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脅迫

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 「えーっと……」

 彼――シュミット・クライム君の話によると。
彼のお父さんはとある貴族に仕える飼育係で、この犬鳥――種族はバードック、ていうそうだ――のヒューはその主人が飼っているらしい。
 でもちょっと目を離した隙に逃げ出してしまった。ヒューを逃がした事を知られれば、お父さんの責任になる。
でも幸いな事にヒューは貴族にとって何頭もいるコレクションの一つ。だから主の見ていない間に探して見つけたら問題なしだ。――とこの数日探し回っていたそうだ。
「もう家族総出で必死だった。でも全然見つからなくて……。そうしていたら、ナルシトさんに知られてたんだ」

――バードックって、稀少なんですって? 一頭でも宝石10個分のお値段になるそうじゃない? 逃がしたってだけでも、責任問題よねぇ……。あなたのパパ、解雇だけじゃなくて下手すれば免許剥奪よね。そうなったらご家族皆、どうなるのかしら?
――え、黙ってて欲しい? どうしようかなぁ……私にはなぁんにも得な事ないし……。ふふ、そうだ、ちょっと協力してもらおうかしら? 
別に大した事じゃないわよ……。

 そんな感じに、彼に偽証を頼んだそうだ。

 「じゃあ他の人達も……」
「うん! きっと僕と同じだよ、マリア・ナルシトに脅迫されたんだ!」
 クライム君が荒い口調で言い切る。
 因みに今、僕がいるのはシュミット君のお家だ。大きさは僕の家よりちょっと小さい位。少し古そうだけどお手製のクッションや家族の肖像画とか飾られていて暖かい雰囲気のある良いお家だ。
ヒューを僕が拾ったと知った彼のご家族は、ボロボロと涙を流しながら僕に何度も御礼を言ってくれた。怪我の事も言わなきゃと思ったので、“酷いヤケドをしていた”事は話した。ただ……治療をしたのは偶然通りかかった人、って事にしたけれど。
 それよりも僕が動揺していたのは、新たな事実について、だった。
「まさか……マリアが、人を脅迫するなんて……」
 僕の知っているマリアは、そんな事はしない。
だって僕に言ってくれたから。“カヤラにはカヤラの良いところがある”って。
なのに、何で……そんな風になったんだ……?

 ただただショックでどんなリアクションも出来ない僕に、シュミット君がたまりかねたように大声で言った。
「オリガ君もう少し怒れよ!! あのマリアってヤツは君を利用するだけ利用して、挙げ句に濡れ衣まで着せて婚約破棄させようとした悪人だぞ!! しかも王太子様達まで騙す最低の――」
「止めなさい、シュー」
怒りまくるシュミット君を、止めたのは彼のお父さんだ。てっきり自分と同じと思っていたお父さんの制止に驚いている。
「何で!」
「我々にとっては悪人でも、カヤラ君にとってはずっと大事に思っていた婚約者だ。いきなり気持の切り替えなどは出来ん。――はあ……ナルシト嬢は誠に短慮な事をしたものだ」
「そうでしょうか……?」
僕から見ても王太子殿下達は魅力的だ。そんな人達とずっと一緒にいたら僕なんて霞むのが当たり前だ。
「…………」
黙り込んでしまった僕を、シュミット君のお父さんは困ったように見て、それでも大きな手を肩に乗せてくれた。

「少なくとも私は、君が劣っているとは思わない。自分を責めるのは止しなさい」
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