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第二章 15歳、学術学院魅惑のイッチ年生時代
月下に集う七光り、最初期の「見せしめ」って大事よな。
しおりを挟む『言うなれば、異界からの産声。
西洋アンティークと亜細亜伝統の融和、真ん中くらいの立ち位置、身の振りよう』
"意図せぬ事故"で島国から雪国へと移り住み、今や「お姫様」と呼ばれる彼女は、それでも「嘗ての全て」を愛しています。
何故「当たり前だった」それらを、こんなに愛おしく思うのは分からないけれど……たぶん二度と戻れない、失うことで美化された思い出だから……だと。
「………お、おほほ、『噂』とは違い、大層お綺麗で正直驚きました!」
———嗚呼、興味の持てない"お嬢さん"の声は、爪で黒板を引っ掻く金切りまで行かずとも、まるで不協和音を聞いているようで、胃のあたりがもぞもぞ、「おぞおぞ」してくる。
……ただそれでも、招かざる客で一気に冷めた場の視線を集め、一瞬たじろぐも、立ち去らないのはある意味「流石」と関心を覚えた。
「し、然し今まで領内に籠りきりでいらした公女様はきっと、国内の神髄を集め、どの領地よりも優れた中央の文化をご存じないはず」
言うなれば『井の中の』…でしょうか……。
公女ともあろう方が、なんと"哀れ"だこと!
「いくら見目麗しくも、このような方々に囲まれて……」
ですが。
「今日は"他でもない"中央出身がいます! ので、この後予定している余興も是非ご参加いただければと! 北にはない『本当の芸術』と言うのを、存分お楽しみくださいませ……!!」
片手を胸元に、もう片方はドレスの裾を引き上げる。見るから「形ばかり」の淑女の礼を取りながら。
何故初めから息を切らしていたのかは分らぬが……怯えながらも、睨み。終始こちらを品定めする不愉快な目つき……言葉にせずとも目が全てを物語る。
『なんて野蛮な田舎者どもかしら』
心の窓に浮かんだ、悪意。
隠しきれていないクスクス声、幼い矜持に、彼女はふわりと首を傾げ。「"案の場"だが、国の都たる中央の"お嬢さん"がこんなのでは、この国大丈夫か」と思う。
藍の中に金色がいて、金色の中にあの頃の「濡れ羽色」がいる。
……折角"落ち着いた"のに、深い藍の中で又もやチカチカ光を帯び始めた星屑を見て、周りのオトモダチ達は「あーあ」と見なかったことにした。
大人ぶって酒量を過信するも、一度漏れ出したダムの水を、『専門家』でもない自分たちが止めれると己惚れるほど、各々の力量を過信していないので。
「ああ、左様ですか……」
でも相も変わらず、「やはり」と言われる旅路、嫉妬に羨望。見え透いた思惑はともかく、その分年相応なのが大変お宜しい。
……先ほどまでの気軽さは何処へやら、緩やかな仕草で微笑む、その姿は「人世のモノ」とは到底思えないほど、美しかった。
(ヒッ……)
が、こうして圧倒的な『美』を前にしようと、それ以上、得も言われぬ"底知れなさ"が肌を打つ。
端正な三日月の口を作りながら、まるで相手にしてないとばかりな平坦な声に、普段なら逆上しているであろう幼いご令嬢だけでなく。そわそわはらはら、周囲で聞き耳を立てていた草花の背筋に言葉にならぬ悪寒と、冷気が走る。
ふーん、だから? と澄ました、たった一言だのに。同じ人どころか、言うなれば「精巧な人形」と話しているようで……。
(あーあ、ご愁傷様)
(可哀想に……)
この場の他と比べ、多少は慣れている身内ですらゾワゾワ、ゾッとするような思いをしているのだから、目の前のお嬢さんにかかる圧は如何に。
何故か顔を赤くし息切れを起こしていたが、結局ぷーくす、おほほほ……"哀れ"と見下ろして来た相手に、お子様たちは哀れはアワレでも"いと憐れ"、彼ら、北部の人間にしては実に珍しい憐憫の情を抱いた。
マァ、でも。
だからって……、
「なら、"そこまで"おっしゃる様でしたら、こちらも心より楽しみにしてます。なんせ貴女の言うように、どうやら私は『井の中の』何たら……らしいですから」
「ヒッ、」
助け舟を出すほど、自分たちは優しい性格をしていないし。お優しいはずの身内すら狼狽える場で悲鳴を上げたとて、誰も割り入ってこない。
己が大志(笑)と輝かしい未来(笑)の為、"不文律"を破ろうにも、もっと上手い方法なぞいくらでもあるのに……。
(勇敢なのか、無謀なのか)
それとも、ただただ、舐められているか……と。
キラキラ輝いてるのは、確かなのに。馬鹿にされた怒りどころか、何の情も宿らない乙女の瞳は、まるでブラックホールの様だった。
(何故か…はなっからぷるぷるしていたけれど……)
初対面の相手に突如話しかけられ、場に水を差された、不快を露にしたり、怒りだすのではなく。
柔らかな声での反芻は、今対峙している"お嬢さん"やそのオトモダチ達どころか、『笑い話』見たさに近寄っていた外野、大人たちの顔色まで変えるのに、十分過ぎて……場に春の夜とは思えない、異様な空気が流れ始める。
(お前なんとかしろよ、この空気……)
(なんで俺が)
(ああ、くわばら…マジくわばら……)
そんな中、顔見知り云々、初見で下が上に話しかける貴族社会特有の無礼カウントは別として、見ずとも分かる。
どうせ陰で勝手に盛り上がり、意気揚々とやって来たわりに、随分とマァ……彼女の目は「やはり"お嬢さん"だな」ときゅっと細まった。
……星屑の煌めきが今も収まったり、また点滅を始めたりと鬩ぎ合い、浸食し合ってる。
例え傍から見た表情が一定的であろうと、これはこれで瞳が全てを物語る。心の中で♰を切りながら、それを横目で見て、普段より
『"マジ"でガチな相手からの逃げは恥ではない、戦略的撤退とゆうんです』
命あってこその下克上、挽回√だからね。
……と。どこぞの誰かから言い聞かせられてきたお子様たちは、自分たちのブルゾンから一寸距離を取ったし。
(身内。そして何より可愛い女の子だからと須らく許され、甘やかされている)ルナちゃんたち女性陣は、我らがお猫様に悪女みたくバサッとできる、自分たちの扇子を貸し出しに行くべきかと顔を見合わせた。
そんなようやく大人になったのに、又もや子供の内に退化した北部の少年少女に囲まれ、中央マウントしに来たわりに、ブルブル震えが止まらぬ。その姿に思わず「一体何がしたかったんだ」と聞きたくなる、"お嬢さん"を見て、誕生日というかちえみ姉御席のオフィーリアは……。
「……ね、聞きました? どうやら傍から見た私達は、不作法な『田舎者』なんですって」
「ん""ッ、」
相手を怒らせる、嫌な思いにさせる、怖がらせる。そういったコトに関して身内の輪ですら他の随従を許さない、右に出る者はいないと周知されている『アストライヤ公爵家』の人間。それも直系の姫(本業)として……若干横から捌けた、マブその1に話を振る。
いくら
『欧州事情は複雑怪奇なり』
嘗ての内閣がそう言わしめるほど、大国だろうと小国だろうと『国』が多い分だけ複雑に絡み合う。そこにファンタジー諸要素をブチ込んだ、言わば制作者よりけりな世界だ。
日本人の曖昧さが可愛い、逆に清々しくすら思う、社交界での言葉の刃。……いわゆる"お貴族言葉"に変換するのすらめんどくさそうな態度を取るうちの子に。
「………ッ、」
「フ、ブッ、そ、そうみたいだね。俺たちが田舎生れの田舎育ち、高貴な中央様から見たら違いない、あってるあってる」
恐怖通り越して既に死人のよう、理解の及ばぬ相手への感情を象る"あちらさん"の顔色は一先ず置いといて……。
「……イナカモノ、田舎者ねぇ、田舎者。これでも建国以前より『獣』を紋章にしてる家門なのだけれど、井の中のカエルさん、貴女方には爬虫類に見えますか」
これでも星の系譜を持つ、『私』は。
どちらか言えばそちらの方が正統、言わば「現地民」というヤツなのに。"お嬢さん"を見る星獣の子の目は、空っぽで、まるで"違う世界"を見ているようだ。
今の発言に瞳の端で同じくわなわな震える、男の人が目に映ったが、介入できないよね。
だって"子供同士"の会話に大人、しかもお貴族様であるパパが口を挟んできた途端、子供の内だけの話ではなくなるし。天下の「存じ上げませんでした」で言い逃れできなくなるものね。
(分かりますとも)
そう思いながら、でも今更この口は止まらない。
あのレオ・クリシスくんですら「聞いてはならぬ、でもそれすらも愛おしい」と恐れ、腹の黒さならどの領より天下一品な家臣団のオジサンたちどころか、あのお父様すらも「パパ、それは人として問題ありです。あかんで」と口八丁、ブチの召されたことのある乙女の舌技(健全?)だ。
なので、国家間や国内のいざこざ、魔獣やダンジョンといった脅威。
(あとはドスケベ旦那……)
あるも、何だかんだ『安定』している世を生きる人間が対応できるはずないし…。
いくら小娘の見てくれをしていようと、腐ってもかの公爵家。対応できる親を持つ子供なら、はなっから雌雄分かり切った、こんな"負け戦"に赴くこともなかっただろうに。
(個人の虚栄、野望に余所様を巻き込まないで欲しい……)
時世の読めない親やお上を持つと、下の子は憐れだな。
生産性のない面倒事から、どこか『劇』を見てる心地となり。でもやはり、そんなことを思いながらも、乙女の口は止まらなかった。
"教科書"でも見ているかの様な眼で、然し「お父様に言ったら、悲しむかしら?」と傍でガタガタガタガタガタ正直煩い、同郷の子息に向ける調べは戯けけていて、一気に人間らしくなる。
もはや、付き合いの長いお子様たちですら、このアマは"二つの人格"が一つの体に収まっていると言われても、否定できないあり様に、目の前の"お嬢さん"は言わずもがな。
例の王子様グループにガムの様な不屈の心で引っ付き、こちらまで引っ張ってきた(と思われる)アリーナ席。
初めこそ
「ほら殿下見てください、野蛮でしょ」
「野蛮ですよね」
「そうよ、そうよ。これだから北からいらした方は、野蛮ですわ!」
ですから「私たちの方が、私たちのソフィアン様が最もオヒメサマに相応しい、だって肝心の公女様があんなに野蛮なのですもの~」とプークス、クスクスしていた(強ち間違いじゃない被害妄想)であろうリボンちゃんたちの顔を、ほらご覧なさい。
「~~~~~~! ~~~!!」
特にその中でも一際主張の激しい"お嬢さん"。その隠しているようで、見る人が見ればもろバレる。心根の意地の悪そうな笑みを、『天使』から滲みださせたまま、凍り付いているのが。
(何ともまぁ……)
若いなと思う。
まだデデニーが男女愛を押していた時代、キュアなヤツと携帯獣のヤツのアニメ初代が始まった頃あたり、マジで幼かった時はともかく。
「リア……」
大分前から『王子様』という職種に夢が見れなくなった、オネエチャンからすれば。
……いくら性に狂いしSub、(嫁限定で)寛大な旦那がカッコいいからと言って、(先ほどの退室後に飛んでないなら)今現在「ワカラセ」てる私にその資格も、申し上げれるモノはナニもないけれど……。
("あの手の子"、そして家門が外戚の権威を公示し始めれば、どんなに現陛下がやり手でも絶対足を引っ張られる。少なくとも異国相手の社交、奥様方の外交は終わるな)
と。
でも、私に関係ないし……何時も見たくぽろりと、下手に口を零せば、オーク顔の次は「内政干渉」の名分で悪名が広まりそう……。
(なので、今はあちらから寄ってきたから仕方ないけど、金輪際関わらんとこ……)
君子危うきに近寄らず、なのが長生きのモットーなので。
……「理解の及ばないモノ」に対する人間の感情は結局、『恐怖に陥る』か『魅入られる』かの二択しかない中。穏やかな声や物腰に対し、ジワジワ降下していく周りの空気に、前者を抱いた者は今にもチビリそうな思いを抱いたのは言うまでもない。
後者は瞬きも忘れ、いくら向こうから悪意を撃って来たとは言え。ガン無視のち、今や完全に孤立無援とっている女の子相手に、単方面リンチをキメている治外法権、当事者たちを呆然と見詰めることしかできなかった。
立ち込める様な異様な空気。そして目の前の"お嬢さん"を一瞬ふと見て、男の気楽で軽い声が静まり返っている場に響く。
「でも中央のお貴族様だとしても、ただの伯爵? 子爵?」
「俺に聞くな」
「まぁ、とにかく中央のお貴族様でも、少なくとも同等扱いされる公爵家ですらない、格下どころか、存在すら認識していないと思われる。ゴ…人間の発言に、あの公爵様は……」
どうだろう……(੭ ᐕ))??
「なんで、私を見るの」
「……マ、言ったら言ったで、それこそ入学早々、面白いことになりそうだけど……大事になるよ、絶対」
そんで。
「なんで、て聞かれれも。逆になんでと聞きたいんだけど……」
「お前らなんで俺に対しこんなに冷てぇの……??」「俺なんかした……??」と心底分かりませんの(੭ ᐕ))??顔をするマブその1とマブ2が心底どうでもいい、しょうもないにも程がある言い争いを(私を挟んで)始めたので。
「後で綺麗なお姉さん紹介してあげるから、今はいい子にしてて」
とシャラップさせる、姉御席の人。
一瞬にして鎮静化された両側のぱおんに、やはり世界平和、世の和睦は性欲から齎されるのか……と内心頷きながら、ナニ事もなかった様に、オフィーリアは「だよね、」と言葉を続けた。
「ですよねぇ。お父様の性格からして、普通なら"放置"一択でしょうが、私が絡むと……ね。家族の前では気が抜けて、口が軽くなるから。ふと今日の事零して、戦事にならなければいいのだけれど……」
「な………っ!?」
もはや青白い顔で「へ? へ??」、頭上に無限に湧き出る「?」を浮かべるしかできなくなった対戦相手とそのグループのお嬢さん方に対し、顔色をザッと変えたのは、(幼い頃から立場上の義務的なアレで)そういう教育が施されている一部と、腐っても大人であるご父兄な方々だった。
それを、
(はなっから舐めて喧嘩を売るから、こうなる。メメントモリ、嗚呼、メメントモリ……ウッ、もう会えない推し達よ……!)
と嘆き。とりま「反面教師ありがとうございます」とお礼も述べておく。
後は「たかが一寸便乗して突いただけで、こうも怯えられると、まるでこちらがイジメてるみたいじゃないか」と、興ざめて仕舞うのは……。
(学生間のプレゼンですら血反吐の顔文字で挑んでいた。前世の私ならとうに逃げ出してるような空気なのに、やはり今生の遺伝と生まれ育った環境はパナイや)
歳は取りなくないなぁ……と思いつつ、"この手の人間"は会話するだけ時間の無駄だ、とも思う。
あの頃の留学先がゴツくても手先が器用、合理主義、数字主義なあの国なのもあってか、さっさとこの金どころか、刺激にすらならない場を閉店ガラガラですと、閉めたくなる。
でもね。
「あ、あの! いや、そその……」
「———ああ、ごめんなさい。お話の途中に、どうぞお続けになって?」
いくらお互い生まれ育った環境、立場上仕方ないとは言え。悪意ある人間に優しい顔をした所で調子に乗り、頭が高くなるだけだろうし……。
(こうもあからさまに馬鹿にされてはねぇ……)
さてどうしましょう、とオフィーリアは悠然と足を組み直す。
学生や貴族令嬢どころか、ハリウッド大女優のソレにしか見えない態度のデカさに、見惚れるも。いわゆる"あちら側"の人間は生きた心地がしなかった。
一度その皮さえ剥がせば、(実は留学経験のある)ただの合算年齢30↑のオネエチャンであろうと、バレなきゃ詐欺じゃないので……。
ならば。
(この世界、少なくともこの国では15から成人扱いされる。ので、これからナニが起きようとお互い"自業自得"という事で……)
向こうのお望み通りの余興、今日という門出日を『笑い話』にしてやろう。
噂の信長様の次に風林火山の人を推している、例えドスケベナウでなくともある限度を超えると"その手の人間"の口調・思考等が出て仕舞う、乙女は「そもそもの大前提」と思い馳せた。
(例え奴隷等が非人道的と思われ始めた近代以降ですら、そもそも同じ"人"と思えなくなった途端、ナニしても正当化する、人族ならではの思考は一先ず置いておいて……)
寧ろ人間より、ずっと心優しい。ケモノでありながら、違う種族のちまいのにすら愛を注ぐ、理想な親となるのが獣というもの。
一度ボスと認めた者には、文句言いつつも付き従うし。身内間ならばどれほど戯れて、ふざけられようと許し、寛大になれる。
が。
基本、余所様に興味がない。
(……というか特定の相手以外にしか抱けない、『星の末裔』)
少なくとも地元ではそう周知されている今生の実家を。
『今いる西大陸であら珍しな黒髪家系だし』
やはりラスボス主人公のお宅なのでは……(੭ ᐕ))??
と思うこと何千回を超えたあたりから、今は気づかなかったことにしてるお姫様。思うだけでフラグが立つ、オフィーリアはストーリー強制力から逃れるように、一度目を伏せた。
然し、一度吐いた唾が飲めないように、一度開いた口は、やはり止まらない。
「それで?」
この身に流れし血が前世で培った知識と混ざり合い、敵認定された相手の心を最も抉れそうな言葉が、自然と出る。
例え元祖、如何にも ザ・ヒロイン! みたいな顔をしながらうるる被害者ぶったり、偽善的なことばかり言ったり、自分を取り巻く環境の全てを「当たり前」だと勘違い……
(と言うか思い込んでいる、マジで面倒なタイプ。途中から完全に頭のヤバい美少女と化す、悪役令嬢系いるいる)
そして、女性進出が一段落ついた現代ですら。上に行けば行くほど頭が固いか、腹の内が見えなくなるオッサンたちと比べれば……。
「一体どんな『噂』を聞きつけたのかは存じあげませんが、貴女はそんなことを態々言いにここまでいらしたの?」
「ぁ、あ、その……っ」
こんなちまい"お嬢さん"相手に、言うなれば人生2回目真っ最中。親世代のオネエチャンである私がナニをやってるんだろうと、思う一方。
「……それはまた、ずいぶんとご親切なことで」
「ッ!?」
ある意味、物理よりエグち。言葉の刃でガチ死人が出る前に、誰かこの口を塞ぎやがれください……。
これぞ海賊大国経験のあるお国の二枚舌すら逃げ出しそうな、数刻まえに『ガチ死人は出さないでね~』的なことをほざいていた口なんだぞ!
……ただ中の人が、いくらそう喚くも、国境どころか、世界の垣根を一度越えてしまった。言わば「違法滞在」している女は、新世界の神バリの暗黒微笑を浮かべた。
何度も言うが、いくら向こうから突いて来たとは言え、この世の『晒し』『イジメ』『殺さず生かさずの神髄』を舐めてるとしか思えない"お嬢さん"相手に、こんなんでもオネエチャンであるヤツが……だ。
———が、然し。
「はっ…ははっ…ですから、わたくし、わたくしたちが言いたいのは、式で学園長や先生方も仰るように、折角の機会なことですし…ここは一つ場を更に盛り上げるような勝負、文化交流でも致しませんこと?」
『噂』に聞けば、公女様も…と続ける相手方の言い分に。
「……………っ」
笑ってやるなよ。
いくら見るからの捨て駒でも、こんなに頑張ってる年若い女の子をさぁ……。
そんなもしかしなくても、もっとヒドイ見方をしているどこぞの誰かは、然し今更となって「向こうのお局も、なんでこの子ひとりで"この無法集団"相手に喧嘩、中央マウント取りに派遣してきたのだろう。他の人選はなかったのか」と疑問に思い始める。
(可哀想に……)
いや、前世の履修上どうせ「田舎者だからわたくしたちの嫌味すら気づかない、何もできないでしょう、おほほほ」的なアレだろうけれども……。
「なんで、そんな憐れんだ眼でこっち見るんだ。敵は向こう」
「てか、俺らなんの話してたっけ?」
「そう言えばオフィーリア様ぁ、母さんが、この前オフィーリア様が『調合』してくれたシップ? ガーゼに軟膏みたいなのを塗ったやつまた購入したいって…」
身内ながら言っては何だが、『野蛮』の名は伊達じゃない。
良く見積もってコンビニ前のヤンキーだけれども、猫チャン等を助けるどころか、きっと目の前で川に溺れていようと見向きもしないタイプのヤンキー集団だぞ。
「~~~~~~~~~っ、」
……そして何より、ナニより。身内ながら言っては何だが、『マジやべぇ』血が流れる家門も伊達じゃないし、洒落でもない。
現に、いくら向こうから寄って来た口であろうと、現在下のお口も開拓中。自分の旦那を合法的に「メス」にしちまい、今も「ワカラセ」てる女(少なくともココでの北部)トップな職場で現場だのに。
(……そう思うと目の前の女の子がほんと可哀想に思えてくる)
どうせ「アンタなんかより、私の方が王子様のお嫁さんに相応しんだからね! ぷんぷん」なつもり、当たりな向こうの思惑は一先ず棚に上げておくとして……傍から見れば完全に意気揚々と挑んできた捨て駒を逆にいびり始めた治安最悪、悪の集団じゃん……。
(いくら誰かが死んだり当て馬にならないと、進まないのが劇場版、『物語』とは言え……)
私を囲む全方位の温度差が余りにもヒドイ。
今しがたウチの子と戯れ、喰われているであろう旦那のデッ可愛い、ドスケベを浴びて頭を空にしたい……。
虚空を見つめる眼でそう思い馳せながら、オフィーリアは「でも、うーん」と数回、目の前のテーブルをトン…トン……爪でたたく。
……その内なる逃避、願望はともかく、傍から見れば例のお父様。しかも機嫌の悪い時にそっくりで、その姿を知る者は声にならない悲鳴を上げそうになった。
でも当の本人は、そんな周囲の視線をものともせず、やはりこういう時真っ先にガード、付き合う前から傍で旦那面してる。
余所と話すくらいなら俺を見ろ、俺に構えスタイル。
(こちらの自意識過剰と思いないほどの捨て身の根性で、身も心もおっぱいも尻も差し出して来たイケメン……)
日に日に増していく、今回の婚約名義で大爆発したBIG LOVE———を、こうも真っ向からぶつけられるとね。
(流石に認めざる負えない)
私のこととなると誰より心が狭くなる、その代わり悪いぱおんを所かまわずデカくする。カッコ良くも時折りモモンガにもなる、旦那様のおっ…胸に今すぐ包まれたい……。
視線だけで"この手の輩"だけでなく、この世のほとんどを蹴散らしてくれるレオくんを、帰宅のちにワカラセるべきだったか……そう思いながらトントンを辞め、オフィーリアは「これ以上、考えてはイケナイ」と居ずまいを正した。
言うなれば、本日の挑戦者が惰弱すぎて、もう完全に飽きている。
「ちょっ、おま! まさかまた……!!」
「騙す方より、騙される方が悪い。この世のシキタリを、何度も言わせるな」
(何度でも言うが、私を挟んで)博打を再開させているマブ二人を始め、こちらを気づかわし気に見るも呼ばれていないから身内で花を咲かせる女性陣。後は酒を ほーれ、一気! と煽られるがままがぶ飲みしたり、追加の食い物を物色しに行ったり、(たぶん)連れしょんしに赴いた数名という……現場はもう無茶苦茶だ。
(敵ながら、圧倒的同情)
確実に何重の意味合いでも震えるお嬢さん、その背後にいる本隊には目もくれず、我関せず顔なお子様たちに「オメェらはいいよな、人生楽そうで……」 呆れ通り越して、オフィーリアのオネエチャンは何だか微笑ましい気持ちになった。
……ただそれでも、いくら"この手の女"の言い争いに異性が介入するともっと面倒になるから、私には関係ない、私の居ないとこで介入してねと言い聞かせてきたとはいえ。
いざの我が身となれば「でもね。でもナニもそこまで、そんな我関せずな顔をしなくとも……」となって仕舞うのが、複雑すぎる乙女心、女の気持ちは秋の空というヤツなのだろう。
「あーッ! また負けた!!」
「純粋なウイスキーもエールも飽きたから、オフィーリア様のシャカシャカする『ボイラーメーカー』が飲みたい……」
美味しいけど無茶苦茶悪酔いする、無鉄砲なヤツじゃん……こちらを物欲しげに見るマブ二人からの視線は、とりま感じなかったことにして……。
でも、ふむ。
「……いいでしょう、折角、ですもの、ね」
「ッ!? えっ?」
流石にこのままでは不味いと思ったのか、石化したお嬢さんたちの間からこちらに介入してきそうな『王子様』を視界に映し、組んでいた脚を普通の座り方に戻して ニコッ! と笑う。
もうこれ以上うだうだ現実逃避しても、相手が公衆の面前で漏らすか、こちらが妥協するまで、埒が明かないと判断したオフィーリアは、一瞬騒めいた周りなど見えていないかのように。
(そのための『傾向と対策』、この程度の相手なら予想の範疇、何ら問題ない)
と、人が好きそうな『外ゆき面』を被り、小さな子供に向ける様な威圧のない微笑みを浮かべた。
子供相手に一々構うのも面倒だ。結局みんな自分を世界の中心に据え、自転しているだけ、と言う話である。
———だが、それでも忘れてはイケナイ事が一つ。
「ならば」
「……ヒッ!」
折角、ですもの、ね?
幼いゆえの無謀さであろうと、大変結構。
(真向に『喧嘩』を売られたのは事実。そして私に売られた喧嘩なのだから、『私』が買うのがセオリーだし、筋であろう)
あちらが"そのつもり"なら、その勇気を讃え、こちらもある程度の『誠意』を見せなければ、公爵令嬢と言う地位、そして実家の名に申し訳が立たない。
何より女が廃る……と言う訳で、ここでも唸れ拙僧の知恵袋。
(……特にこういうタイプの女の子は、ね)
言わば令嬢系によくいる"この手のお嬢さん方"は一度 プチッ てしておかないと、事ある事にプークスそうよそうよ、あらそうですわよしてくるだろうから、虫なら早期駆除、面倒事は早期解決に限る。
……いくら自分の見たいモノしか見ないのは、実に「人間らしく」も、そんなに国のファーストレディーとそのオトモダチ、摂政や外戚の夢を持つなら、中央でご勝手にどうぞ。
(しててほしかったな)
逆上しようと、問題ない。
いわゆる途中下車であろうと前世、こちらで「オギャ―ッ!」する直前まであさっていたウェブトゥーン・ラ○ン漫画だけでなく、幼き日のちゃおを始めなかよし、花とゆめ等を須らく手を出し、財布を閑古鳥にし続けてきた私に(たぶん)死角はない。
パパに泣き付かれようと、当のパパ(と思しきオジサンたちは)先ほどから視界の隅っこあたりで赤くなったり青くなったりと忙しそうだし…。
(だから、こんな堂々と挑まず、追々裏でリンチするか、上層部を買収し、マスコミ等で民を扇動した方が……)
高校あたりから少年漫画の方が好きになった口ではあるが、昔から名探偵より悪の組織、ホームズより数学教授、そして峰不二子ちゃん……カッコイイ悪党に幼心ながらに憧れ、その影響からなのか思考が完全にヴィラン寄りのヤツは、これ以上考えては「お宜しくない」と思った。
例え前世が大和の女(おしとやかに見えてむっちゃ強か)であろうと、今生は北欧の血、恐ろロシアぽい環境にて爆誕。すくすく育ったワイでも……
(回避でそうにない公女の定めなら、先手必勝。妥協も譲歩もない)
今後の学園、強いては卒業までの都生活を思うともうヤルしかないね、成るようになれ……と、乙女は心を決めた。
「なので、ヤルと決めたからには早速。いくら学生、新入生同士の文化交流とは言え、『勝負』と題するからには、比べ、審査しやすいように。まず手始めに審査基準、縛りを決めませんと…」
「は?」
安定するも、月光に反射するオフィーリアの瞳は、まるで本日の晩御飯を定めた猫のよう。
彼女は内心一足先に「마리아 마리아 」と歌い出しながら、ああ マリア……とその歌詞に今の自分を投影し、乗るしかないこのウェーブに、ノリ始める。
せこい、汚ねぇぞ! と言われればそこまでだが、現実世界に主人公補正なんて期待するな。例えあったとしてもそれはきっと今生の父か兄当たりだし……
「寝不足と心労から、かしらね。折角と言われれば、こちらとて丁度、むしゃくしゃ……いえ、そちらから態々いらしてくださいましたのに、このような眼も耳も多い場で一度口から出してしまったからには、これではお互い、今更となって『やっぱなし』なんて、ありませんよね?」
始めこそは「如何にもなお嬢様」に擬態しようと努力はしたけれど、今生の実家が余りに太く……熟慮の末の弾け。途中で何だか馬鹿らしくなっては、言わばここ最近? の流行り、真ヒロになれる系公女様の座を辞退しちゃったんだよね。
それこそ、前世なら死んで三代先になろうとお目にかかれないガチ『王室等』からの招待状が来るたび、多分
『私、将来は王子様お嫁さんになる~』
的な幼女のアレを警戒し、(うちのちまいのにバレてはいけないと思いながら)復元不可能になるまで破り割くか。隠蔽には炎しか勝たん、人であろうと紙であろうと灰にしちまえばオワリ、暖炉にポイしていた父や兄の背中を思い出しながら、オフィーリアは改めて目の前の"お嬢さん"を見た。
……正直、個人的には「(絶対もっと殺意が湧くだろうが)もうそっちの勝ちでいいよ」したい、ちょっと若いお姉チャンとしての心。
然し、やはりこんなご時世、時代の世界観からすれば。一度舐められると色々と「面倒になる」貴族社会、何より私の負けは、北部の敗北を示してしまう。
(どんなに『傾向と対策』を練っても、安心には程遠い。そもそも実家が激つよのつよ、顔も良いし金もある、お嬢さまであろうと世知辛い世の中よな……)
黄金の林檎と権利の味を享受できる代わりに産まれた責務を胸に、今宵もメメントモリを抱きながら眠らないといけないのかと考えるだけで、泣きそう……。
少し前、パパの補佐官お兄さんに「もっと気楽に生きられては?」と同情な眼を向けられたが、そうしたくも警戒しないとイケナイ、正しく諸刃の剣と今生の遺伝子よ……。
見方によっては内政チート系だが、逆言えば前世の知恵が仇になってる。そんな可愛い我が身、オギャ―ッ~今なうまで……。
「ならば、ね……。今から一体ナニで勝負をするか、手始めにお選びくださいな。『本当の芸術』…でしたっけ?」
でも、一纏めに『芸術』と言いましても様々で御座いましょう?
「さあ、勝負の入り口で呆けていては、"お目当てのコト"は運びません。何より、これ以上待たせてしまうと折角温まった場、皆が冷めてしまいますよ?」
いつの間にか又もや静まり返った現場に、一人だけ温まった心地となっている、乙女の声が木霊す。
今の台詞に目の前のお嬢さんどころか、見物人の中ですら肩を跳ねあがらせた人の多いこと、完全にビビっている女の子相手に、それでもオフィーリアの口は留まることを知らなかった。
嗚呼、どうしましょう……。と思いながらも、
「定番の相場から選んで『歌』にしますか、『楽器』にしますか、『絵』にしますか、仮にもご令嬢相手に『剣舞』は流石にアレで、この場にも合いません。だから後は『詩』に『棋』に『作文』———それとも『何でもアリ』?」
「んふっ」
「え、あ、フリ……?? いや、ええ、う、うた。歌で!!」
……もしこれが例の旦那相手なら、こういう時の滑舌だけ噛んだことのない意地の悪いお口、物理的に塞いでくるだろうが……。
運悪く『専門家』不在の場ともなれば。
「『歌』……左様でございますか。分かりました」
そして、いくら「こちらの事情」を知らぬとは言え、箱入りお嬢さん相手に「大昔の色ですらスキャンできる、正しく古今東西、あらゆる『芸術』の群雄割拠。エンタメ迸る世界から投入された相手に、馬鹿だなぁ……」と思ってしまった。
「なら、次に決めるのは歌で勝負する以上、先方後方、どちらから、そしてどの歌ジャンルで遊びますか?」
「え、え…」
ワイの性格の悪さを見よ……。
普通の異世界転生、若しくは憑依系枠のおんにゃの子なら、隠したり、バレたりしないように自重する場面であろうと、自爆して仕舞う遺伝子がマジ遺伝なのか、ただ単に元から自分が性格の悪いヤツなのか分からなくなりますね……。
ちまい子相手に自分という存在が余りにも大人げなく、恥ずかしいと思いながら、でも心の潜在……と言うか偏見? から"この手の相手"と話しても無駄と思っている。やはりここでも令嬢系、脳裏を走る拙僧の記憶。
数時間前まで旦那に向かって「話せば分かる!」と述べていた舌で、何時の時であろうと場面や相手次第で、態度も対応も変わる。
こういう「いざ」の時のオフィーリアは、例え中にどんな時限爆弾を抱えていようと、傍から見ればマジの『アストライヤ』だった。
出せるもんは、出せるときに、勿体ぶらずに出す。
その方がカッコいいし、私ならこんな上司、ボスについて行きてぇな……と言う願望。
何より、いつ突然の死がやって来るか分からない世界、自分以外全て敵だと思えのお貴族様社会なのだ。自分の地盤は自分で何とかしないと、砂上のなんとやら。
金は権力で、爵位はパワー。平和と和睦は、そうやって自らの手で、口で、才で切り開いていくのが最も健全で頑丈になれると思うので……。
「『私たちと違い、産まれも育ちも都なお嬢さん』…でいらっしゃるようなので、私よりよくご存じだと思いますが……」
知ってるよ。
こう言った世界観、どういった時代に何が流行るか、時代に合わせてどういった『芸事』が産まれ好まれるか……それこそ古今東西、行ったことのない国の文化ですら。
「ほら、確かここ最近の中央歌文化と言えば、オペラでしょう? でも貴女、貴女方の言うように王国広し、そして大陸、"世界広し"と言うじゃありませんか…」
ここ最近の国内、都での流行りを始め。
(例えこの世界のものでなくとも)
「流行った歌劇・オペラ、昔ながらのクラシック、あの頃のロック、意外に記憶に残る各地民謡、ジャズにブルース、R&B、ヒップホップ、ポップス……あぁ後、詩吟、とか?」
西洋ドレスを着てのこの場で、演歌はちょっとあれだと思うけど……。
最後の詩吟だけ聞いたことないオトモダチから「こ、コイツ……!」とバケモノを見る眼で見られながら、完全にワイ氏の独壇場となる。
完全にこのペースに丸呑みにされた周りを気にも留めず、オフィーリアは勢いが大事だと言わんばかり、あっけらかんと、如何にも"無害そうな"顔で続けた。
「"教養のある"、親切で、心優しい皆さまなら何ともないでしょうが。お恥ずかしながら、ラップというのは……流石に少し苦手ですが、それでも何とか」
例のマイクはないが、魔法がある。そして何より言うなればデータベース、"記憶"があるので……。
あとはクールジャパンのお家芸、異国のモノですら自国の文化として創り換るだけ。
「それとラブソングしばりとか、悲恋しばりとか、限定を付けるのも忘れずに……ね?」
その方が盛り上がる、場面が。
その同意を得ようと女性陣の方に向かって「ね」とすれば、一番早く、かわゆい笑みで返したルナちゃんが。
「そうそう、この前『レモン味の青春と土偶』しばりで、盛り上がったのよね、部屋が。それはもう歴代五本指、ものすっごく!!」
と証言してくれたと所で……彼女は西洋的なお嬢様というか、東洋の奥ゆかしい後宮の貴妃かの様な雰囲気を纏った。
顔の堀からして少し高圧的な美貌となり易い欧米系では、余り見かけない。しとど薫る春雨の様な、亜細亜特有の艶やかさというヤツである。
例えその心の内で———
「我が身を差し出し、場を盛り上げる。とてもよい心がけだと思いますし、感服致しました」
お互い、強いてはこの場にいらっしゃる皆様全員から見た『折角』、ですもの、ね?
これぞ言い出しっぺの法則。
「さあ"お嬢さん"、お好きなのをどうぞ、如何なさいます? 仰る通り私は『引き籠りの身』ですので」
浅学ですが、身内だけでなく『貴女方』のような方々にも聞いてもらうのだもの。
「又もや場を冷やし、耳汚しにならなければいいのだけれど…」
頑張って歌うので。
「それでも 未 だ 『野蛮と思うならば』、その時は、どうか思う存分"嘲笑い"なさって?」
……まるでもう既に歌っているような口ぶりに、目の前の敵やその親と思しき大人たちは更に顔を白くし、夢なら早く覚めてと思った。
そんな今宵の対戦相手に対し、悪夢は口遊みながら、目を細め、口角をふんわり緩める。
「さぁ、どうします? 『噂』に聞く私と『歌』勝負をしたい」
そしてあわよくば大衆の面前で、一生に残るような「恥をかかせたい」一心。
「…と言う話ですものね、言わば『宣戦布告』———だから私は言ったのです。『貴女方のお気遣い、北部の顔としてしかとお受けしました。』」
良いでしょう、と。
「ヒッ」
美しく誤魔化した貴族言葉の裏腹を、下の者に使うにしては丁寧で、美しいはずなのに血と暴力しか匂わないド直球で撃ち返される。
その光景に今は影を潜めるも、「昔、よく見たな光景だな」と思いながら、北部のお子様たちは、こりゃあもう俺らの手におえん、対戦ありがとうございましたの目で、向かい側の者共に心からの同情を寄せた。
あれほど生きがよかった相手が、どんどん追い詰められ、自分の口で吐いた言葉で往復ビンタ。自分の首を絞めていく様は、見ている側としては爽快だが。
相手が(地元民から見ても)バケモン過ぎて、ちょっとは加減してあげなよ……と思うくらいの慈悲の心を、流石の不良少年たちでも持ち合わせていた。
例え敵であろうとモノホンのおっぱいがついてるだけで、いつの世も、その点ばかり。男の方が女よりずっと『優しい』のは、どんな世界であろうと同じ様である。
(異世界転生を一度もキメたことのない輩が笑止! 今日も色んな意味で片腹痛いわ……)
……後は魔法の言葉がファンタジー、こういう摩訶不思議パワーが蔓延る、周知されてる世の【人族】と、幻想はあくまで空想の中だけ。その代わり悪知恵と科学で歴史を紡いできた人間と比べ、悪魔的な発想に至らないのは、よくある話だ。
なので、例え本場の『イジメ』『人身攻撃』、そして様々な国における『後宮』のなんたるかを知ってる女からすれば、たかがこの程度であろうと。
あれほど生きが良かったのに……。
「そんなに震えて可哀想に、もしかして寒い? ごめんなさいね、何せ私生粋の北部、雪国育ちの『氷属性』だから、思わず気温を下げてしまう時があるの」
『私』はともかく、ルナたちと比べても、首都部のお嬢さん方は、何とも儚い。
……そう言ったドラマや実況ばかり聞いて、学んできた弊害がここでキている。
舐められたらオワリな上流階級……もはや被害妄想ともとれる思考回路が、オフィーリアの感覚を麻痺させていた。
だから、いくら無礼講な場所とは言え。
だから、いくら引き籠りの世間知らず(だと思われてる)相手とは言え。
("よくある私生児モノ"ですらない、これでもれっきとした名分や血統を持つ公爵家の娘に、突如声をかけて……)
例えその自覚がなくとも、聞き手側がそう受け取れば、意味となる。野蛮なのはまぁ…でも、「他でもないわたくしたち(笑)」あの様な『宣戦布告』『外交問題』に発展し兼ねない発言をするなんて……。
「こんなのでも、ね。これでもアストライヤの紋章を背負う娘であるのに、未熟で、お恥ずかしい限りです」
恐らく社交界ではドン引きされ、一部頭の固い老●達からすれば、ナケナシの毛根が死滅するほど嫌われるだろうが。……それでも、例え女の子であろうと、分かる人には分かる。(現代、しかも留学毛経験アリ)外交や、(現代、細かいとこまで把握してないがその辺り周りがカバーすれば化ける)財政界に熱望されそうな思考の回り方である。
何より"トップ"と付く野郎どもを支えるのに、これほどぴったりな『人材』はいない。
本人からすれば詐欺でも、周りからすればそうではないので……。
(彼女なら父上も母上も気入るはず……)
それに、兄様達だって……。
今日も好きなだけもの申し上げていく内。一部の絶望と熱望の視線、月光に纏わり付かれる中、オフィーリアはしっとりとした笑みを浮かべた。
上げられた口角の代わりに、伏せられた(無駄に長い)睫毛の陰りが色っぽくて、こんな場であろうと思わず、ほう、と外野から感嘆するような溜息が零れる。
どの業界、世界であれど、結局【人族】というものは容姿・顔、第一印象で相手を評価する。
ぶっちゃけ「ブスだから、イジメられても仕方ない」と子供たちの間で正当化されるほど。言うなれば第一印象さえ決めれば後は被害者ぶろうと、法廷に立とうと、堂々としていれば、大概疑われない。どうにかすることができる。
(ということを……)
そんな幼稚園もも組の幼子でも分かることを、産まれながら「貴族」という強牌を持っていようと、完全に努力の方向性を間違えてる。
……どうやらその辺りは、目の前のお嬢さん(方)より、例え爵位を持たずとも、我が家の使用人たちの方が余程理解してるようだった。
「はぁ……」
「ッ、」
例え何をしていようと、私が美人ゆえの迫力バフがかかるとは言え。王子様のお嫁さん(笑)、これから貴族社会という悪意の坩堝で闘わないとイケナイ、義務的存在が俯くなと言ってやりたい。
確たる実力があるのに越したことはないが、舌先三寸の詐欺師の気持ち。こういう時こそ胸を張って、『はったり』が大切だというのに。
(王子は王子でも貴女だけの王子ではない、"みんなの王子"様だし、後の帝。この子たちは"宮廷"がどういう場所で、どれ程ピ———なのが、官僚の父を持ちながら、分からないのか。女だからって全てが許される男女比の極限世界ならまだワンチャン……人生舐めてる)
同じ蝶よ花よと育てられた箱入りでも、私は幸い、周りの理不尽に対抗できる家名と 顔 そして前世から引き継ぎ、今生で培った教養まで持っているから、この"男社会"でなんとかやっていけてるけれど……。
(親が"分からず屋"だと、子は憐れだな)
例え虚勢であろうと、それらしい表情、それらしい言葉使い、それらしい仕草さえできれば、その『イメージ』に人はついてくるというのに。
「~~~~~~~~~ッ、」
理想の上司を始め、平伏したくなる君主、慕われる将……そして、最もイメージしやすい傾城傾国、理想の俺嫁。
前世時がなくても、同時進行で作業し出す。あらゆる国の宮廷ドラマ、偉人等をモチーフにしたゲームや漫画を片っ端から齧ったことのある私が、『イメージ戦略』で後れを取ることはほとんどない(と思いたいな)。
訪れたことのない宮殿の内情が分かるほど、"この手の話"は慣れている。
「『噂』…噂、噂、噂。ここに来てからみんな『噂』ばっかり、産まれ時から北部から出たことがない分、私の噂が多いのは知っていたけれど、そんなに面白いお話なら是非ともリストにして、持って来てほしいものね」
私は、それを本にして売りさばくから。
いつの世も有名人のゴシップほど売れる話もないので、と。
これも、やはり「そもそも」からの話。
記憶を持ったまま、気づけば時空の壁までをもブチ破っていた人間に「常識の枠」を用意するだけ無駄な話であろうに……。
(そして今生の実家の太さを考えれば……)
都のお貴族様は本当に暇なんだなと思う、今更この程度の言いがかりで、大げさな反応をしてやる必要もない。
ただそちらが「そう来る」ならば、こちらも……。
「だから、ね? さぁ、私たち 田 舎 者 よりずっと、だけでなく"何所よりも優れた"文化を持つ都のお嬢さん、どれに致します?」
イメージはあの日のネズミランドさんプレゼンツ、某ビィラン魔法学園のタコさん。
それ相応の態度に相応しい、文句の付けようのない優雅さ、如何にも洗練された高位貴族らしい態度、仕草で応じるまで。
「うわ……」
……ちなみにこんなオフィーリアお嬢様の生態、存在は。彼女が『アストライヤ』である時点で北部の不良少年少女にあっさり受け入れられた。
元来、大人より子供の方が順応力高いワケだし……それこそ令嬢あるまじき多少(?)の奇行も、もはや人知を超えてるとしか思えない迷子病も、少なくとも北部では何の価値暴落、傷にはならないらしい。
(可哀想だけど、それはそれで、これはこれ)
(いいぞ、もっとやれ……)
それどころか、その血統書付きのお猫様感、『傲慢さ』こそが北部の絶対君主たるアストライヤらしいあり方、我らがお嬢たま。
なのでオフィーリアが突如実家の庭先に現れたり、ついでに家庭問題を解決していったり、何かヤラカスたび、むしろ好ましい雰囲気にすらなる。
雪国の割にやたら資源が豊富で、素晴らしい土地ではあるが、その自然恩恵に比例しダンジョンも多く、魔物も強いし、自然災害も多い、厳しい環境だけに。
その様な身の置き場、昔からの実力絶対主義が興じ、一定の実力さえあれば「どんな奴」であろうと差別しないのは、ある意味普通に凄い。
(だから、火炙りにされることなく、好き勝手出来る。私に勿体ない位の地元、家門だから……)
今日も高騰し続ける実家への忠誠心。
……でも、そんな北部を余所様の目からは、いつも「野蛮」と映るらしい。
私たちはただ"楽しく生きていたい"だけなのにね。
だから、
「…初めに挑んで、いえ、誘ってきたのは『そちら』。そんなに難しい問題でもないでしょうに、随分とお悩みになる。何度でも言いますが貴女方の御随意に、私はなんでも良いですよ?」
野蛮?
上等である。
寧ろ「おきれい」と思われるより、余程気楽に過ごせて、思いの趣くまま今生を謳歌、ヤリ易いから。
「ぇ、あ、そ、その私たちはただ…」
「ただ? ええ、そうですね。貴女方は、ただ……これは、今から行う余興は、中央、首都の右も左も分からぬ田舎者へのちょっとした意地悪でじゃなく、ただの文化交流」
でしょ?
大人げないのは、分かっていようも、開花した口は止まらない。そしてこう言う相手に、遠慮は不要だという偏見が、その口頭を更に加速させる。
弱みを見せれば付け上がり、可能な限り搾取しようとするのが貴族社会、外交の場、社交界と言う場所、世界なのだから。
「もし貴女方にとって私が出る杭なら、」
雉も鳴かずば撃たれまいに。
「あんなに面と向かって喧嘩を売った」のだから、自業自得。
けしかけるだけ、けしかけといて、彼方の身内と思しき後方『お嬢さん方』ですら、こちらを青通り越して美白な顔で見てるだけなのだから、どこもかしこも結局いっしょ、薄情なものである。
「中央様からすれば、噂に聞く引き籠りのワタクシと『勝負』したくて、誘ってくれただけ。なのに、なんでそんなに青く? というか白く? 先ほどから視線すら合わせて下さらないなんて、寂しい『ですわ』。私の顔ってそんなに恐ろしいのかしら……??」
笑っているけど、笑っていない。
終始優しい鈴の音だけれど、まるで"地獄の入り口へようこそ"とばかりに見え、聞こえる。
本人からすれば至極当然の態度であろうと、終始一貫。口元だけは確かに品よく歪み、微笑んでいるが、纏う空気は研ぎ澄まされ、切れ味鋭い刃となって周囲の肌を刺し。口が開く度、"そういった方々"の心を抉っていた。
青い子供に語りかけるような優しい口調のまま、思わずゾワっとクルほどゆったりとした仕草でワインを食み、北部の妖精はこてんと小首を傾げる。
「ね、私とゲームしたくて、誘ってくれたのに。そんな顔されてしまっては、悲しいし、場の空気を冷ましてしまったようで、心が痛むわ」
例え周囲のオトモダチに「嘘つけ……」と思われていようと、ただでさえ疲れている相手に、喧嘩を売るだけ売っといて、ヤルなら最後まで一貫してやれよ。の一心だったとも言える。
少なくとも普段の彼女ならば女の子相手に絶対しない、今更顔の色を変えた相手に乙女、今宵のアストライヤは冷め切った視線を向けた。
例え旦那を『放置』したのち、先ほどまで雛みたいな顔をしてグラタンを与えられ、銀のスプーンを握り、身内に甘い顔で接していようと。立場上、この場のオフィーリアは他に無関心で冷徹な北部の顔役である。
地元だと自分に回ってくるまでパパやお兄ちゃん、後は旦那(と極稀にオトモダチ)が大体蹴散らしてくれるから、百戦錬磨とまではいかぬが、後ろ盾の強さを分かってるからには、弱腰外交なぞありえない。
正しく風林火山の如しの佇まい、突いて来ておいて、鳴かぬなら……のなんとやらである。
前世、そして今生と可愛がられる傍ら、みっちり磨かれ、扱かれたヤツに対し、今にも倒れそう。
あうあう言いよどむ相手やその背後の軍勢を前に、彼女は嘲笑うのでもなく、ただ笑みの形を崩さないままじっと見つめているだけ。
貴女方が今までしてきた様に、なされば?
「噂ねぇ」
噂。
一体どの噂かしら、今も言いたいことを言わせてさしあげましょう。
「———怒らないから、さあお好きなモノをどうぞ?」
余裕のある態度は上流貴族の威厳、下の者に対する余裕が満ちている。
然し、その心は「テンプレぷーくすご令嬢たちがいかに吠えようとも、やはり実家しか勝たん」だった。
例えそれが湧いて出たような家柄・親ガチャ勝利結果であろうと、在りし日の受験戦争における教育環境みたく、金がモノを言う世の中。生まれながらの身分だけでなく、頭の基礎値からして違うだ。
実質の「立場」「立ち位置」「これまでの験算の違い」、後は(諦)から産まれた強かさが、そこにあった。
そして、何より。
『恩を返すかはその時の気分次第だが、身内でもない限り、仇は例えX代先になろうと忘れないし、悪霊に化けてでもブッコロコロ』
ヤラレタラやり返す、3000倍返しだ……('ω')!!
的な(੭ ᐕ))??
座右の名が名、だからこその実力主義、北部の原初教訓が「この地で長生きしたいなら、噛む相手を間違えるな」なので。
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