上 下
6 / 55
第1部 新しい世界

第6話 思惑

しおりを挟む
 私の名はジリヤ国第一王子の娘、第一王女ビッチェ・ディ・サバイア。

 第一王妃グリニスの息子で父、第一王子イクセルは36歳、凡人だった。
 ボンボン育ちで世間知らず。
 競争心がなく人が良かった。

 そして兄、第一王子ヘルムート王子は17歳。

 サバイア王の第二王妃、リーゼロッテの息子コンラードは34歳。
 母リーゼロッテの英才教育を、幼い頃から受け内政や外交に才能があった。
 他に王女が2人いる。

 サバイア王の第三王妃、ミラベルの息子ヴァルターは32歳。
 筋骨隆々で幼少から文学は早々に諦め、剣を磨き魔物討伐で武功を挙げた。
 他に王女が1人いる。


 第二、第三王子がここまで頑張れたのは生き残るため。
 母の違う王子が3人いる。
 そしてその内の誰かが次の王になれば残った王子は、親子もろ共消されてしまうかもしれない。

 だから今でも毒殺や暗殺に気を使いながら日々を生きている。
 次の王になり権力を手に入れるために。

 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 ジリヤ国は王都の周りを取り囲むように配置されている8つの州がある。
 東西南北に6つの州が、更に王都寄りの東西に2つの州の公爵家がある。
 特に王都寄りの東西にある、2つの州の公爵家は他の公爵家に比べると領土も広く豊かだった。

 その中も他の7公爵家に比べ、力があるのが王都東のファイネン領だ。

 ファイネン領は何世代か前の領主が、街道を荒らすワイバーン2匹を討伐したと言われている。
 そのワイバーンは卵を2個守っており、持ち帰った卵が2個孵りオス、メス2匹のワイバーンが生まれた。
 そして初めて見た領主を親だと思い2匹は懐いた。

 それから2匹はたくさん卵を産み、優秀な騎士を側に付け子供が孵る度に『刷り込み』を行った。
 こうして竜騎士が生まれた。

 オバダリア・シュレーダー・ファイネン侯爵。
 当主を継げば公爵になる男。
 銀色の髪を短く刈り、やややせ気味の神経質そうな顔。

 8つの州の中で一番権力を持ち、次のファイネン領当主。



 父、第一王子イクセルには王都に、昔から仕えている名前ばかりの貴族しか支援者が居ない。
 だがこのまま叔父のコンラード王子や、ヴァルター王子のどちらかが次の王になれば私たち家族はいずれ消されてしまうかもしれない。

 だから半年前、聖女召喚の話が出た時に私は真っ先に話に乗ったわ。
 駄目で元々。
 でもこれが成功すれば、評価が上がり私の支援者が増える。
 結果、それは父イクセルの力になる。

 そして丁度、王都に来ていたオバダリア様を巻き込んだ。
 オバダリア様は数少ない鑑定眼の持ち主。
 その子種だけでも欲しがる貴族は多い。
 だって鑑定能力は貴重なスキル。
 うまくその血を取り込むことができれば、その家族は一生生活に困らない。

 しかもオバダリア様は30歳のくせに独身。
 15~16歳で結婚をする貴族の中では婚期が遅い。
 人間性に問題があるとか、噂になっていたわ。

 そういう私も15歳。
 でも力を持たない父の娘など誰も欲しがらない。
 名前だけの王女様。

 そして次の王が誰に傾くのか。
 それを見極めてから娘がいる王子に、取り込もうと他の貴族はしているのだわ。


 聖女召喚なんて成功するかも分からない。
 今まで誰も行ったことが無いから。

 だから後ろ盾がほしかった。
 揺るがない力を。

 そしてお酒の席でオバダリア様を誘った。
 私は年齢の割りには幼児体型だ。
 だから幻覚作用のある薬をお酒に入れて飲ませた。
 そうでもしないとこの男は、私にはなびかない。

 いくら鑑定眼を持っていても、常に発動しているわではないわ。
 それに鑑定するにはその物をじっと、見続けないといけないそうなの。
 人相手だと、相手に不審がられるそうよ。

 だから私が飲んでいる飲み物と同じものを飲むのに、鑑定するなんてしなかった。
 そしてその後にこの男が、結婚しなかった理由がわかった。

 この男は自分より『高貴な相手を汚すことが喜び』に感じる男だった。
 だから結婚しなかった。
 いいえ、出来なかった。
 なぜなら公爵より上の貴族は王家だったから。
 それからはうまく行ったわ。
 私は彼が望んだ王家の血を引く王女だからよ。
 初めてだったけれど、それに見合う後ろ盾を手に入れた。

 ファイネン領の次期当主がビッチェ王女と仲が良い、とすぐに噂になった。
 男女の関係になったことは内密だけど。
 これで派閥の貴族の牽制になる。

 ただこの男が私の事をビッチェではなく、『ビッチ』と呼ぶことがある。
 愛称だから心地良いはずだけど、とても不快に感じるのはなぜだろう?

 
  そして1ヵ月前から王都のシャルエル教神殿で巫女に、聖女召喚の儀式用の魔力を魔石に溜めてもらった。
 その時に出会ったのがロターリ司祭だった。
 私は一目でピンと来たわ。
 この男は私みたいな幼児体型が好きな男だって。
 そして思った通りだった。
 しかもこの男は言葉で罵倒され、虐められるのが大好きだった。

 それからロターリ司祭は私の言いなりだった。
 1ヵ月溜めた魔力を使い、無事に聖女召喚ができた。
 聖女と一緒に男が付いてきたから『勇者』かと、喜んだけどオマケだった。


 オマケには興味がないわ。
 いえ、待ってオマケでも役には立つ。

 聖女には付き人を付けているけど、何を考えているかは分からない。

 男に付き人か。
 同郷らしいし他に能力もないから、聖女の話相手をさせるしか役に立たない。
 そこでどんなことを話すかも、分からないわね。
 それなら信用できる人を男の側にも置いたほうが良いわ。

「イルゼ、あなたは今からタケシ様の付き人よ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

処理中です...