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「利用しても良い」
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す、すごい……これが高位貴族か……。
怒り心頭状態の上位貴族3方を前に、ラッセン嬢はまるで動じる様子もなく応酬している。
「もう少し慎重さが必要と言いたいのです。そもそもモラル・ハラスメント自体の定義が難しいのですから」
悪気がなくて言った言葉でも、受け取る方が傷付けば有罪。
暴力ではない、形の無い言葉であるだけに特定は難しい。
「ですのでこちらでも情報を入手させて頂きたいですわ。皆様の中で、こちらのお2人と同じクラスの方はいるかしら? 以前でもよろしくてよ」
取り囲む人混みにラッセン嬢が声をかけるけど、やっぱりというべきか、誰も答えようとしない。
「やれやれ……。では質問を変えましょう、普段のマリア・ナルシト嬢とカヤラ・オリガさんを知っている方はいて?」
それでも発言しようとする動きは無い。でもラッセン嬢には想定内だったみたいで、ただ肩をすくめただけだ。そして一言。
「……良いのかしら? このままにしておいて」
前置きしてから、周りを見回し隅々まで聞こえる程の声を張った。
「……今なら、言い出した者として私が責任をとれますけど、もし仮にナルシト嬢が側妃にでもなられたら今後皆様は何も言えなくなりますわ。一国のトップに影響を与える権利をナルシト嬢に認められた。そう取れます。ですからこれは最後のチャンスかも知れませんわよ?」
ザワッと場が乱れる。
明らかに空気が変わった。お互いの顔を見る人、俯いて考え込む人……。戸惑っているのが分かる。
――でもこれは、ラッセン嬢の言葉がもとで――
「待って下さい! 僕の事なんかでラッセン嬢がせ、責任なんて……!」
こんな事になったのは、僕が弱いせいなのに! と止めようとした口は、開いた扇で遮られた。
同時に耳元に顔を寄せられる。ラッセン嬢がすぐそこにいる。フワッて柑橘系の香りがして、こんな時なのにドキッとした。
「……ザッカート様の言葉通り、今は遠慮なんかしている場合ではありませんわ。何でも使えるものは利用しなければ。それに……『解決出来ない問題が起きた時、人の手を借りるのは悪い事では無い』のではなかったかしら?」
「え?」
呆然とした僕に、ラッセン嬢は悪戯っぽい顔でニヤリと笑った。
それは僕が……“あの子”に言った言葉。
今世で出会った、前世にもいなかった感情を共有出来た女の子。
でも、なぜ彼女が……それを知ってるんだ?
やがて恐る恐そる……って感じで、1人の令嬢が手を上げた。
彼女は確かヒルデ嬢。マリアが一時期よく一緒にいた友達だ。
なら僕の味方は、してくれないだろう。不安が増している僕をよそに、
「あなた、発言して頂けるの? お名前をお聞きしてもよろしいかしら」
「ふぇ!? ……ヒ、ヒルデ……ヒルデ・クリスです!!」
自分より高位のご令嬢に笑いかけられたからか、ヒルデ嬢はテンパっているようだ。そんな彼女に笑みを浮かべているラッセン嬢。
「ふふ、素敵な名前ね。……何か仰りたいことがあるのね?」
「……そ、その……」
迷っていたけど、やがて思い切ったように顔を上げる。
「私は、その……オリガ君がナルシトさんにモラハラしている処は見た事はありません……」
「見ていないところでしていたからだ」
シャーマンティ様が決めつける。
その声に、ヒルデ嬢はビクッと飛び跳ねる。けど再び口を開いた。
「で、ですけど……っ」
そこで一旦切れる。目が集中している中だからかなかなかうまく言葉が出ないようだ。
でも――ギュッと目を瞑って顔を上げる。そして、
「……モラハラ、は確かに悪いですけど……。ナルシトさんは……たまにそんな事を言われる位は仕方ない、って思う時はあります!」
大きく声を張り上げた。
怒り心頭状態の上位貴族3方を前に、ラッセン嬢はまるで動じる様子もなく応酬している。
「もう少し慎重さが必要と言いたいのです。そもそもモラル・ハラスメント自体の定義が難しいのですから」
悪気がなくて言った言葉でも、受け取る方が傷付けば有罪。
暴力ではない、形の無い言葉であるだけに特定は難しい。
「ですのでこちらでも情報を入手させて頂きたいですわ。皆様の中で、こちらのお2人と同じクラスの方はいるかしら? 以前でもよろしくてよ」
取り囲む人混みにラッセン嬢が声をかけるけど、やっぱりというべきか、誰も答えようとしない。
「やれやれ……。では質問を変えましょう、普段のマリア・ナルシト嬢とカヤラ・オリガさんを知っている方はいて?」
それでも発言しようとする動きは無い。でもラッセン嬢には想定内だったみたいで、ただ肩をすくめただけだ。そして一言。
「……良いのかしら? このままにしておいて」
前置きしてから、周りを見回し隅々まで聞こえる程の声を張った。
「……今なら、言い出した者として私が責任をとれますけど、もし仮にナルシト嬢が側妃にでもなられたら今後皆様は何も言えなくなりますわ。一国のトップに影響を与える権利をナルシト嬢に認められた。そう取れます。ですからこれは最後のチャンスかも知れませんわよ?」
ザワッと場が乱れる。
明らかに空気が変わった。お互いの顔を見る人、俯いて考え込む人……。戸惑っているのが分かる。
――でもこれは、ラッセン嬢の言葉がもとで――
「待って下さい! 僕の事なんかでラッセン嬢がせ、責任なんて……!」
こんな事になったのは、僕が弱いせいなのに! と止めようとした口は、開いた扇で遮られた。
同時に耳元に顔を寄せられる。ラッセン嬢がすぐそこにいる。フワッて柑橘系の香りがして、こんな時なのにドキッとした。
「……ザッカート様の言葉通り、今は遠慮なんかしている場合ではありませんわ。何でも使えるものは利用しなければ。それに……『解決出来ない問題が起きた時、人の手を借りるのは悪い事では無い』のではなかったかしら?」
「え?」
呆然とした僕に、ラッセン嬢は悪戯っぽい顔でニヤリと笑った。
それは僕が……“あの子”に言った言葉。
今世で出会った、前世にもいなかった感情を共有出来た女の子。
でも、なぜ彼女が……それを知ってるんだ?
やがて恐る恐そる……って感じで、1人の令嬢が手を上げた。
彼女は確かヒルデ嬢。マリアが一時期よく一緒にいた友達だ。
なら僕の味方は、してくれないだろう。不安が増している僕をよそに、
「あなた、発言して頂けるの? お名前をお聞きしてもよろしいかしら」
「ふぇ!? ……ヒ、ヒルデ……ヒルデ・クリスです!!」
自分より高位のご令嬢に笑いかけられたからか、ヒルデ嬢はテンパっているようだ。そんな彼女に笑みを浮かべているラッセン嬢。
「ふふ、素敵な名前ね。……何か仰りたいことがあるのね?」
「……そ、その……」
迷っていたけど、やがて思い切ったように顔を上げる。
「私は、その……オリガ君がナルシトさんにモラハラしている処は見た事はありません……」
「見ていないところでしていたからだ」
シャーマンティ様が決めつける。
その声に、ヒルデ嬢はビクッと飛び跳ねる。けど再び口を開いた。
「で、ですけど……っ」
そこで一旦切れる。目が集中している中だからかなかなかうまく言葉が出ないようだ。
でも――ギュッと目を瞑って顔を上げる。そして、
「……モラハラ、は確かに悪いですけど……。ナルシトさんは……たまにそんな事を言われる位は仕方ない、って思う時はあります!」
大きく声を張り上げた。
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