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第二章 15歳、学術学院魅惑のイッチ年生時代
【舞台裏の文化】 傾城ならぬ「建城傾国」と鬼報
しおりを挟む健康で自由な心を保つには、適度の休息は必要不可欠である。
西大陸歴1871年、春の陽光が降り注ぐ朝のこと。
それは晴天を切り裂く火花、若しくは通り雨最中の雷鳴如く、此岸と彼岸の境を明確にした。
「ッ!? まさか……!!」
「ああ、なんてこと……」
然し栄光なる石に名が刻まれる一方、どれほど月日が流れたのも分らぬまま、名を喰われた者共の慟哭と恐怖が混ざり合った土の匂いは消えることなく。
魔の境目をくぐり抜け、明かりは封じられてきた過去を照らす。
「早く王宮に使いを! 一体誰が…いや、それより攻略者は……!? まだギルドに?」
「そ、それが———」
言うなれば、勢い任せのなし崩し。
ただそれでも一夜一思いの冒険が終わり、てんやわんやはしゃぐ大人たちに対し、【石】の最上位に名を刻んだ功労者は我関せずと深い眠りについている。
その数刻後。
完全にお祭り騒ぎと化した一般人や都の裏側、光が強ければ影が際立つ、そうやって頭を抱える場所も多々あった。
———いくら頭の良い子供ほど犯罪に走りやすく、馬鹿をするとは言え。
「うちの娘はあまりにも非凡だ」
情報操作はできれど、人の口に戸は立てられぬ。
一時にして知れ渡る悪事や悪い評判に比べ、人が人としての本能を捨てない限り知られ難い善行。
……然し、もしそれが「奇跡レベル」とも来れば、話は別だ。
「一体誰に似たんだか。うちの娘があまりにも非凡過ぎる……」
地獄の沙汰が「金」次第なら、常世とも来れば尚更で。
投票によって決まる世界は結局、白か黒にしか分けられない。
平和?
———違う、この世の常は混迷だ。
役者を並べ、ようは人を駒とする盤上、トランプのような人の生。
生まれ持つ牌こそ神の気まぐれで配られるけれど、どう扱い、その後どう生きるかはアナタ次第!
……と、頭では分かっている。
が、それでも人間、いくら頭で理解していようと、感情が追い付かない時もある。
今の男はまさにその様な気持ちだった。
何時ものことながら、家門の長として褒めればいいのか、親として、大人として「危ないでしょ、メ!」とするべきか分からなくなる。今この時……、
「うちの、俺の娘があまりにも……」
非凡だ。
「もちろんですよ、公爵様!」
大事なことだから三回言う。
気だるげでどことなく複雑な表情、溜息を零す美丈夫に、こちらは元気いっぱい! 正にその通りだと頷く"お嬢さん"。
「…………」
そしてこの場に集められたもう一人、二十代半ばという若さであるのにも関わらず、驚異の出世と金欲の末、今ではこの家の補佐官を務めるルぺは「この山を越えれば有給3倍、休暇一か月」と思いながら…。
「…………」
勘弁してくれ。
自分のお上と同僚に向ける、ゲッソリとした視線を隠すことができなかった。
ただ、公的立場こそ中々ではあれど、結局上と下に挟まれ一番弱い立場にいる苦労人間の気も知れず。
「不可能を可能にする、我らがオフィーリアお嬢様にできないことはありませんから」
大して長い付き合いでもないくせに……自分は初めから知っていたと鼻を鳴らし、同僚の女が自信と誇りに満ちた目で語るのを。
(俺が可笑しいのか……?)
ルぺがなんとも言えない気持ちで傍から眺めていると……。
「やはりあの子のすゝめを聞いて、君を採用して正解だったな」
直の上にして、件のお嬢たまに遺伝子提供したお父様でもある———エリアス・アストライヤ。
自分の上司に当たるアストライヤ現公爵が、愛娘の真骨頂をこと早に見抜いた女の子を高く評価していた。
嘗ては息子のストーカーだったお嬢さんであるのにも関わらず……だ。
(俺が可笑しいのか……?)
今こそこの屋敷で有能な使用人として活躍しているが、以前はそうだった女の子の整った横顔を未だ信じれない気持ちで、ルぺはジッと見詰め……これ以上考えるのを辞めた。
自分と同じく、忙しい日々に身を捧げるも、365日・年中無休・24時間働けます! そう言わんばかりの初々しい輝きが余りにも目に毒だったからである。
思わず現実から目を逸らす。
然しここには、ルぺがどう思うかを気にする人はいないし。
ここに就職してからというものの……それだけ傍から見たこの元ストーカー女は、まるで天使から天啓を授かり、天職を見つけたかのように、今日もヤル気と活気に満ちた顔をしていた。
「お嬢様は本当にすごいお方です」
今までの経歴が経歴、後は地元出身の者でもなかったので、初めこそ誰もが彼女を訝しんだが、分を弁え、然るべき『実力』さえあれば、(トップ家門が大分アレゆえに)多少人格や前科等が………………であろうと、余程のモノでない限り、大抵目こぼしされる北部。
給料は良いが業務環境が鬼畜。
それこそ、お猫様の手も借りてしまうほど万年人手不足、涙あり、笑い無しの職場である。
……然しそんな所に、病むくらいアナタの健やかを願っております。
『犯罪行為に走るくらい、この手の人間は大概IQ割り高、有能だし、おいそれと裏切らないだろうから、命が勿体ない』
あと人材も勿体ない\.:°+╰( ˘ω˘ )╯;。:*\
と言う……どこぞの誰か。
思わず納得してしまった(当時未成年の)主張もあって、彼女『アンジェリカ』の実力を、頑張りを、何よりその度胸と生命力を、周囲は認め、気が付けば受け入れていた。
この現実に、
「お嬢様は私の憧れです、永遠の」
「なんだ、分かっているじゃないか」
(やはり俺が可笑しいのか……?)
比較的常識人であるルぺは未だ得も言えぬ恐怖を感じるのと同時に、問題意識を持ってしまうのを禁じ得ない。
が、それだけ。
それでも人生ナニが起きるか分からないのが、世の中ということなのだろう……。
運が巡って思わぬ人からのヘッドハンティングに遭うも、世紀のビフォーアフターと返り咲いき。
ストーカー行為を繰り返すも、生き残ったアンジェリカは今やすっかり公爵邸一の有名人、当主ですら一目置く雇用人の新星である。
ので、
(俺は、可笑しくなんか……)
まぁ、その辺りは追々、今は兎に角———
「ああ、我が娘よ……あのくだらん法のせいで領から出したのが、そもそもの間違いだった。……どうやら停学されたようだし、今からでも呼び戻すか?」
「……昨日の今日で、流石にそれは……。公子様あたりはさぞ喜ぶでしょうが、公爵夫人が激怒しますよ」
『一度出歩けば砂金が降り、座敷に居るだけで大富を呼ぶ』
ストッパー兼実の上司より、昔から齢に似つかわしくない言動で理想の上司ムーブを醸してくるお嬢様の帰還に一瞬「それがいいかも」と思うが。
……それでも基本理性的なルぺ子爵。
『嫁は嫁でも、いずれお嫁に行く私ではなく、未来のお義姉様……来てもらう方のお嫁さんをまず何とかしなければ。家門の心労、ストレスは美容の大敵、お母様の睡眠に影響が』
———そして何より、私のせいでお兄様が婚期を逃したらどうしましょう……。
「……あとお嬢様も、初めての外部ゆきですのに、こうも早く呼び戻されては、流石に拗ねると思います」
「ハァ、これが世間で言う反抗期というやつか……」
今思い返しても吹き出しそうになる、誰かのひとりごと。
故に、彼はすぐさま思い直し、若干震えた声でぼそっと返事した。
もうすぐ実現するであろう「山の先」を心の中で呪文のように唱え、ルぺは、ぴくぴく引き攣った笑顔を浮かべる。
北部の人間にしてはほんと真面な方。
あとは普通に、お兄さんの立場からすれば、その憂い思惑はともかく……いくらアストライヤ門外不出の天才にして、天上天下唯我独尊アストライヤのお姫様であろうと、あの子はまだ遊び盛りの子供の内。なのだから、
(こころを鬼に、可愛い子にはなんとやらと言うし……)
未だ頭のネジが健在な大人からすると。
(……厳選に厳選を重ねた結果、外に出すからには『王家』や他の有力家門への防波のため、長年あれだけ渋った割に、あっさり婚約までさせておいて何を今更……)
人の苦労をこの人は一体なんだと思っているのかしら……(੭ ᐕ))??
何時も振り回されるお嬢様、そして何よりその都度、各書類を準備させられる俺が可哀想だろ……!!
(転職……)
だが、この国にここほど権力も金もある職場はないので……この峠さえ越えれば有給三倍、休暇一か月……。
ルぺは ニコッ! と笑った。
が。
「本来なら、一族上げて喜ぶべきところだろうが……チッ、中央のハイエナどもめ……」
その一方、一しきりの親馬鹿ムーブを楽しんだ後。一日前、そして今朝から殊更止まらなくなっている執務室の電報音にあの子のお父様は非常にイラついているようで。
……ただでさえ凄みでしかない美形の顔、回避運なく思わず見てしまったルぺの表情筋が一瞬にしてすん、と真っ平になる。
そして、
(俺が可笑しいのではなく、この職場、この世界が可笑しいのでは……??)
自ずと、気付いてしまった真理。
……は一先ず後で考えるとして……。
「……………」
「……………」
今思うべきはそんな世界、常識の再確認、おさらいだ。
それだけ、ちょっと不味い……と言うか、非常に煩いし、メンドクサイ事態になりつつある、現状。
確かに喜ばしいコトではあるが……長年問題となっていた【魔境】の初突破ともなれば。
……我らがお嬢様、『オフィーリア・アストライヤ』の名は今この時も中央を始め、後数刻もすれば国に潜むスパイによっても拡散され、すぐさま大陸中にその名を響かせることになるだろう。
「……………」
「……………」
……元よりハイリスクハイリターンの集大成と言っても過言ではないダンジョン、その覇者。
しかもそれがこの国どころか大陸で数人しかいない(とされる)Sランクのソロ冒険者とも来れば、例え平民出身であろうと国家の高嶺。
冒険に夢見る少年たちの永遠の憧れであり、周辺住民にとっての救世主であり、一回の踏破は本人の一生どころか一族数代先までの誉れ。
(———何より嘘や誇張、悪意混じる人の口に対し、例の石碑は嘘偽りがない)
のもあって。
なので報連相なしに、そんな場所に凸っただけでなく。
あの馬鹿はまた……。
「……………」
「……………」
待てど暮らせど、肝心な人からの連絡だけは一向に来ず。無視するだけ鳴り続ける電報音が執務室に木霊す。
まるで真夏のセミ合唱を聞いているようだった。
いくら然るべき法整備等がようやく確立してきた世界、西大陸とは言え、結局世の中弱肉強食。
『Sランクのソロ冒険者』というのは、元来そういう存在だし……それほど確たる栄光なのである。
突破したダンジョン数や危険度によって、各国の軍事における最高戦力であるソードマスターと同じ扱いを受けるやつもいるし、家門を乗っ取り上位貴族の仲間入りするのも良し、新たな貴族家門として再発するのも良しとする。
そんな「手札」。
……なのだけれども。
それでも思うに、どうせあの子供は……。
「……………」
「……………」
「?」
雌に雌の戦場があるように、雄の世界事情をよく知らないお嬢さんが首を傾げる傍ら、はぁと大きく零れる二つ分の溜息。
そして、
「うちの娘はあまりにも非凡だ」
時間は進めど、繰り返される歴史。
人間、いくら頭で理解していようと、感情が追い付かない時がある。
自分たちの様子を交互に見るアンジェリカの横と前で、今の男たちはまさにその様な心情だった。
何時ものことながら……とは言え、家門の長として褒めればいいのか、親や大人として「メ!」とするべきか分からなくなる。先ほどから、昔から……
「うちの、俺の娘が……」
「公爵様……」
お気を確かに。
先ほどまであれほど色々申し上げたかった上司、然し万が一この人がだめになるとそのしわ寄せが全部自分に降りかかる予感しかしないので、今や応援する生ぬるい気持ちしか残っていない子爵。
又もや前ぶりなく、とんでもないことを仕出かしてくれた娘およびお嬢様を誇りに思う反面、それでもと、素直に喜んでやれない妙な哀愁が、男性二人の間に漂った。
……これ以上考えるまでもない。ここまで盛り上がって仕舞えば、よもや今までの様に真実に嘘を混ぜまくる、「黒い噂」で相殺できないのは、明白である。
今回におけるダンジョンへのアレコレもそうだが…、
「事前報告がなかったということは、どうせその場の思い付きか、何時もの迷子の末だろう。……あの子からの連絡は」
「……まだございません、恐らくまだお休みになっているのでしょう」
「ハァ」
兄が神童なら、寵児と名高い妹の方。
"分野によっては"稀代の専門家を越えていると言われるほどの天賦、今や『アストライヤの突然変異』『北部の魂』とまで謳われ、そして人々に『通り魔』と慄かれている星の娘。
言えば、その美貌ゆえの集客も、才覚の発揮も、できれば「今からやらかしますよ~」と事前報告をした上で、せめてすぐさま対応に走れる自分たちの目の届くところでヤって欲しいものである。二人は思った。
それだけ、ただでさえ愛でずにはいられない容姿をしているのに……突然変異と言われるくらい(基本)性格も良く、その場にいるだけで空気が浄化され、時に猫の恩返しとも言わんばかり、数億も稼ぎ出すお姫様が可愛くないはずがない。
なので、実家である公爵家は無論のこと、始めこそ多少のいざこざあれど、今では(基本)癖と性格の悪いヤツしかいない北部中枢貴族からなる家臣たちやその奥方たちに、絶滅寸前の小動物みたく扱われているそんな子供だ。
幼いながら、昔やってた(笑)? まるで未来でも見てきたかのような采配をぽろっと零してくるので、身内ですら正直未だ末恐ろしいと感じ。
誕生日の送り物として土地を強請ったかと思えば、不気味な笑みのち止まらぬ奇行、公爵令嬢でありながら自分で諸デザインを施し現場駐在、工事指揮を執り、プロみたいな顔つきでメニュー開発まで始める始末。
そんで、
『地元限定と侮るなかれ』
とない胸を張る当時が今でも鮮明に思い出せる、数年前から始めた"喫茶店"なるものと"雑貨&出張オーダーメイドのお店"なるもので……いくら流行を作るのが上位貴族の務めとは言え、少々異常なまでに回される経済。
今や下手な貴族家門の年収よりも稼いでいる、親から見ても息子とは違うベクトルで中々にやべぇ、そんな娘。
ではあるが。
……ただ、惚れたが最後のなんとやら、そんな破天荒な所ですら「可愛い」と思うのだから、全員が末期。
ここ数年に至っては金生る木、金の卵を産む雌鶏どころか、民草や家臣団からの驚異的な支持率、我らがお嬢たまがとてとて歩くだけで砂金の雨が降り、ぽろっと出た助言で救われた命は数知れずな有様で……。
『え、絶対やだ。いや!』
なので無論、娘であれど「次期当主」と言う話も出たが、その話が出た途端、物凄い剣幕で丁重にお断りされたため、話はそこで終った。
『……正直、俺はどっちでもいいけど、ティーちゃんがやだなら、お兄様がやるよ』
『その代わりティーちゃんの方で金庫番、情報収集しつつ軍資金を稼ぐから、統治や対外政策、軍事についてはそっちで頑張ってね、お兄様!』
『ウン』
……けれども。
家門の長の座欲しさで兄弟や親族間でバチバチ、ころころし合う世の中だというのに……兄弟ではなく兄妹で生まれるとこうなるのか。
正しく目から鱗、突如始まった仕事の分担作業に学び、固定観念に囚われていた大人たちは一つ賢くなった。
ので、この屋敷、領地に新しい風を吹かす我らが『オフィーリアお嬢様』。
ハイハイを覚えた幼き日より迷子になる心配だけでなく、健康や食事、その全てに一族郎党、北部全域が一丸となって目を配っているワケだが……。
「……地頭が良く、空気も読める。回転もすこぶる速いのに、なんでこうも馬鹿になる時があるんだ」
これで本人がもっと自覚があれば、話は違ってくるだろうけれども、幼い頃からフリースタイルをこよなく愛す……当の本人がいたってのんびりしているせいで、その辺りは既に諦めている大人たち。
この家門の直系にしては大人しく、然しその反動からなのか、一度やらかす度合いが総じてデカイお姫様に対し。
学習意欲が強いのは悪いことではない、あと帰巣本能が強く、防犯意識が高いのも大変結構。
時折り職人を連想させる匠と化すも……が、然しそれもあくまで領内の中で!
であるのを前提とした話だ。
今の国内外における上層階級間の婚姻状況を考えるなら尚更そうで。
……だから苦渋の末、渋々あんな一歩間違えれば最大の害悪となり兼ねない保険、馬の骨と婚約までさせて、野に放ったというのに。
「親の心子知らずとよく聞くが、自分の娘のことなのに、俺はこうして時節、あの子が何を考えた上で、どこを目指しているのか分からなくなる……」
そう言いながらお父様とルぺ、そしてとうとうアンジェリカまでも今や"野生王国"と化しつつある屋敷裏の山と、『育ってからのお楽しみ、入っても良いけど何が起きても自業自得、それが社会です』と立て看板が置かれたお嬢たまのガーデニングエリアに思い馳せる。
周囲の人々を非常なまでに満足させるのと同時に"色々引っ掛けて来る"、我らがお転婆。
公女という地位、あんな見てくれをしておきながら、一度ネジが飛ぶと手のつけようがないじゃじゃ馬で…。
(欲しいものは自分でとってきたり、なければDIYし出すため)昔ながらの我儘といえば、大人じゃないと買えないものの入手や、慈善事業など徳の積めそうなことにちょっと熱心であることくらいであり……。
でも年若くして、何故そんなことするのかと聞けば。
『普段の行いがモノを言う、民の印象工作、免罪符は大事。魔女裁判は教会上層部を買収さえして仕舞えば、王侯貴族が束になったところで有象無象。万が一がある以上、亡命先の目星も付いたし……これで何時国外追放・宗教系冤罪をでっちあげられても大丈夫』
聖歌は流石に……でも、宗教画やカミサマへの奉納品ならお任せあれ~♪
自分の身は自分で、家族のことも私が守るもん!
ふんす('ω')!!
らしいので……時たまこうして訳の分からない言い分や場所に、ドンと金をかけるが、それ以上に稼いでくるため、内心いろいろ思った所で誰も文句が言えない。ここ最近……そして何より、お父様が今思うのは。
「大体今更ガキに混じってまで、俺の娘がナニを学ぶって言うんだ」
分野によっては寧ろ教える側だろ、どちらかというと。
それで、
「(~~~スーパー親馬鹿タイム~~~)」
を挟みつつ、最終的に自分と物の価値をよく分かっているようで、肝心のところで分かっていない愛娘に、お父様は頭が痛そうな顔で続ける。
「ハァ……まぁヤってしまったことに、今更どうこう言ってもしょうがない。とにかく、今はこの忌々しい音から……いや、先ずクリシス侯爵に連絡を、ミアにあの子が起きたら、こちらに連絡を寄こすようにと」
「分かりました」
頷いて退室したアンジェリカを目尻に、
「そして、ルぺ、お前は今すぐ全屋敷の使用人に通達しろ。これから適齢子息がいる家門……いや男がこちらに何かを送ってきたら、その場で燃やせ、全員敵だと思え、女も動物も油断するな。と」
「はい……」
暫くぐだったが、どうやらお父様の中で話が纏まったようだ。
子供染みた独占欲を滲みだすも、今の公爵様は公爵ではなく『父親』の顔をしていた。
『明日から本気出すと言って、明日の自分を信じるな。やりたいことは、できる間にしとかないと、死んでも死に切れない』
……本人からすればいつもそれなりの親孝行だと言ってるものの、傍から見れば到底そんなレベルではない所業の数々に一喜一憂する。あの子が生れてから、この屋敷では何時もの事、もはや日常なので慣れの問題、こういえば皆理解してくれるだろう、と。
天からの福音、驚き・望外の喜びをもたらし、恐怖を超して畏怖すら覚える反面。
それでも。
———然し"だから"と言って、そんな星の娘、いくら愛しても愛し足りない、自分たちの珠相手に。
「自分の見たいモノしか見ず、いつも悪意ばかり吹聴するやつらが、こんな時ばかり虫の如く沸く。"たかが"の分際で、公爵夫人……俺の娘でもあるまいに、何故許されると思ったのか」
器の小さいもの程、自身の程度すら測れず、よく吠える。
「……いくら戦時ではないとは言え、うちの家門も随分と見くびられたものだな。……いっそのこと革命でも起こして、一掃するか? その方が早い」
何ともない顔。ではあれ、その内心は如何に。
(子の不出来を嘆く親はごまんといるが、優秀過ぎる子を持つ親も大変なんだなぁ)
不吉な笑みを浮かべ、蠢く雰囲気を見たかったことにして。
ああくわばらと内心十字を切りながら、ルぺは未だ見ぬ「犠牲者」たちに形ばかりの同情を寄せた。
(ぽっとでの横から掻っ攫われるくらいなら———いっそのこと)
周りが周りで埋もれ、いくらここでは真面な常識人枠ではあれ、それでも彼もまごうことなく『北部の男』なので。
敵なら迷わず討つべし、問答無用! 公私の思いが混同するも、好き嫌いが非常にハッキリしているのである。
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