56 / 76
なんとツートップ、転生者でした
しおりを挟む
“ギャルゲー”は、アーリアが前世でいた世界の言葉だ。
それを知っていると言うことは、つまり……。
俺の言いたいことを理解して頂けたようで、シン殿下は頷く。
「そう。お二方もアーリアと同じ、転生者だったんだ」
「わたくし達は前世で、オタ友だったの♪」
「よくコミケで顔を合わせていたな。君のブースの店番をしたこともあった」
何やら意味の分からない単語を羅列しつつ、昔話で盛り上がる王国のツートップ。
その子供世代達は、ただボーッと、彼らを見ているだけだ。
「貴男の原稿の手伝いをしたこともあったわ! 女にロリイラストの色塗りさせる男なんて貴男くらいよ! はぁー、あの頃はホンットーに私を、女扱いしてなかったわね……」
「いやいやあれは悪かったって! ……でもそのおかげで締め切りギリギリで搬入出来たんだから感謝したよホント!」
砕けた様子で、思い出話に花を咲かせている国王夫妻。普段、威厳を漂わせている姿しか知らない分違和感がすごい。しかもその内容がほぼ、分からない単語ばかりだ。
そこでやっと、子供達の目が驚きで点になっているのに気づいた2人は素早く居住まいをただした。
「こほん! ご、ごめんなさい。つい昔話にハマってしまったわ。あれは……夏の暑い日だったかしら。突然出て来た男に、包丁で刺されて殺されたの。2人共」
「変質者だったんだろうな。私も君も知らない奴だったし我々だけではなかったから。……とにかく、そんな感じで私達はあの男のいた世界の事を多少知っている。“ギャルゲー”、“攻略対象”。程度の知識ならな。……しかし……」
そこで2人の顔が苦渋に歪む。
「……アーリアが主人公なら、強制力や補正やらで守られている可能性は予想出来た。……でも……侮っていた。そのせいでステラは……!」
それを見ていた者達は即座に理解した。“強制力”や“補正”と呼ばれる力が、どれほど非常識に強いのか。
それでもそれらを、自分達は絶対に潰す必要があること、を。
沈黙の中、シンが2人の前に進み出た。そして胸に手を当てて、頭を下げる。
「女王陛下、王配殿下。
あの男の処分は、どうかこの、シン・ヤマトノにお任せ頂けませんでしょうか?
あの者はこの国の女性達を、ただの駒扱いにして玩んでいます。彼女らの事情も考えずに。今以上に被害が増える前に処分しなくてはなりません」
「…………うむ」
シンの言葉に王配は黙考する。その頭に浮かぶのは、前世でのゲームの知識だ。
アーリアがプレイしていたギャルゲーの内容自体は知らない。が、他のゲームの知識を持っている。
その中には、攻略対象が、人間以外なものも……あった。
魔王とか精霊とか、それ以上の……神の眷属さえも。
…………冗談ではない。
その考えに至って、王配も女王も頭の中で毒づいた。
何してくれてるんだゲーム制作会社! もしくは運営! ニーズに応えるのも限度があるぞ!! いや、楽しかったかと訊かれたら、ものすごく面白かったとしか応えようがないが……、まさかあの時、自分達がその世界に転生するなんて、思うはずないだろう!!
ゲーム画面の長文に飽きてきた頃、スキップ機能を“わー便利”とほいほい使っていた前世の自分をぶん殴ってやりたい。ちゃんと覚えておけよ!! そしたら娘達を犠牲にしなくて良かっただろうに!!
「そして、それらよりもなお――ステラを傷付けた事、絶対に償わせたいのです」
そして……娘をこれほど大事に思ってくれている青年に、迷惑をかけることも、無かっただろうに。
しかし……今の自分達には、彼の協力が不可欠だ。故にその言葉に甘えることにする。
「ありがたくお力をお借りする。我が国の不祥事に巻き込んでしまい、誠に申し訳ないが……。どうかあの主人公……いや、男爵令息アーリア・コーニーの暴走を止めて頂きたい。……よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します」
女王と王配が、同時に頭を下げた。その光景に周りにいた侍女や侍従達も、ザワッと気色ばむ。
第3王女もその1人だった。この国のトップである両親が……頭を下げる?
“このカルティ王国の王族たるもの、威厳を示さなくては”
“誰彼ともなく低姿勢でいてはいけない”
そう、教育されていたのに……?
それだけ事態が深刻なのだと、彼女の立場からは想像も出来ないだろう。
彼女こそが“攻略対象”。……両親曰く“ゲームの駒”なのだから。
そんな彼女らをよそに、王族達の話し合いは進んでいく。
「資金もいくらかかっても構わない。その都度申請して下さい」
「いえ……。資金面はこちらで都合出来ます。限度を超えればお願いするかも知れませんが……。それ以上に必要なのは人材です。
僕は所詮他国の王子。この国の民の信頼を得るのは難しい」
ヤマトノ国。
かつて異世界召喚された勇者達が王族の国。
それが故に文明が発展している事に、評価する者もいれば反面、反発する者もいる。
どこでも裏もあれば表もあるのだ。例えシンが友好国の王子だと名乗っても、心からの信頼を得るのは難しい。
とそこで彼は、1人の人物の名前を挙げた。
「そこで私は……レオン・マクガイヤに協力を要請しようと思っております」
それを知っていると言うことは、つまり……。
俺の言いたいことを理解して頂けたようで、シン殿下は頷く。
「そう。お二方もアーリアと同じ、転生者だったんだ」
「わたくし達は前世で、オタ友だったの♪」
「よくコミケで顔を合わせていたな。君のブースの店番をしたこともあった」
何やら意味の分からない単語を羅列しつつ、昔話で盛り上がる王国のツートップ。
その子供世代達は、ただボーッと、彼らを見ているだけだ。
「貴男の原稿の手伝いをしたこともあったわ! 女にロリイラストの色塗りさせる男なんて貴男くらいよ! はぁー、あの頃はホンットーに私を、女扱いしてなかったわね……」
「いやいやあれは悪かったって! ……でもそのおかげで締め切りギリギリで搬入出来たんだから感謝したよホント!」
砕けた様子で、思い出話に花を咲かせている国王夫妻。普段、威厳を漂わせている姿しか知らない分違和感がすごい。しかもその内容がほぼ、分からない単語ばかりだ。
そこでやっと、子供達の目が驚きで点になっているのに気づいた2人は素早く居住まいをただした。
「こほん! ご、ごめんなさい。つい昔話にハマってしまったわ。あれは……夏の暑い日だったかしら。突然出て来た男に、包丁で刺されて殺されたの。2人共」
「変質者だったんだろうな。私も君も知らない奴だったし我々だけではなかったから。……とにかく、そんな感じで私達はあの男のいた世界の事を多少知っている。“ギャルゲー”、“攻略対象”。程度の知識ならな。……しかし……」
そこで2人の顔が苦渋に歪む。
「……アーリアが主人公なら、強制力や補正やらで守られている可能性は予想出来た。……でも……侮っていた。そのせいでステラは……!」
それを見ていた者達は即座に理解した。“強制力”や“補正”と呼ばれる力が、どれほど非常識に強いのか。
それでもそれらを、自分達は絶対に潰す必要があること、を。
沈黙の中、シンが2人の前に進み出た。そして胸に手を当てて、頭を下げる。
「女王陛下、王配殿下。
あの男の処分は、どうかこの、シン・ヤマトノにお任せ頂けませんでしょうか?
あの者はこの国の女性達を、ただの駒扱いにして玩んでいます。彼女らの事情も考えずに。今以上に被害が増える前に処分しなくてはなりません」
「…………うむ」
シンの言葉に王配は黙考する。その頭に浮かぶのは、前世でのゲームの知識だ。
アーリアがプレイしていたギャルゲーの内容自体は知らない。が、他のゲームの知識を持っている。
その中には、攻略対象が、人間以外なものも……あった。
魔王とか精霊とか、それ以上の……神の眷属さえも。
…………冗談ではない。
その考えに至って、王配も女王も頭の中で毒づいた。
何してくれてるんだゲーム制作会社! もしくは運営! ニーズに応えるのも限度があるぞ!! いや、楽しかったかと訊かれたら、ものすごく面白かったとしか応えようがないが……、まさかあの時、自分達がその世界に転生するなんて、思うはずないだろう!!
ゲーム画面の長文に飽きてきた頃、スキップ機能を“わー便利”とほいほい使っていた前世の自分をぶん殴ってやりたい。ちゃんと覚えておけよ!! そしたら娘達を犠牲にしなくて良かっただろうに!!
「そして、それらよりもなお――ステラを傷付けた事、絶対に償わせたいのです」
そして……娘をこれほど大事に思ってくれている青年に、迷惑をかけることも、無かっただろうに。
しかし……今の自分達には、彼の協力が不可欠だ。故にその言葉に甘えることにする。
「ありがたくお力をお借りする。我が国の不祥事に巻き込んでしまい、誠に申し訳ないが……。どうかあの主人公……いや、男爵令息アーリア・コーニーの暴走を止めて頂きたい。……よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します」
女王と王配が、同時に頭を下げた。その光景に周りにいた侍女や侍従達も、ザワッと気色ばむ。
第3王女もその1人だった。この国のトップである両親が……頭を下げる?
“このカルティ王国の王族たるもの、威厳を示さなくては”
“誰彼ともなく低姿勢でいてはいけない”
そう、教育されていたのに……?
それだけ事態が深刻なのだと、彼女の立場からは想像も出来ないだろう。
彼女こそが“攻略対象”。……両親曰く“ゲームの駒”なのだから。
そんな彼女らをよそに、王族達の話し合いは進んでいく。
「資金もいくらかかっても構わない。その都度申請して下さい」
「いえ……。資金面はこちらで都合出来ます。限度を超えればお願いするかも知れませんが……。それ以上に必要なのは人材です。
僕は所詮他国の王子。この国の民の信頼を得るのは難しい」
ヤマトノ国。
かつて異世界召喚された勇者達が王族の国。
それが故に文明が発展している事に、評価する者もいれば反面、反発する者もいる。
どこでも裏もあれば表もあるのだ。例えシンが友好国の王子だと名乗っても、心からの信頼を得るのは難しい。
とそこで彼は、1人の人物の名前を挙げた。
「そこで私は……レオン・マクガイヤに協力を要請しようと思っております」
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる