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もう、未来の義弟ではありません・2

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「よお兄ちゃん! ずいぶん良い仕立ての服着てんじゃねぇか!」
しばらく本通りを歩いていると、野卑な大声が耳に飛び込んできた。
 声のした方を見ると、道の片隅で、数人の巨漢が1人の人物を取り囲んでいる。俺は間に入ろうとしたが、その寸前でピタリと止まった。
「…………え?」
絡まれているのは小柄な男性だった。筋肉と全く無縁なのがモロ分かりの細い体と低い背丈。顔立ちは童顔で、可愛いともいえるが同時に、頼りない印象を受ける。
 ――って、そうじゃなくて、何であの方がこんなところに……?
動揺する俺とは正反対に、彼は自分を見下ろすチンピラ達を前に緊張するでもなくのほほんとした表情で見上げた。
「服をお褒めいただき、恐縮です。これは我が国の特産である織物を使っているのです」
うん、確か“ニシジン”とか言うんだ。……って、そうじゃなくて! あの声、やっぱり彼は…………。
「ふぅん。……なぁ兄ちゃん、俺達貧乏でさぁ……いくらか貸してくんねぇか?」
「で、その高そうな服もついでに、置いて行ってくれると嬉しいんだがな……」
ゆっくり低めの口調は、相手の恐怖心を煽るようだった。いや普通の人ならこれだけで、怯えて否応もなく彼らの言うままに身ぐるみ置いて行くだろう。そんな理不尽が行われようとする状況で。
「だ、誰か、警備兵呼べよ……」
おどおどとした小さい声が、どこかで聞こえるが……言った本人は何もする気が無いようだ。
……だが、それで良い。
 力の無い一般人は、そこまででも良い。……それ以上の介入は不要だから。
 そんなものは必要ない。――あの方なら、余裕だ。
俺の思いを裏付けるように、彼は男達にニコッと笑った。
 「貸して上げても良いけど……借用書は書いてもらわないとね?」


 「は、はぁぁぁー!?」

「それが出来ないなら……僕のお仕事を手伝ってもらうことになるかな? あぁ……対したことじゃないよ。ほんの数分、恐怖と絶望と死にたくなる位の苦しみを味わうだけの、簡単なお仕事だから♪」


――この言い方……まさにあの方だ。
俺は彼らに近寄っていく。
「舐めやがって!……ぐぅっつ!?」
掴みかかろうとした男の前に入り込み、俺は太く毛深い腕を掴んだ。そのまま上に捻り上げる。
「…………っ」
「な、何だてめぇ! 関係無い奴はすっこんでろよ!!」
「兄貴の腕を放せよ! 死にてぇのか!?」
 突然割り込んできた俺に、他のチンピラ達が凄んできた。が、行動と真逆に、その体はガクガクと震え、怯えた表情を浮かべながら無意識に後じさっていた。まぁ兄貴分をこっちは拘束しているんだからそうなるな。と頭の中で分析しつつ、彼らに
「今日は国あげてのめでたい日だ。つまらない事考えずに、さっさとこの場から消えるんだな。そうすれば忘れてやる」
告げると同時に、ひねり上げていた腕をパッと放した。突然拘束から解けた体は呆気なくその場に座り込む。その有様に先程発していた威圧はみじんも感じられない。
「あ、兄貴……」
おどおどと近寄る子分達に腕をとられ、ゆっくりと立ち上がる。介護されるご老人のようだと思っていたら、やっと立ったところでこちらをギロリと睨み付けて、
「覚えてやがれ!」
「今度は覚悟しとけよ!!」
と捨て台詞を残し、去って行った。


 逃げ去る男達の背中を見守る俺は、少し理不尽な気持だった。
「せっかく助けてやったのに」
言っておくが冗談ではない。ついでにいうとこの見た目貧弱青年の言ったことも冗談ではない。彼がいうところの“ほんの数分、恐怖と絶望と死にたくなる位の苦しみを味わうだけの、簡単なお仕事”に、巻き込まれた経験があるからだ。
 見た目は軟弱眼鏡の小男だが実際は魔王クラスの魔力を持ち、本人も魔法を研究している魔術オタク。そして研究には当然、実験がかかせないので……。周りの人間が被害にあうのはもはや周知の事実だ。俺を含めて、経験した人間はすぐさま周り右からの猛ダッシュが基本知識である。
 出来れば忘れていて欲しい。と言うか、俺が今平民な事など知らないから、案外忘れてくれているかも……。
「まさか、こんなところで会えるとはね! 久しぶりー未来の義弟くん♪ 僕がシンお兄ちゃんだよ!」
「もう、未来の弟ではありません…………」
――覚えていやがったか。
……いかん、思わず本音が漏れてしまった。
そう。彼こそがこのカルティ王国第2王女の婚約者で、ヤマトノ国の第3王子・シン・ヤマトノだった。
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