1 / 15
プロローグ~港から~
しおりを挟むその日最終の船が出航しかけた時、船着き場にいた船員は遠くから砂煙を上げて走ってくる馬車に気付いた。
豪華な作りに馬も立派なそれの、車上に光る紋章が見えた瞬間、船員の顔に緊張が走る。
「お、王家の馬車が、こっちに来ます!!」
王家の方が乗船するなんて連絡は受けていないので、慌てて報告に行く。だが、
「来たか」
船長は落ち着いた様子で、頷いた。
馬車は船着き場のギリギリのところで停止する。
中から豪華な仕立ての服を着た男が顔を出した。まだ20歳位だろう。素は美形なのだろうが、血走った目と青を通り越して白くなった顔面が裏切っている。
男は怯えるようにキョロキョロと辺りを見回しながら、恐る恐る配下であろう男に訊いた。
「ア……アイツは、来ていないだろうな……?」
「アイツとは、どなたの事でしょう?」
「アイツはアイツだ!! 私の元婚約者の……!」
言いかけたその時、
「あ・あんな処から馬車が来る」
馭者が遠方を指さした途端ヒッ! と悲鳴を上げる。そんな様子に気付かず、
「豪華さから見て、貴族のどなたかでしょうね。おや? あれはスタン公爵家……?」
「ひいいい!!!」
男の追い詰められたかのような絶叫が、辺りに響き渡った。
「これは王太子殿下。本日は――」
とお決まりの挨拶を述べようとする船長を遮り、その胸元を掴んで男――王太子だったらしい――は叫ぶ。
「船に乗せろ! 乗せてくれ!!」
「ちょうどロイヤルルームが空いております」
「案内しろ!!」
案内しろと言いながら、船員を待たずに悪鬼から逃れるように乗り込んでいく王太子。
それを見送った後、配下は船長に告げた。
「よろしく頼む」
「かしこまりました」
王太子を乗せた船が動き出し見送った後――。
配下と馭者らはその場に起立したまま、しばらく見送っていたが……。
突如、拳を天にあげ、快哉の叫びをあげた。
「っしゃあ――!!!」
0
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ヴァカロ王太子のおもてなし ~目には目を、婚約破棄には婚約破棄を~
玄未マオ
ファンタジー
帝国公女アレンディナの婚約者は属国のヴァカロ王太子であるが、何かと残念な人だった。
公務があるので王宮に戻ってくるのはその日の夕方だと伝えているのに、前日やってきた義姉夫婦のおもてなしのサポートをしなかったアレンディナをけしからん、と、姉といっしょになって責め立てた。
馬鹿ですか?
その後『反省?』しないアレンディナに対する王太子からの常識外れの宣言。
大勢の来客がやってくるパーティ会場で『婚約破棄』を叫ぶのが、あなた方の土地の流儀なのですね。
帝国ではそんな重要なことは、関係者同士が顔を合わせて話し合い、決まった後で互いのダメージが少なくなる形で発表するのが普通だったのですが……。
でも、わかりました。
それがあなた方の風習なら、その文化と歴史に敬意をもって合わせましょう。
やられたことを『倍返し』以上のことをしているようだが、帝国公女の動機は意外と優しいです。
とある婚約破棄に首を突っ込んだ姉弟の顛末
ひづき
ファンタジー
親族枠で卒業パーティに出席していたリアーナの前で、殿下が公爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。
え、なにこの茶番…
呆れつつ、最前列に進んだリアーナの前で、公爵令嬢が腕を捻り上げられる。
リアーナはこれ以上黙っていられなかった。
※暴力的な表現を含みますのでご注意願います。
悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい
花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。
仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる