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第二章 始まりの春と宵闇の海辺街
這い寄る渾沌、嵐前の迷言
しおりを挟む『周囲が望む人形となって、生きることが「正しい」のか。
はたまた
親の望んだ姿形となって、過ごすことが「正解」なのか』
太陽の下で黒に染まらず。
日を掲げる旗元で白く、清く、正しく、汚点を残すことなく。
誰の恥にもならず、社会からもはみ出さず。
陰りの様に生きることを強要され、なのに泡沫のまま消えることは許されずに。
真っ直ぐ生きて、搾取の中だけで人生を終える。
望まれるがまま生かされ、望むように生きることなく。
『本当の自分』も知らず、気づけず、踏み躙られ、蓋をし。それこそ、幼心に一生塞がることのない穴を作ってまで。
現世の常に『偽りの仮面』を被り、適当に笑って、あの世界で。
それが人のひとりとして、間違わずに『生きる』ということなのか?
生れながら、ありのままの姿が罪だとして。
ならば、騙し騙しの仮面を被ってまで生き延びるのは、果たして『本当の正解』と呼べるのか?
教えることなく生かし、でも間違えれば「やはり」と嘲笑われ。
教えようともせず飼い殺すのに、でも成功する度「まぐれだ」と眼を逸らす。
在るべき姿、去るべき存在。
生れて来ない方がよかったと、実の親にすら見放される『性』。
……だったら、いっそのこと最後の時まで放っておいて欲しかった。
そしたら幼少期に無駄な足搔きすることなく、何処にでも、何処までも自由に飛んで行けたはずだし。
あの家で過ごした子供時代、在り得もしない期待を抱く愚かな娘にならずと済んだのに。
そっと独り、最期の時まで、いっそのこと、
無意味な希望ほど惨めで、残酷なモノは無いと知る、その前。
「いつの日か、いつの日にかは……」と、無駄な思いを積もらせることなく。
「でも、やっぱりそんなのは無理だったみたい」と、望まぬ水を浴びることのないまま。
先が見えない階段を上り終え、運命まで捻じ曲げて、王子様とも恋をして。
素敵な家族に、温かい周囲と、お伽噺の様な『家庭』に。
私も、いつか、私でも、いつかになればきっと辿り着けるんじゃないのか……って。
そんな世に溢れかえっている、ありきたりな子供の夢話。
……ただそうであっただけの、過去話。
□
———運命の王子様なんてやってこない。
窮地に陥って某蜘蛛ヒーローが飛んでくるのはハリウッドだけだし、そもそも現実の『浮世』とはそう言うモノだ。
期待するだけ無駄、頼れるのは自分だけで。
寧ろとうに歪んでしまった子供心では、無駄にキラキラとした金髪や汚れのない青は生理的に受け付けず。
その浮世離れした美しさの分だけ「憎たらしい」と、拒絶心すら抱いてしまう。
D系王子より大泥棒、お姫様より悪女。テンプレヒーローも嫌いではないが、それよりかは傲慢で唯我独尊な悪役が好き。
大人になるにつれ少女夢を見なくなり、『現実』を知るだけ少女漫画より少年漫画を選ぶようになる。
……いや、実際の所で嘗ての私はそうなったのだから、それが私にとっての『癖』なのだ。
有りもしない救いや理解など求めても、意味がないであろう。
特に生まれたときから太陽しか知らずに生き、日の下でしか息してこなかった人間に。
結局DだろうとFだろうと、どんな世界にも『部屋人』と呼ばれる人種は存在するし。
現段階、少なくもここにひとり、居る。
居た、が、しかし。
「今年の春は例年より暑くなるそうだ。その分、害ある虫も沸こう。
だからこの春はここでなく、リリー達とリーシャン……お前の祖父と祖母が住んでいる屋敷で過ごすように。
———特にお前にとっては生まれて初めての遠出となるのだから、欲しい物、必要な物、その他の必需品もすべて今日か明日までに言いなさい」
と。
それが久々なリアルでま見えた今生の父、お父様からのお言葉だった。
時空間を弾道せずとも一瞬にして鼓膜と心臓をブチ破る、マジで今更な引きこもりヤメロ宣言。
その顔と声の良さに伴う、ありえない衝動と衝撃。
遠出。
つまり、これは、これまでぐうたら思い赴くまま堕落し。それ以上に今生生れてこの方まで、一族一家公認で『公爵邸』に引きこもってきた可愛い娘にかのマサラボーイになりやがれ!
と…いう……って、ことォ!?
え?
エ!!
なんで?????
愛するお父様の口から今、遠回しに死んで来いと言われた気がする……。
一瞬にしてこれまでにおける全人生最大の混乱に陥り、本日のお父様がマジファンシーのマジFuck youな件について。
思わず「……FA?」と鳴くアトランティア・アールノヴァ、じゅっさい!
前脈もなければ前例もない、実の家族からのとんでも発言により一瞬心臓と時間が物理世界で止まる経験をした。
したくなかったが、してしまった。
後、ついでに生まれて初めてノアお父様を心底恨む羽目ともなったが?
そうやって今日も歴史が動く、春日和。
実に彼女が内心ペンライトをブン回し、馬鹿みたいな顔でカバみたいに構え、お騎士様たちの輝く筋肉を眺めていた時分での「不意討ち」話である。
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