだのだ?」

「聖女だと思われていた女性は魔族だったそうです」
「ま、魔族だと?!」

「はい、タケシという男がゴブリンとミノタウロスを倒した後、ロターリ司祭様は騎士団員の家族を人質にして彼らを殺すように脅していました。しかし男とイルゼと言うメイドと魔族の女性はうまく逃げたのです」
「な、なんと言うことだ…」

「アウルの森はすでに初心者用向けの森ではなく、上位の魔物が出る場所です。今回の討伐でも事前に知っていたのに教会から派遣されてきた神官6人は、聖魔法がやっと使えるようになった見習いでした」
「なんだと?!ロターリ司祭め、私をたばかりおって」

「今回の騎士団長であるアーガス様を勧めたのも、ロターリ司祭様ではなかったでしょうか?」
「あぁ、そうだ。補佐のコニーと一緒にとな。一度、生き残っているから、運があるからと言ってな。そして騎士団も50人もいれば十分と言ってきたのもロターリ司祭であった」

「この機会に前回の生き残りを含めて、口封じをしようと思ったようです」
「そんな、ことをしてどうするんだ?!」

「自分の失態をもみ消す為です。そしてオバダリア侯爵も、関わっておりますは鑑定で魔族を聖女と鑑定し、勇者並の男を凡人と間違って判定した」
「オバダリア侯爵もか、それは不味いな…」
 オバダリア侯爵の父、オバダリア公爵はこの国の八大ある公爵家筆頭だった。
 そして次期当主のオバダリア侯爵も、それにたがわない力を持っていた。

「ロターリ司祭様は召喚失敗を隠し、オバダリア侯爵は鑑定で魔族を聖女と、勇者並の男を凡人と間違って判定しました。2人で手を組み召喚失敗をもみ消し、国からまた2回目の召喚の為の金をせしめたのです」

「本当なのか?!」
「はい、その為の証人が騎士団長アーガス様と補佐のコニー様です」
「間違いないか?!2人とも」
「「はい、間違いございません陛下!!」」

「陛下、2人は家族を人質にとられ仕方なく従っていただけです。どうがお許しを」
「わかっておるビッチェ王女。それが本当のことなら、罪を責める気はない」
「「 ははっ、ありがたき幸せ!! 」」
 騎士団長アーガスと補佐のコニーは、大きく頭を下げた。

「だがなぜ、王女であるお前まで殺そうとするのだ?」
「それはおわかりでしょう、陛下。私とオバダリア侯爵、そしてロターリ司祭は深く関わり合いすぎましたから」
「そ、そうか」

 国は密偵をどこにでも放っている。
 時に力がある貴族ならなおさらだ。
 メイドや執事や庭師に至るまで、どこかに必ず国の密偵は潜んでいるのだ。

 そしてビッチェ王女が自分の父を次の王にするため、後ろ盾としてオバダリア侯爵を、聖女召喚を行うため、ロターリ司祭との関係は知っていた。
 だからクリストフ国王はそれ以上は言えなかった。


 しかしそれでは示しがつかない。
 オバダリア家は昔から権力を持つ公爵家だ。
 ここら辺で少し、叩いておくか。

 そしてシャルエル教のロターリ司祭はやり過ぎた。
 権力に執着しすぎて目障りだった。
 丁度、そんな時にこの話だ。
 これを機会に世代交代をしてもらおう。
 そしてこちらの扱いやすい人物を後押ししよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

完結【清】ご都合主義で生きてます。-空間を切り取り、思ったものを創り出す。これで異世界は楽勝です-

ジェルミ
ファンタジー
社畜の村野玲奈(むらの れな)は23歳で過労死をした。 第二の人生を女神代行に誘われ異世界に転移する。 スキルは剣豪、大魔導士を提案されるが、転移してみないと役に立つのか分からない。 迷っていると想像したことを実現できる『創生魔法』を提案される。 空間を切り取り収納できる『空間魔法』。 思ったものを創り出すことができ『創生魔法』。 少女は冒険者として覇道を歩むのか、それとも魔道具師としてひっそり生きるのか? 『創生魔法』で便利な物を創り富を得ていく少女の物語。 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※カクヨム様にも掲載中です。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

処理中です...