26 / 27
脅迫
しおりを挟む
「えーっと……」
彼――シュミット・クライム君の話によると。
彼のお父さんはとある貴族に仕える飼育係で、この犬鳥――種族はバードック、ていうそうだ――のヒューはその主人が飼っているらしい。
でもちょっと目を離した隙に逃げ出してしまった。ヒューを逃がした事を知られれば、お父さんの責任になる。
でも幸いな事にヒューは貴族にとって何頭もいるコレクションの一つ。だから主の見ていない間に探して見つけたら問題なしだ。――とこの数日探し回っていたそうだ。
「もう家族総出で必死だった。でも全然見つからなくて……。そうしていたら、ナルシトさんに知られてたんだ」
――バードックって、稀少なんですって? 一頭でも宝石10個分のお値段になるそうじゃない? 逃がしたってだけでも、責任問題よねぇ……。あなたのパパ、解雇だけじゃなくて下手すれば免許剥奪よね。そうなったらご家族皆、どうなるのかしら?
――え、黙ってて欲しい? どうしようかなぁ……私にはなぁんにも得な事ないし……。ふふ、そうだ、ちょっと協力してもらおうかしら?
別に大した事じゃないわよ……。
そんな感じに、彼に偽証を頼んだそうだ。
「じゃあ他の人達も……」
「うん! きっと僕と同じだよ、マリア・ナルシトに脅迫されたんだ!」
クライム君が荒い口調で言い切る。
因みに今、僕がいるのはシュミット君のお家だ。大きさは僕の家よりちょっと小さい位。少し古そうだけどお手製のクッションや家族の肖像画とか飾られていて暖かい雰囲気のある良いお家だ。
ヒューを僕が拾ったと知った彼のご家族は、ボロボロと涙を流しながら僕に何度も御礼を言ってくれた。怪我の事も言わなきゃと思ったので、“酷いヤケドをしていた”事は話した。ただ……治療をしたのは偶然通りかかった人、って事にしたけれど。
それよりも僕が動揺していたのは、新たな事実について、だった。
「まさか……マリアが、人を脅迫するなんて……」
僕の知っているマリアは、そんな事はしない。
だって僕に言ってくれたから。“カヤラにはカヤラの良いところがある”って。
なのに、何で……そんな風になったんだ……?
ただただショックでどんなリアクションも出来ない僕に、シュミット君がたまりかねたように大声で言った。
「オリガ君もう少し怒れよ!! あのマリアってヤツは君を利用するだけ利用して、挙げ句に濡れ衣まで着せて婚約破棄させようとした悪人だぞ!! しかも王太子様達まで騙す最低の――」
「止めなさい、シュー」
怒りまくるシュミット君を、止めたのは彼のお父さんだ。てっきり自分と同じと思っていたお父さんの制止に驚いている。
「何で!」
「我々にとっては悪人でも、カヤラ君にとってはずっと大事に思っていた婚約者だ。いきなり気持の切り替えなどは出来ん。――はあ……ナルシト嬢は誠に短慮な事をしたものだ」
「そうでしょうか……?」
僕から見ても王太子殿下達は魅力的だ。そんな人達とずっと一緒にいたら僕なんて霞むのが当たり前だ。
「…………」
黙り込んでしまった僕を、シュミット君のお父さんは困ったように見て、それでも大きな手を肩に乗せてくれた。
「少なくとも私は、君が劣っているとは思わない。自分を責めるのは止しなさい」
彼――シュミット・クライム君の話によると。
彼のお父さんはとある貴族に仕える飼育係で、この犬鳥――種族はバードック、ていうそうだ――のヒューはその主人が飼っているらしい。
でもちょっと目を離した隙に逃げ出してしまった。ヒューを逃がした事を知られれば、お父さんの責任になる。
でも幸いな事にヒューは貴族にとって何頭もいるコレクションの一つ。だから主の見ていない間に探して見つけたら問題なしだ。――とこの数日探し回っていたそうだ。
「もう家族総出で必死だった。でも全然見つからなくて……。そうしていたら、ナルシトさんに知られてたんだ」
――バードックって、稀少なんですって? 一頭でも宝石10個分のお値段になるそうじゃない? 逃がしたってだけでも、責任問題よねぇ……。あなたのパパ、解雇だけじゃなくて下手すれば免許剥奪よね。そうなったらご家族皆、どうなるのかしら?
――え、黙ってて欲しい? どうしようかなぁ……私にはなぁんにも得な事ないし……。ふふ、そうだ、ちょっと協力してもらおうかしら?
別に大した事じゃないわよ……。
そんな感じに、彼に偽証を頼んだそうだ。
「じゃあ他の人達も……」
「うん! きっと僕と同じだよ、マリア・ナルシトに脅迫されたんだ!」
クライム君が荒い口調で言い切る。
因みに今、僕がいるのはシュミット君のお家だ。大きさは僕の家よりちょっと小さい位。少し古そうだけどお手製のクッションや家族の肖像画とか飾られていて暖かい雰囲気のある良いお家だ。
ヒューを僕が拾ったと知った彼のご家族は、ボロボロと涙を流しながら僕に何度も御礼を言ってくれた。怪我の事も言わなきゃと思ったので、“酷いヤケドをしていた”事は話した。ただ……治療をしたのは偶然通りかかった人、って事にしたけれど。
それよりも僕が動揺していたのは、新たな事実について、だった。
「まさか……マリアが、人を脅迫するなんて……」
僕の知っているマリアは、そんな事はしない。
だって僕に言ってくれたから。“カヤラにはカヤラの良いところがある”って。
なのに、何で……そんな風になったんだ……?
ただただショックでどんなリアクションも出来ない僕に、シュミット君がたまりかねたように大声で言った。
「オリガ君もう少し怒れよ!! あのマリアってヤツは君を利用するだけ利用して、挙げ句に濡れ衣まで着せて婚約破棄させようとした悪人だぞ!! しかも王太子様達まで騙す最低の――」
「止めなさい、シュー」
怒りまくるシュミット君を、止めたのは彼のお父さんだ。てっきり自分と同じと思っていたお父さんの制止に驚いている。
「何で!」
「我々にとっては悪人でも、カヤラ君にとってはずっと大事に思っていた婚約者だ。いきなり気持の切り替えなどは出来ん。――はあ……ナルシト嬢は誠に短慮な事をしたものだ」
「そうでしょうか……?」
僕から見ても王太子殿下達は魅力的だ。そんな人達とずっと一緒にいたら僕なんて霞むのが当たり前だ。
「…………」
黙り込んでしまった僕を、シュミット君のお父さんは困ったように見て、それでも大きな手を肩に乗せてくれた。
「少なくとも私は、君が劣っているとは思わない。自分を責めるのは止しなさい」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる