上 下
5 / 55
第1部 新しい世界

第5話 本質

しおりを挟む
「う、う~~ん」
 良い匂いがする。
 どうやら俺は眠ってしまったらしい。
 そしてなにかを抱きしめている。
 
「はっ!」
 ふと見るとイルゼさんの顔が、俺の顔の近くにあった。

「わっ、どうなっているんだ?」
「お、お食事の用意ができたので起こそうとしたのですが、ね、寝ぼけられらようで私を…」
「す、すいません」
 俺は抱きしめていた手を離した。
 
「さ、さあ、食事に致しましょう」

 俺は身を起こしベッドから降りた。
 テーブルに座わり、出された食事を食べる。
 うん、美味しい。
 野菜や肉が入ったスープだ。
 香辛料が効いて美味しい。

「お味はいかがでしょうか?」
「香辛料が効いて、とても美味しいです」
「それは良かった。急ごしらえでお作りしたので、お味はどうかと思ったのですが」

「もしかしたらイルゼさんが、作ってくれたのでしょうか?」
「えぇ、そうです。決まった時間以外は、料理人は作ってくれなくて」
「それはすみませんでした。でもこんなに美味しい料理を作れるなら、いい奥さんになりますね」
「えっ、まあ。奥さんて…、あっ、いやっ」

 イルゼさんは両手を頬に当て、顔を真っ赤にしている。
 この世界ではそこまでオープンではないのかもしれない。
 発言には気を付けないと。

「香辛料が効いていますが、簡単に手に入るのでしょうか?」

「はい、州の都市自体で採れるものでしたら…」

 聞くと俺がいるジリヤ国は内陸にあり、四方を山や隣国に囲まれている。
 王都を国の中心に作り、それを守るかのように周りに東西南北に6つの州を、更に王都寄りの東西に2つの州を置き公爵家を配置し外敵に備えているとか。

 魔物が徘徊しているのは都市間の森で、今のところ城壁に囲まれた都市を襲うことは無いそうだ。
 だが街道にも魔物が現れるようになり、作物のを収穫しても都市に運ぶこともままならなくなってきているという。
 このままでは食べるものが無くなるという事だ。

 だから聖女召喚なんだ。

「すみません。これは贅沢な食事なんですね」
「いいえ、ビッチェ王女様よりタケシ様には、できる限りのことをするように言われておりますから」
「では、この国について教えてください」
「分かりました。この国は…」

 このジリヤ国の王はクリストフ ・ディ・サバイア。
 そして妻は第一王妃グリニス。

 息子の第一王子イクセル ・ディ・サバイア王子。
 妻のポーリーン王女。
 現王は50代前半の男盛り。
 その為なのかまだ王位を王子に継がせる話はでていない。

 王子夫妻の子供は第一王子ヘルムート王子は17歳。
 第一王女ビッチェ・ディ・サバイアは15歳。

 そして王にはグリニス王妃の他に2人の王妃がいる。
 その間に王子が2人、王女が3人生まれている。

「どうしてビッチェ王女様は聖女召喚に、関わっているのでしょうか?」
「そ、それは政治的な事だと思います」
「と、言うと」

「私も詳しいことは分かりませんが、王様には王妃グリニス様の他に女王様が2人おいでです。そのお子様には王子様が2人おいでになりまして」
「次の王位継承権を争っていると」

「はい、そうだと思います。各王子ごとに派閥があり、父であるイクセル王子様の株を少しでも上げられればと。成功するか分からない、召喚儀式の責任者に進んで名乗り出たのです」
「では思ったよりうまく事が、運ばないかもしれませんね」

「どう言うことでしょうか?」
「だってそうでしょう。権力争いがあっても国あっての自分達と分かっているならいいのですが、権力第一主義だと国は滅びることは無いと過信し、国の事や魔物のことなど二の次になるからです」
「そんなことは無いと思いますが」

「国の上に立つ人がどれだけ世間を知っているのかで、やり方は大きく変わると思います」
「タケシ様はどこから、その様な知識を…」
「あっ、それは(ファンタジーの)本からです。俺の居た世界では本がたくさんあり、そこから学ぶことが多いのです」
「まあ、そうなのですね。この国では本は貴重で字を読める人も少なくて」

 それから俺達は楽しい時間を過ごした。
 
「ではタケシ様また参ります」
「話し相手になって頂きありがとうございました。あぁ、そうだ。イルゼさん」
「なんでしょうか?」

「たくさん物が入るバッグてありますか?」
「マジック・バッグでしょうか?そうですね、ありますが古代遺跡からの出土品になるので、とても高いと思います」

「どのくらいでしょうか?」
「よく存じませんが馬車1台分入るマジック・バッグで、一生遊んで暮らせるそうです」
「そんなにするの?」

「どうしてそんなことを聞かれるのでしょうか?」
「いえ、俺の居た世界の本の話ではマジック・バッグは定番でしたから、簡単に手に入るなら便利だからほしいなと思いまして」
「まあ、そんなに有名だったとは。でも無理だと思います。肝心のマジック・バッグが、売りに出ることはまずありません。マジック・バッグ1つ持っているだけで、代わりに物を運んだりして一生遊んで暮らせますからね」
「それは残念です」

 そしてイルゼさんは部屋を出ていった。

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 トン、トン!

「お入りなさい」
「失礼いたします」

「どうしました、イルゼ」
「はい、ビッチェ様。実はタケシ様の事ですが…」
「あぁ、彼の事ね」
 ビッチェ様は興味なさそうに答える。

「タケシ様はこの世界の事を知るために、お付きの人を付けてほしいそうです」
「そうね、でも彼にく人手はないわ」
「ですがタケシ様は異世界人だけあって、特別な何かをお持ちです」

「あははは!彼は凡人よ。ねえオバダリア様」
「あぁ、そうだ。ビッチ。俺の鑑定に間違いはない」
「まあ、そのあだ名で呼んでいいのは、オバダリア様だけですよ」

 そこには二人掛けの座椅子に座ったオバダリアの膝の上に乗り、恍惚とした顔を浮かべるビッチェ王女がいた。
 オバダリアの左手はドレスの胸の中に、右手はスカートの中をまさぐっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のローズ・ブライトはレイ・ブラウン王子と婚約していた。 婚約していた当初は仲が良かった。 しかし年月を重ねるに連れ、会う時間が少なくなり、パーティー会場でしか顔を合わさないようになった。 そして学園に上がると、レイはとある男爵令嬢に恋心を抱くようになった。 これまでレイのために厳しい王妃教育に耐えていたのに裏切られたローズはレイへの恋心も冷めた。 そして留学を決意する。 しかし帰ってきた瞬間、レイはローズに婚約破棄を叩きつけた。 「ローズ・ブライト! ナタリーを虐めた罪でお前との婚約を破棄する!」 えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...