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第3部 聖女降臨
第38話 召喚再び
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ジリヤ国 西暦188年5月10日
私はジリヤ国第一王妃グリニスの息子、第一王子イクセルの娘。
ビッチェ・ディ・サバイア。
やっ、やったわ。
ついに待ちに待った、この日が来たのよ。
あれから3年が経った。
私はオバダリア侯爵のおもちゃになり、ロターリ司祭に辱めを受ける日々。
それも、もう今日で終わりだわ。
やっと異世界から聖女を、召喚できるほど魔力も貯まった。
でも、もし聖女召喚に失敗したら次はもうない…。
王宮の中の派閥連中が聖女召喚に、異を唱えるようになったからだ。
聖女召喚をするために、シャルエル教に支払う金額が馬鹿にならない。
前回、召喚した聖女は討伐遠征で死んでしまった。
私達親子をよく思わない派閥は、実は召喚に失敗し覇権を握りたいから嘘をついていた、と陰口を叩く。
そして隣国中の笑いものになってしまったのも事実。
王宮内での立場が更に悪くなってしまった。
失敗しても次の予算はもうもらえない。
それに私は18歳になった。
大人びてきた私にはもう、ロターリ司祭は興味が無いようだった。
だから次はない。
でも前回は成功したもの。
今回もきっと大丈夫よ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして召還の儀式が始まる。
神官が6人とロターリ司祭が、魔法陣に魔力を注ぐ。
魔石に貯まった魔力も放出され、辺り一面が輝く。
「黒白の羅、二十二の橋梁、六十六の冠帯。混迷の暁、天を挺る空の羅、大いなる力、滲み出す混濁の紋章、ヒトの名を冠す者よ。蒼白なる月よ、闇を照らす牙となれりて、戒めの鞭を持ちて今こそ姿を現せ、召喚!!」
魔法陣が青白く輝く。
薄暗い神殿の中が明るく照らしだされる。
お願い成功して!
もう無理、誰でもいいから助けて。
同じ思いはもう嫌。
その為だったら私は…。
そして目が開けられないほどの眩い光が起きた。
その場に居た者が目を開けると、そこには…。
誰もいなかった。
「どうやら失敗したようだな、ビッチ」
オバダリア侯爵が冷たく言い放つ。
「もう終わりにしましょう、ビッチェ王女様」
ロターリ司祭も、やれやれと言った顔をしている。
私は呆然としていた。
失敗なんて絶対にありえない。
「簡単に『失敗』だなんて言わないでください。私達にはもう後がないのですよ」
「私達?それは違うなビッチ。いいえ、ビッチェ王女様」
「どういう意味なの、オバダリア侯爵様」
「あなたと私達は同じ船に、最初から乗っていないのですよ。聖女召喚が出来ればと、ビッチェ王女様とは懇意にして頂きましたが。このまま仲が良いと周りから思われると、他の領主の方からの支持にも影響が出ますからな」
「そうですな、我がシャルエル教としても、失敗したのではなく古い文献を参考にして召喚儀式を行っただけですからな。最初から成功する保証はありませんから」
「ですが、前回は成功したではありませんか?」
「世間では魔物討伐に行き、聖女が魔物に倒されたと言うのは嘘だと噂しておりますよ。権力保持のため召喚儀式をし、失敗を隠すために魔物のせいにしているとね」
「ですが、あなた達も見ているでしょう?」
「いいえ、私達は何も見ておらず、聞いておらず、何も言いません」
「そ、そんな」
「シャルエル教としては、ビッチェ王女様からの命令に逆らえず従いましたが、もうここらが潮時です。お会いすることもないでしょう」
「あれだけの報酬と、あれだけの事をさせておいて逃げるのですか!」
「まあ。まあビッチェ王女様。私もこれを機会に、お会いするのは止めましょう」
「オバダリア侯爵様、あなたまで…」
「私も王女様に乞われ仕方なく、お相手をさせて頂きましたが。私も周りの目を少しは気にしましてね。もう解放して頂ければと思います」
「力の無い王女にはその父である王子には、関わり合いたくないという事ですか!」
「なにをおっしゃっているのでしょうか」
「では、我々はこれにて、失礼いたします」
「失礼いたします」
そう言ってオバダリア侯爵とロターリ司祭は神殿を出て行った。
薄暗い神殿に1人残された私は泣いた。
今までどれほどの思いをしてきたのか。
この日の為に、我慢してきたのに。
それが全て無駄になり、後ろ盾もいなくなった。
シャルエル教はこの国では絶対。
その司祭に見放され、オバダリア侯爵の手が着いた私を誰が支援するだろう。
私は、いいえ、私達親子はもう、この国で居られる場所は無くなった。
私は泣いた。
声を上げ、大声で泣いた。
今まで溜まっていた何かを吐き出すように。
私はふと、なにかの気配を感じた。
「ねえ、どうして泣いているの?」
空耳かと思い顔を上げた。
すると顔の左側に15cmくらいの、可愛い女の子が浮かんでいた。
私はジリヤ国第一王妃グリニスの息子、第一王子イクセルの娘。
ビッチェ・ディ・サバイア。
やっ、やったわ。
ついに待ちに待った、この日が来たのよ。
あれから3年が経った。
私はオバダリア侯爵のおもちゃになり、ロターリ司祭に辱めを受ける日々。
それも、もう今日で終わりだわ。
やっと異世界から聖女を、召喚できるほど魔力も貯まった。
でも、もし聖女召喚に失敗したら次はもうない…。
王宮の中の派閥連中が聖女召喚に、異を唱えるようになったからだ。
聖女召喚をするために、シャルエル教に支払う金額が馬鹿にならない。
前回、召喚した聖女は討伐遠征で死んでしまった。
私達親子をよく思わない派閥は、実は召喚に失敗し覇権を握りたいから嘘をついていた、と陰口を叩く。
そして隣国中の笑いものになってしまったのも事実。
王宮内での立場が更に悪くなってしまった。
失敗しても次の予算はもうもらえない。
それに私は18歳になった。
大人びてきた私にはもう、ロターリ司祭は興味が無いようだった。
だから次はない。
でも前回は成功したもの。
今回もきっと大丈夫よ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして召還の儀式が始まる。
神官が6人とロターリ司祭が、魔法陣に魔力を注ぐ。
魔石に貯まった魔力も放出され、辺り一面が輝く。
「黒白の羅、二十二の橋梁、六十六の冠帯。混迷の暁、天を挺る空の羅、大いなる力、滲み出す混濁の紋章、ヒトの名を冠す者よ。蒼白なる月よ、闇を照らす牙となれりて、戒めの鞭を持ちて今こそ姿を現せ、召喚!!」
魔法陣が青白く輝く。
薄暗い神殿の中が明るく照らしだされる。
お願い成功して!
もう無理、誰でもいいから助けて。
同じ思いはもう嫌。
その為だったら私は…。
そして目が開けられないほどの眩い光が起きた。
その場に居た者が目を開けると、そこには…。
誰もいなかった。
「どうやら失敗したようだな、ビッチ」
オバダリア侯爵が冷たく言い放つ。
「もう終わりにしましょう、ビッチェ王女様」
ロターリ司祭も、やれやれと言った顔をしている。
私は呆然としていた。
失敗なんて絶対にありえない。
「簡単に『失敗』だなんて言わないでください。私達にはもう後がないのですよ」
「私達?それは違うなビッチ。いいえ、ビッチェ王女様」
「どういう意味なの、オバダリア侯爵様」
「あなたと私達は同じ船に、最初から乗っていないのですよ。聖女召喚が出来ればと、ビッチェ王女様とは懇意にして頂きましたが。このまま仲が良いと周りから思われると、他の領主の方からの支持にも影響が出ますからな」
「そうですな、我がシャルエル教としても、失敗したのではなく古い文献を参考にして召喚儀式を行っただけですからな。最初から成功する保証はありませんから」
「ですが、前回は成功したではありませんか?」
「世間では魔物討伐に行き、聖女が魔物に倒されたと言うのは嘘だと噂しておりますよ。権力保持のため召喚儀式をし、失敗を隠すために魔物のせいにしているとね」
「ですが、あなた達も見ているでしょう?」
「いいえ、私達は何も見ておらず、聞いておらず、何も言いません」
「そ、そんな」
「シャルエル教としては、ビッチェ王女様からの命令に逆らえず従いましたが、もうここらが潮時です。お会いすることもないでしょう」
「あれだけの報酬と、あれだけの事をさせておいて逃げるのですか!」
「まあ。まあビッチェ王女様。私もこれを機会に、お会いするのは止めましょう」
「オバダリア侯爵様、あなたまで…」
「私も王女様に乞われ仕方なく、お相手をさせて頂きましたが。私も周りの目を少しは気にしましてね。もう解放して頂ければと思います」
「力の無い王女にはその父である王子には、関わり合いたくないという事ですか!」
「なにをおっしゃっているのでしょうか」
「では、我々はこれにて、失礼いたします」
「失礼いたします」
そう言ってオバダリア侯爵とロターリ司祭は神殿を出て行った。
薄暗い神殿に1人残された私は泣いた。
今までどれほどの思いをしてきたのか。
この日の為に、我慢してきたのに。
それが全て無駄になり、後ろ盾もいなくなった。
シャルエル教はこの国では絶対。
その司祭に見放され、オバダリア侯爵の手が着いた私を誰が支援するだろう。
私は、いいえ、私達親子はもう、この国で居られる場所は無くなった。
私は泣いた。
声を上げ、大声で泣いた。
今まで溜まっていた何かを吐き出すように。
私はふと、なにかの気配を感じた。
「ねえ、どうして泣いているの?」
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すると顔の左側に15cmくらいの、可愛い女の子が浮かんでいた。
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