この世界のスキル・アイテム“オリガミ”の秘密は僕だけが知っている

みけの

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形勢逆転!

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 なんで、ラッセン嬢が?
僕のいる位置だと、顔を見るのは難しい。にも関わらず彼女と確定出来るのは、背格好もあるけど、まずは着ているドレスからだ。月明かりと街灯のおかげで確認出来る。

 違う布を巻きつけただけのように見えるけど、その質感を巧みに生かした作り。
今日履いているのはブーツではなく厚底のサンダルだ。僕は前世の記憶で見た、ジダイゲキのオイランドウチュウを思い出す。けどその髪は、よほど暴れた後なのかザンバラで。目にした途端勝手にゾクゾクと駆け抜けた快感に、思わず両手で口を覆ってしまった。
――綺麗だ。
 ……って、何を考えてるんだ僕は。今はそれどころじゃない!
ブンブンッと頭を振り気を取り直し、状況を確認してみる。
 この公園は大通りからやや外れた場所にあり、観光を楽しむより、近所の子供達のたまり場に使われる程度の規模だ。立派な馬車が止まっていて、車体に多分ラッセン家のものらしき家紋が金色に輝いている。
 公爵家なら、馭者や警護の騎士がいるはず。なのに今確認出来るのはラッセン嬢と彼女を襲った賊と、人質に取った侍女だけ。……賊にやられたか、もしくは賊と繋がっていたのか。なら人質も仲間という可能性もあるけど。
警備の兵士に来てもらおうか。でも彼らの詰め所はここより遠いし、巡回しているのを探す手間がかかる。
 そして今の状況。ラッセン嬢は人質を取られてるから、身動き出来ないだけだ。
 ならば――!
体を低くし、彼らの目に入らないように注意しながら移動する。幸い小さい公園には、身を隠せる場所が結構ある。
 そして……オブジェの一つの影に身を潜ませ、オリガミを出した。作るのは毎日のように折っているおかげで、ほぼ秒で出来る紙飛行機。
 飛行機と意味づけられていても、その機能は全く役に立たない。乗せて飛んで運べるのはせいぜい鉛筆1本程度。――でもこれが、別の意味で役に立つ。
僕は魔力を込めて、飛行機を飛ばした。賊のナイフを握った手めがけて。魔力で強化されてる分、スピードの上がったそれは真っ直ぐ暗殺者へと――。
「うわっ!?」
でも惜しいことに暗殺者に当たったのは、尖った先っぽではなく羽の部分だった。でもダメージとしては十分。紙で切るとかなり痛いし。
ヤツは腕を抱え、しゃがみ込む。その隙を縫って、人質はヤツから逃げ出せた。そのタイミングを逃さず、令嬢が瞬く間に肉薄する。抵抗する間もなく
「――っ!?」
後はもう、敵側だけに悲惨な光景が出来ただけだ。
僕は木陰で見届け、密かにガッツポーズをした。

やったー! 形勢逆転!

今日はちょっと嫌な事があったけど。こうやって人助けが出来たのは、本当に良かった。
少しだけ浮上した気分で、家路についた。


――僕が消えた方向を、ラッセン嬢が見つめているのに気付かないまま。
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