上 下
3 / 55
第1部 新しい世界

第3話 利用価値

しおりを挟む
 司祭が俺に掴みかかってきた。

 俺は無意識に手を払った。

「ペキッ!?」

 何か変な音が??

「痛い!イタタタタタ!!」

 司祭が手首を押さえ、うずくまった。

 大げさだな、そんな事くらいで。

「大丈夫ですか?司祭様」
「そ、その男を捕らえろ!は、早くするのだ」
 司祭は控えている騎士に叫ぶ。
「なりません。先に手を出したのは司祭様ですから」
 王女が騎士を止めてくれた。
 
 司祭の手を見ると変な方向に曲がっていた。
 特技かな?

「司祭様、少し痛いですが我慢してください」
 王女が司祭の紫に腫れあがった手首を伸ばした。
「イタタタタタ!」
「我慢してください、ヒール」

 王女の翳した手から暖かい光があふれる。
 その光が司祭の手首を包む。

 しばらくすると徐々にだが、腫れも引き始めた。

「私にできることは、ここまでです」
「ありがとうございます。ビッチェ王女様」

「あの~、今のは?」
「治癒魔法です」
「ビッチェ王女様はこの国でも数人しかいない、回復魔法の使い手なのだ」
 司祭が自分のことのように得意げに自慢する。


 回復魔法を初めて見たタケシは、自分もできそうなそんな気がしていた。
「いえ、私の魔法では大したことは出来ません。骨折した手を少し直すくらいです」
「骨折していたのですか?」
「えぇ、そうです」
「よほど、間の悪いとことに当たったのですね」
「この小僧が!」
 司祭が手首を押さえながら、顔を赤くしている。
 自業自得なのでは?

「タケシ様。おっしゃる通り今の段階では元の世界に戻れる手段がありません」
「でしょうね、召喚は出来ても、元の世界には戻れないと思います」
「どうしてでしょうか?」

「似たような世界がたくさんあるとします。そこから呼び出すとしたら、その逆はどうでしょうか?どこに戻していいのか分からないのに、戻せる訳がありません」
「そうですね、どこから呼び出したのか分からないのに。タケル様も召喚した私を恨んでいるでしょう。ですがそれでも、私達は、いいえ、私はこの国を救いたいのです」

「いいえ、恨んでいませんよ」
「え、本当でしょうか!」
「えぇ」
 元々、転移予定だったし。戻るところも無いですから。

「タケシ様だけでも、そう言って頂けると肩の荷が下りた気がします。生活も保障いたします。後は聖女様に分かって頂けるかですね。どうかタケシ様、お力をお貸しください」
「わかりました、俺で良ければ。そして生活は保障して頂けるのですね」
「ええ、召喚した私達のそれが責任ですから」


 それからこの国の話を聞いた。
 ここはジリヤ国の王都で、召喚された場所は王都の中にある神殿だった。
 シャルエル教を信仰しており、女神ゼクシーが絶対神だ。
 スレンダーなメガネ女子だと知ったら驚くだろうな。
 
 そして一般市民で1日の収入が3,000円くらい。
 5,000円で高収入だとか。
 そして俺の待遇は、1日8,000円で末締めの翌25日払いとなった。
 どこかの会社か?
 しかも一般市民の3倍近い額だ。

【ユニークスキル】異世界言語の効果なのか?
 お金の価値は、俺が理解できる金額に聞こえてくる。


「タケシ様、お願いがあります。異世界から召喚された方は勇者様の様に、特殊な力がある場合が多いのです。もしそうなら聖女様と一緒に、私達に力をお貸しください」

 なにかそれも面倒そうだな。
 それに本当にこの人達を、信用していいのか分からない。

「俺にはそんな力はないと思いますよ。できるのは、聖女様の話し相手位ですよ」
「そんなことは無いと思います。召喚されたばかりでお疲れでしょうから、お部屋へ案内させますわ」

 そして王女が手を2回叩くとドアが開き18歳くらいのメイドさんが入って来た。
「タケシ様はお疲れですから、お部屋に案内して差し上げて」
「わかりました、ビッチェ王女様。さあ、こちらへどうぞ」


 貴族の様な服を着た男の人は誰だったんだろう?
 俺の事をずっと見ていたけど。
 そんなことを思いながら、俺はメイドさんに案内され部屋を出た。


「いかがでしたでしようか?オバダリア様」
「残念ですがビッチェ王女様、彼は凡人です。私の鑑定では何も見えませんでした」
「本当ですか!異世界人が凡人とは残念です。では本当に聖女様の話し相手位しかできませんね」

(な、なんだと。あの小僧が凡人だと。偶然とはいえ、私の手の骨を折る無礼を働いておいて。異世界人なら利用価値があると思ったが、凡人なら容赦はしない)

 シャルエル教司祭、ロターリは悪い顔をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...