モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの

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ゲームイベントの裏で

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 「お兄さん、おねえ……あのお嬢さんに絡んでた人達のお仲間でしょう? いけませんよ裏切るなんて」

 お義姉さんが絡まれた時。
周りの反応は様々だった。助けを呼ぶべきかと躊躇する人、いつもの事と流す人、さて、どうなるかと傍観する人……。
その中で1人、違う反応をしたのがこの男だ。ほんの一瞬、彼らを見る目が冷静だった。あたかもそれが起きる事を知っていたような表情。
 私はどこに行く時も、まずその場の状況を把握するように、と教えられた。師匠に。

 “本当なら、アンタと同じ年のガキには出来ない。でもアンタなら出来ると思うから言うんだ”
 そう言う師匠の顔に、切実な思いを感じ取る。
“いいか、チヨ。あたしはアンタよりも年上だ”
それを聞いた時はただ頭の中で肯定しただけだった。だって本当にそうだから。
――でも次の言葉でそれは変わる。

“だからそれは……アンタよりもずっと誰かと関わっている、って事だ。つまりそれほど恨みや妬みを受けている。戦闘狂だとか噂する奴らは、あたしをただの狂人としか見ない。そんなあたしを目障りな汚点として、処理しようとする奴らもいるんだ”
“!!”

処理!? 師匠を処理?
 私の顔が、自分でも分かる程にへにゃ、と歪んだのに気付いたのか、
『ま・こっちもむざむざやられたりはしないって。でもお前もあたしといるからには、ちゃんと身につけときな』
カラカラと笑って頭をポンポンしてくださった。

……当然、言われたことは次から全身にクセづけた。

 私は屈んで男を観察する。身なりは良く、力仕事はしていないようだ。手が柔らかく爪さえも綺麗に整えられている。……荒事は人に任せ、指示だけするタイプか。
「な、何を証拠に? ああっ!!」
言い逃れようとしたけど、その懐に素早く手を入れ、隠していたモノを目の前に示す。
「ターゲットの顔写真なんて証拠は、持ち歩かず早急に処分するものです」
「……ぐっ!」
 彼が持っていたのは……写真だ。
何と、この世界にもカメラがある。ただし動力はデンキ? ではなく魔力だ。加えて前に住んでいた処にあった、薄い板のようなス? かタ? と付くモノとは違い仰々しい。分厚い上に重く、上にある小型突起を押して写すものだ。更に紙面にするには専門家の手を借りねばならずゲンゾウ? に時間がかかるらしい
そこに映っているのはお義姉さん。そこまでは想定していた。……けど、
「……ずいぶん近くで撮ってるねぇ」
「……師匠もそう思われますか」
 てっきり隠し撮りと思っていたのに。

 それは観光地らしい場所で撮られたようだ。お義姉さんが花畑をバックに笑顔を浮かべている。自分を撮ろうとしている相手に、完全に心を許している笑顔だ。
……よほど親しい間柄でないと撮れない。
 言いくるめたとか盗んだという可能性もあるけど、見とがめられるリスクを考えたら隠し撮りの方が楽だろう。その事も含めて――おかしい。
でもその疑問は後で良いだろう。今は他に聞きたいことがある。
「誰に頼まれました?」
「べ、別に誰もいない。お、俺があのチンピラ共に頼んだんだ……、あの子を連れてきて欲しい、って」
「……何が目的で?」
 一応問いかけるけど、答えは予想がついていた。義姉の知識を利用しようとした者の仕業だろうと。
でも相手の答えは、私の予想と大幅に違っていた。

「う……うちで、働かせようと……」
「?」
あれ?
 ……何か、平和的で意外過ぎる。
つまりこの男はどこかの劇団の関係者で、お義姉さんの可愛さに目をつけてスカウトしようとした……の、か?
あれ? でもさっきのチンピラ達は役者には見えなかったけど……?
「チヨ、交替」
ハテと考え込んでいたらポン、と肩を叩かれる。そして師匠はずい、と男の前に出てから――。ドカッ! と横の壁を蹴った。ヒッ! と悲鳴を喉に貼り付かせ、男は引きつった顔で師匠を見上げたまま固まる。
「あたしは気が短い。……アンタ確か奴隷商人だろう? 裏のオークションで面見た事がある」
ゆっくりと、恐怖を感じる低い声だ。その恐怖の余波を感じながら痛感する。
……やはり師匠はすごい。私じゃまず、見下ろす事自体が出来ない。
「……そう言えば最近、女をさらっては闇で売りさばいている組織があるそうだが……」
師匠が思いついたように言うと、男は慌てたように喚きだした。
「ち……違う! 確かに俺らは奴隷商人だが、そんなんじゃない!!」
「へぇ? ならどうしてあの娘に近付いたのさ」
問いかけに男は逡巡していたが……かすれた声でぼそり、と言う。
「た、頼まれて……」
「誰に!?」
私も師匠の後ろから男を凝視する。誰が一体、お義姉さんを……?
 男はそこまで言ってもまだ、躊躇していた。けれどドンドン師匠の威圧が増すのに耐えきれなかったのか、悲鳴を上げるように叫んだ。

「――――――!」

「…………え?」

 一瞬、周り全ての音が消えた。

 正直、そうかも知れないという気持はあった。以前の私なら納得していただろう。
なのにまさかと思ったのは、公爵邸で過ごす日々で私が少なからず変わったせいだ。
 でも確かに……私の耳にはこう聞こえた。

「だ……男爵に、ケ、ケーチャー男爵に、頼まれたんだぁ!」
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